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八章 異形の主

はにかむ彼女に、ぼくはわらう

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 館は切り立った崖の上にあった。
 霧が立ちこめていて、どんな形をしているのかすぐに判別できない。
 そこまで細い切り立った道がある。
 あそこから入れということだろうか。

「じゃあ、みんなありがとう。ここからはぼくが一人でいくよ」

 つばさはそうみんなに言った。
 障りは異形の霧に触れることができないのだ。

「申し訳ありません。大事なことをつばさどの一人にお任せしてしまい。自分の無力を感じます」
「大丈夫だよ。ぼくはただ話し合いにいくんだから」

 悔やんでいるキムニにつばさは笑顔を向ける。
 力強くて穏やかな彼から、この旅で学んだことは多い。

「それでも何かあったときは我々も駆けつける。決して一人だと思わぬように」
「ありがとう、チカプ」

 はじめは無口で取っつきにくいと思ったこの空の勇者も、実際話してみれば面倒見がいい実に男らしくて実直な性格だ。
 こんな大人になりたいと、つばさは彼に対して思っていた。

「大丈夫だ、おまえならよ」

 エドはつばさを見下ろしながら、鼻息を立てた。

「本当のところはおれさまたちだけでここにはすぐに来ることができたんだ。だが女王がつばさが交渉の席に着くには旅が必要だと言ってな」
「女王さまが?」
「最初はどうかと思った。逆におまえはだめになるんじゃないかってな。でも女王はおまえが立派にお役目を果たすためには、試練を乗り越えなければならないと言ってな。この旅は必要だった。そしておまえは立派に役目を果たしてくれる。おれさまが保証するんだから安心しろよ」
「ありがとう、エド」

 彼と出会ったのはナクラの里だ。
 そのときはつばさとサギの二人きりの旅の途中だった。
 この世界に来てから一月も経っていないのに、なんだかずいぶんと長いつきあいのような気がする。
 そして一番長いつきあいであるサギは、なんだか後ろでもじもじしていた。
 世話役の他の女の子に促され前に立つ。

「つばさ・・・・・・」

 彼女は手に一着の服を持っていた。
 それは旅の間、ずっとサギが編んでいた服なのは察しがついていた。

「その格好だと寒いし、それに使者の服もわたしのせいで破れちゃってたし……」

 いつも快活なサギが、しどろもどろな態度なことにつばさは軽い驚きを覚えた。

「あんなに立派じゃないんだけど、よかったら着てもらえるかな……」

 おずおずと差し出された手を、つばさはつかんだ。

「ありがとうサギ。早速着ていいかな?」

 こくりと頷いたサギに、笑顔を向けて服を広げる。
 サギと同じ文様が肩口に入っている。他は無地だった。
 着てみると少し大きい。
 卒業式で六年生が、中学校の制服を着ているような気分だ。
 でも本当に暖かい。
 寒さを防いでくれることより、心をほんのりと暖めてくれるような。
 そんな着心地だった。

「似合うぜ、つばさ」

 エドがはやし立てる。肝心のサギははにかんだように笑い、それ以上は何も言わなかった。

「じゃあ、行ってくる」

 みなの声を受け、つばさは異形の主との対面するために館へと向かった。
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