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七章 森をさまよい
英雄でも勇者でもなくてもいい、とぼくは願う
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「――つばさ」
必死で眠気に耐えていたつばさは、声に飛び上がった。
慌てて立ち上がり、ベッドのサギを見る。
目を開いてじっとつばさを見ていた。
「サギ、よかった。眼を覚ましたんだね?」
「うん、平気」
そう言ってからサギは痛みの為か顔を歪ませる。
「だ、大丈夫なの。ムリしちゃダメだよ」
つばさは急に心配になってきて、サギにどういう処置をしたか話した。
それを聞いていたサギは顔をほころばせる。
「つばさが介抱してくれたんだね。その処置で完璧だよ、ありがとう。おかげでずいぶんと楽になっている」
「本当にホント?」
「本当さ。骨は折れていないみたいだし、もう少し休めば大丈夫だと思う」
「良かった……」
心の底からの声だった。
安心して涙が出そうになり、あわてて拭った。サギが小さく笑う。
「わたしはいつもつばさに助けられてばかりだね」
それはこっちが言いたいことだ。
いつだってサギはつばさを助けてくれた。
初めて出会ったとき異形から守ってくれた。
旅の間はずっとサギに助けられっぱなしだった。
彼女がいなければ、ご飯を食べることができなくてすぐに死んでしまっていただろう。
サギがいなければ、人見知りなつばさは他の障りとちゃんと話ができたか。
それに今回も自分勝手に飛び出して転落したつばさを助けてくれたのもやっぱりサギだ。
それなのにつばさはサギに何ができたのか。
特別な人間だといわれてただ浮かれていただけだ。
結果サギに心配され、こうしてけがまで負わせてしまった。
なんと情けない男なんだ、ぼくは。
歯がゆくて、悔しい気持ちで一杯だった。
「つばさ……」
弱々しい声にはっと向き直る。
目をつぶっていたサギが、瞳をあけて心配そうに見上げていた。
「……どこかに行ったりしないよね」
なんだかすがるような声だった。
「バカだなあ。どうしてぼくがどこかに行くなんて思うのさ」
つばさが答えると、サギはほっとしたように息を吐いた。
サギも熱ですごく弱気になっているんだなって気付く。
つばさよりしっかりしているけど、同じ年頃の子供には違いないのだ。
「ぼくはずっとここにいるよ」
「うん」
サギは汗ばみながらも、安心したように笑顔を作った。
子供のように信頼しきっている。つばさはそれに応えなければと思った。こっちが不安そうな顔をしてはいけない。
「苦しいの? ぼくになにかできることはないかな」
サギは首を横に振ったが、しばらくしてから口を開いた。
「――手を、握ってもらってていい?」
「もちろんだよ」
つばさはサギの左の手のひらを両手で包み込んだ。
背は同じぐらいだけど、手はつばさより小さい。
でも指は細くて長かった。
その細い指にはいくつもの傷や、タコみたいなのがあることが感触でわかる。
ナーナイとしてサギが仕事をしてきた証。
そんな小さくて、傷だらけで、あたたかい彼女の手をにぎっているとずいぶんと落ち着いた気分になってくる。
それはサギも同じだったらしく、しばらくすると小さな寝息が聞こえ始めた。
ぼくは全然特別な人間なんかじゃあない。
学校でも地味で目立たなくて、何も得意なことがない人間だ。
この世界でも出来る事なんてそんなに多くはない。
でも、今この場でサギに安心を与えられるのは自分しかいない。
そう思うと心の中に暖かいものが流れ、ひどく誇らしく感じた。
それは英雄だとたくさんの障りからたたえられたことより、ずっとずっと尊いものに感じた。
必死で眠気に耐えていたつばさは、声に飛び上がった。
慌てて立ち上がり、ベッドのサギを見る。
目を開いてじっとつばさを見ていた。
「サギ、よかった。眼を覚ましたんだね?」
「うん、平気」
そう言ってからサギは痛みの為か顔を歪ませる。
「だ、大丈夫なの。ムリしちゃダメだよ」
つばさは急に心配になってきて、サギにどういう処置をしたか話した。
それを聞いていたサギは顔をほころばせる。
「つばさが介抱してくれたんだね。その処置で完璧だよ、ありがとう。おかげでずいぶんと楽になっている」
「本当にホント?」
「本当さ。骨は折れていないみたいだし、もう少し休めば大丈夫だと思う」
「良かった……」
心の底からの声だった。
安心して涙が出そうになり、あわてて拭った。サギが小さく笑う。
「わたしはいつもつばさに助けられてばかりだね」
それはこっちが言いたいことだ。
いつだってサギはつばさを助けてくれた。
初めて出会ったとき異形から守ってくれた。
旅の間はずっとサギに助けられっぱなしだった。
彼女がいなければ、ご飯を食べることができなくてすぐに死んでしまっていただろう。
サギがいなければ、人見知りなつばさは他の障りとちゃんと話ができたか。
それに今回も自分勝手に飛び出して転落したつばさを助けてくれたのもやっぱりサギだ。
それなのにつばさはサギに何ができたのか。
特別な人間だといわれてただ浮かれていただけだ。
結果サギに心配され、こうしてけがまで負わせてしまった。
なんと情けない男なんだ、ぼくは。
歯がゆくて、悔しい気持ちで一杯だった。
「つばさ……」
弱々しい声にはっと向き直る。
目をつぶっていたサギが、瞳をあけて心配そうに見上げていた。
「……どこかに行ったりしないよね」
なんだかすがるような声だった。
「バカだなあ。どうしてぼくがどこかに行くなんて思うのさ」
つばさが答えると、サギはほっとしたように息を吐いた。
サギも熱ですごく弱気になっているんだなって気付く。
つばさよりしっかりしているけど、同じ年頃の子供には違いないのだ。
「ぼくはずっとここにいるよ」
「うん」
サギは汗ばみながらも、安心したように笑顔を作った。
子供のように信頼しきっている。つばさはそれに応えなければと思った。こっちが不安そうな顔をしてはいけない。
「苦しいの? ぼくになにかできることはないかな」
サギは首を横に振ったが、しばらくしてから口を開いた。
「――手を、握ってもらってていい?」
「もちろんだよ」
つばさはサギの左の手のひらを両手で包み込んだ。
背は同じぐらいだけど、手はつばさより小さい。
でも指は細くて長かった。
その細い指にはいくつもの傷や、タコみたいなのがあることが感触でわかる。
ナーナイとしてサギが仕事をしてきた証。
そんな小さくて、傷だらけで、あたたかい彼女の手をにぎっているとずいぶんと落ち着いた気分になってくる。
それはサギも同じだったらしく、しばらくすると小さな寝息が聞こえ始めた。
ぼくは全然特別な人間なんかじゃあない。
学校でも地味で目立たなくて、何も得意なことがない人間だ。
この世界でも出来る事なんてそんなに多くはない。
でも、今この場でサギに安心を与えられるのは自分しかいない。
そう思うと心の中に暖かいものが流れ、ひどく誇らしく感じた。
それは英雄だとたくさんの障りからたたえられたことより、ずっとずっと尊いものに感じた。
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