40 / 62
八章 異形の主
はにかむ彼女に、ぼくはわらう
しおりを挟む
館は切り立った崖の上にあった。
霧が立ちこめていて、どんな形をしているのかすぐに判別できない。
そこまで細い切り立った道がある。
あそこから入れということだろうか。
「じゃあ、みんなありがとう。ここからはぼくが一人でいくよ」
つばさはそうみんなに言った。
障りは異形の霧に触れることができないのだ。
「申し訳ありません。大事なことをつばさどの一人にお任せしてしまい。自分の無力を感じます」
「大丈夫だよ。ぼくはただ話し合いにいくんだから」
悔やんでいるキムニにつばさは笑顔を向ける。
力強くて穏やかな彼から、この旅で学んだことは多い。
「それでも何かあったときは我々も駆けつける。決して一人だと思わぬように」
「ありがとう、チカプ」
はじめは無口で取っつきにくいと思ったこの空の勇者も、実際話してみれば面倒見がいい実に男らしくて実直な性格だ。
こんな大人になりたいと、つばさは彼に対して思っていた。
「大丈夫だ、おまえならよ」
エドはつばさを見下ろしながら、鼻息を立てた。
「本当のところはおれさまたちだけでここにはすぐに来ることができたんだ。だが女王がつばさが交渉の席に着くには旅が必要だと言ってな」
「女王さまが?」
「最初はどうかと思った。逆におまえはだめになるんじゃないかってな。でも女王はおまえが立派にお役目を果たすためには、試練を乗り越えなければならないと言ってな。この旅は必要だった。そしておまえは立派に役目を果たしてくれる。おれさまが保証するんだから安心しろよ」
「ありがとう、エド」
彼と出会ったのはナクラの里だ。
そのときはつばさとサギの二人きりの旅の途中だった。
この世界に来てから一月も経っていないのに、なんだかずいぶんと長いつきあいのような気がする。
そして一番長いつきあいであるサギは、なんだか後ろでもじもじしていた。
世話役の他の女の子に促され前に立つ。
「つばさ・・・・・・」
彼女は手に一着の服を持っていた。
それは旅の間、ずっとサギが編んでいた服なのは察しがついていた。
「その格好だと寒いし、それに使者の服もわたしのせいで破れちゃってたし……」
いつも快活なサギが、しどろもどろな態度なことにつばさは軽い驚きを覚えた。
「あんなに立派じゃないんだけど、よかったら着てもらえるかな……」
おずおずと差し出された手を、つばさはつかんだ。
「ありがとうサギ。早速着ていいかな?」
こくりと頷いたサギに、笑顔を向けて服を広げる。
サギと同じ文様が肩口に入っている。他は無地だった。
着てみると少し大きい。
卒業式で六年生が、中学校の制服を着ているような気分だ。
でも本当に暖かい。
寒さを防いでくれることより、心をほんのりと暖めてくれるような。
そんな着心地だった。
「似合うぜ、つばさ」
エドがはやし立てる。肝心のサギははにかんだように笑い、それ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、行ってくる」
みなの声を受け、つばさは異形の主との対面するために館へと向かった。
霧が立ちこめていて、どんな形をしているのかすぐに判別できない。
そこまで細い切り立った道がある。
あそこから入れということだろうか。
「じゃあ、みんなありがとう。ここからはぼくが一人でいくよ」
つばさはそうみんなに言った。
障りは異形の霧に触れることができないのだ。
「申し訳ありません。大事なことをつばさどの一人にお任せしてしまい。自分の無力を感じます」
「大丈夫だよ。ぼくはただ話し合いにいくんだから」
悔やんでいるキムニにつばさは笑顔を向ける。
力強くて穏やかな彼から、この旅で学んだことは多い。
「それでも何かあったときは我々も駆けつける。決して一人だと思わぬように」
「ありがとう、チカプ」
はじめは無口で取っつきにくいと思ったこの空の勇者も、実際話してみれば面倒見がいい実に男らしくて実直な性格だ。
こんな大人になりたいと、つばさは彼に対して思っていた。
「大丈夫だ、おまえならよ」
エドはつばさを見下ろしながら、鼻息を立てた。
「本当のところはおれさまたちだけでここにはすぐに来ることができたんだ。だが女王がつばさが交渉の席に着くには旅が必要だと言ってな」
「女王さまが?」
「最初はどうかと思った。逆におまえはだめになるんじゃないかってな。でも女王はおまえが立派にお役目を果たすためには、試練を乗り越えなければならないと言ってな。この旅は必要だった。そしておまえは立派に役目を果たしてくれる。おれさまが保証するんだから安心しろよ」
「ありがとう、エド」
彼と出会ったのはナクラの里だ。
そのときはつばさとサギの二人きりの旅の途中だった。
この世界に来てから一月も経っていないのに、なんだかずいぶんと長いつきあいのような気がする。
そして一番長いつきあいであるサギは、なんだか後ろでもじもじしていた。
世話役の他の女の子に促され前に立つ。
「つばさ・・・・・・」
彼女は手に一着の服を持っていた。
それは旅の間、ずっとサギが編んでいた服なのは察しがついていた。
「その格好だと寒いし、それに使者の服もわたしのせいで破れちゃってたし……」
いつも快活なサギが、しどろもどろな態度なことにつばさは軽い驚きを覚えた。
「あんなに立派じゃないんだけど、よかったら着てもらえるかな……」
おずおずと差し出された手を、つばさはつかんだ。
「ありがとうサギ。早速着ていいかな?」
こくりと頷いたサギに、笑顔を向けて服を広げる。
サギと同じ文様が肩口に入っている。他は無地だった。
着てみると少し大きい。
卒業式で六年生が、中学校の制服を着ているような気分だ。
でも本当に暖かい。
寒さを防いでくれることより、心をほんのりと暖めてくれるような。
そんな着心地だった。
「似合うぜ、つばさ」
エドがはやし立てる。肝心のサギははにかんだように笑い、それ以上は何も言わなかった。
「じゃあ、行ってくる」
みなの声を受け、つばさは異形の主との対面するために館へと向かった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる