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十章 霧は晴れて

ぼくは決断に涙をながし

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 つばさは長い間だまっていた。
 ずっとずっと考えていた。
 その間、カイムはつばさを見守っていた。

 どのくらいの間そうしていただろうか。
 つばさは顔をあげると、カイムにたずねた。

「サギはずっと他の世界を見たがっていた。広い世界を、見たことのない景色を見るために旅をしているんだって言っていた。
 ……ぼくの世界にも行ってみたいって」
 
 涙があふれ出てくるのがわかった。
 つばさの世界に行くことだけではない。
 この世界の障りは、ヤマのクニから出ることもできないという。
 ヤマのクニはとても広いけど、サギの好奇心と夢をかなえるには狭すぎる。

「エドはすべてのおいしい草を食べて暮らしたいって。旅先でたくさんの女の子と出会いたいって言っていた」

 夢を語るとき、サギはきらきら輝いていた。
 エドはいつも同じ話をしているけど、それこそが人生だと強い光を発していた。
 二人だけではない。
 ハシはつばさのような勇者になりたいと、目を輝かせていた。
 チカプやキムニも、彼らが勇者と呼ばれるだけの目的と願いがあった。
 旅先で出会ったチュロムやナクラのなどの障り。
 主との交渉で話した兵士たちに、世話役の女の子たち。
 霧が晴れたらやりたいこと。
 自分たちの将来の夢について、みんな輝いた表情で語っていた。

「この世界が失われれば、それもみんなかなわないの?」

 カイムはゆっくりと首を横に振った。

「そうではない。先ほども言ったとおり、障りは形をなくしても生き続けることができる。おまえさんの心の中でな。おまえさんが広い世界を見聞きすれば、それはこの世界の障りたちにとって同じことを経験したことと同じじゃ」

 つばさはだまって聞いていた。

「この世界が終わるのは、霧によって世界が閉じられたときだけじゃ。夢はいつか覚めるかもしれん。
 じゃがお前さんが生きている限り、障りたちも、ヤマのクニもあり続けるよ。
 お前さんの心の中でな」
「そっか……」


 そう言ってずっとつばさはうつむいていた。
 長い間そうしたあと、ようやく頭をあげた。
 きっとカイムの姿を正面から見据えた。

「ぼくは主を見つけて元の世界へ戻る! それがみんなの生きていたことになるなら」

 そして決断した。
 つばさが生きて戻らないと、みんなことはなかったことになってしまう。
 迷いはもうなかった。

「いい表情じゃ」

 カイムはそう言うと枝から飛び、そしてつばさの肩の上に乗った。
 わずかな重みが左肩にかかる。

「わしは女王は世界を閉ざされ時、世界を開くための象徴として作り出された。じゃからわしだけはヤマ国をでることができる」
「旅につきあってくれるんだね?」
「おまえさんの旅が終わる、その時まで」

 そうかとつばさは頷いた。

「じゃあ行こう。元の世界に帰るために!」
「ああ、おまえさんの中でヤマのクニが永遠となるために」

 つばさは涙をぬぐって空を見上げる。
 夜はあけようとしていた。
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