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 おもしろくない。
 毎日が退屈で、くだなくて、いらついていた。
 それは親友と彼氏を同時に無くしたあの日からずっとだった。
 そう、彼氏が親友とわたしとを二股をかけていたのがわかったあの日から。
 彼氏は外見も良く、学校の生徒で知らないのはもぐりだってほどの有名人だった。
 わたしも得意な気分になっていて、それなりに多い友達に会うたびに自慢をしていた。
 思いかえせばあのときのわたしは、確かに調子に乗っていただろう。
 やがて手痛いしっぺ返しがやってくる。
 おとなしくてわたしの後をついてくるような子だった親友のゆっこと、彼氏がつきあっていたのだ。
 二股をかけていることにも当然怒ったが、わたしとつきあっていると知っていながら彼氏の二股を受け入れた親友が信じられなかった。
 あとでわかったことによると、周囲では周知の事実だったらしい。
 調子に乗っていたこともあり、わたしは影で周囲から失笑を受けていたのだ。
 そんなことを知って、もう彼氏とつきあえる訳が無い。
 なおも言い訳がましい彼氏に別れをつきつけ、その怒りの矛先を親友に向けた。
 彼女は最初の方は「つい出来心が」とか「格好良いからわかっていても断れなかった」と涙声で許しを請うていた。
 怒りが収まらないわたしがなおも責め立てると、突如人を見下したような冷淡な表情でわたしを見据えた。
 その豹変ぶりに彼女は知らない間に誰かと入れ替わったのではと疑ったほどだ。

「ずっと調子にのっているからよ。そんなだから嫌気をさされるの」

 勝ち誇ったゆっこは、わたしの知らない人間だった。
 親友はいつからいなくなっていたのか。それともそう思っていたのはわたしだけだったのか。
 その日からわたし達は袂を分かつこととなった。
 とはいっても彼女はわたしの後についてくるような子だったので、交友関係は非常に近い。
 事情は知れわたっていると考えていいだろう。
 同情されるのはいやだったし、何人かがこの事情を知っていたのに素知らぬ顔で友達を続けていたことに対して人間不信になっていた。
 しばらく一人で過ごしたいと思い、いらつくままに街を歩き回っていた。
 そして街の古くささに更に腹を立てていた。
 そんな状態でなければ、気まぐれにあの路面電車に乗ろうなんて思いもしなかっただろう。
 電車に乗ってたどり着いた駅で、わたしは信じられない体験をした。
 路面電車がつながったパラソル世界。
 誰もわたしの姿が見えず、そしてわたしを知る二人の男の子。
 帰ってからも興奮が冷めず、その日は一晩中眠れなかった。
 翌日は睡眠不足にかかわらず、とても心がすっきりしていた。
 そもそもなぜわたしはこんな些細なことで悩み、つっけんどんな態度をとっていたのだろうと恥じたぐらいだ。
 自分の中にあるトゲが取れると、後は自然に元に戻っていく。
 半月も待たずに仲の良い友人達と前のように過ごすようになっていた。
 違うところがあるとすれば、その輪の中にかつて親友と呼んでいたゆっこがいないことか。
 あのときはわたしが悪かったと反省しているし、今思うと格好いいだけでつきあっていたけど、そんなに彼氏のことは好きではなかったのだと思う。
 だけど例の彼氏に別の彼女ができたという話を人づてに聞いた。
 元より複数とつきあっていたのか、新しくつきあいはじめたのかはわからない。
 だが結局わたし相手に勝ち取ったと思った彼氏と別れることになり、わたしたちの前に顔を見せずらくなっていたのだろう。
 ざまあみろとはおもわない。互いに馬鹿だったのだろう。
 今はみんなと楽しく過ごしている。
 この間はリノ主催の合コンで、大学生の男性と知り合った。
 見栄えはそれなりだが家が裕福なのか、ずいぶんと財布が緩かった。
 デートに誘われた際に甘えたらいろいろなモノを買ってくれる。
 おかげで中学生の小遣いでは買えないような服やバッグを手に入れ、みんなからうらやましがられていた

「夏休みになったら旅行でも行こうよ」

 そう誘ってきたが、目的は旅行の先にあることはうかがい知れた。「さあね」と心の中で舌をだす。
 毎日はこんな風に、うん楽しいはずだった。
 でもなにか退屈だった。なにかが物足りなかった。
 それに時折思い出したかのように急に自分が冷ややかになるときがある。
 親友の悪口を笑いながら言っているあの子達は、かつてはわたしにそれを向けていた。
 単純に笑い合っているように見えて、みんなしたたかに計算をして、下心や本音を隠しながら過ごしている。
 それがみんな当たり前だと納得し合って過ごしているはずだった。少なくとも女子は。
 心の底から、彼女だけは違うよなあってどこか信じていた親友に裏切られたからか。
 それとも――あの不思議な体験のことを思い出すからか。
 あの日、あの駅の向こう側の体験は夢だったのかな? って最近思っている。
 メルヘンな出来事を本気にするのは、一番馬鹿な時期だと言われている同級生、すなわち中二の男子位だ。
 きっと疲れていたし、自責の念とやらにかられてあんな夢をみたんだろう。そういえば夢の彼らも同級生だったか……。
 もちろんそんな子供のような夢を見たことは友達の誰にも話していない。そんなメルヘンな夢を見ただけでもオオゴトだ。
 わたしは不思議ちゃんキャラじゃないのだから。
 でも、もし夢で無かったなら――。
  時々そんな考えが脳裏に浮かぶ。
 夢で無かったら何だっていうの?
 そんな風に自問しては悶々となる日が増えてきた。
 おかげで期末は最悪だった。
 終業式。遊びに行こうとみんなの誘いを断り、今日はママと過ごすと断った。
 半分は嘘。ママとの約束は夜からだから。
 ああ、また退屈な時間がやってきた。自分が冷ややかになるときが。
 部屋の時計を見あげるとまだまだ夜まで時間はある。
 常識というためらいが少しだけわたしを押しとどめようとしたけど、今日は行動的な自分が勝った。
 ベッドから跳ね起きると、出かける準備を始めた。
 終着駅の向こう側へ出かける準備を。
 そしてわたしは、あの日の出来事が夢でなかったことを知った。
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