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七章 森をさまよい

森はなんでも教えてくれる、と彼女はわらい

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 やがて小さな小屋が、つばさの前に現れた。
 山小屋と納屋の中間のような粗末な家だ。
 古いが朽ちているほどではない。

「すみません、だれかいませんか!?」

 叫んだが返事はない。
 二、三度呼んでからつばさはドアを開ける。鍵はかかっておらず、木のドアはゆっくりと開いた。
 小さな土間がすぐ目につき、すぐ奥に小さいがなんとか人が生活できそうな部屋がある、
 旅の障りが、一時の住まいとして作ったものだとつばさは直感する。
 
「よかった、ここならサギを休ませることができる」

 樹で作られた簡易なベッドがあるのを見つけると、つばさはサギをそこに寝かせることにした。
 シーツ代わりに自分が着ていた、服だったふろしきをしき、その上にサギをうつぶせに寝かせる。
 背中から彼女の上着をかけた。

「サギ、痛まない?」

 尋ねたが返事はない。息は荒く熱はまだ高い。
 なんとかしなくてはいけない。
 つばさは一休みする間もなく、外へと飛び出した。
 小屋をここに建てたということは、近くに水辺があるはずだ。
 小屋で見つけた小さな木のオケと、皮の水筒を持ってつばさは周囲を探す。
 しばらく周辺を探し回り、草に囲まれてぱっと見た目はわからないわき水を発見した。
 耳と匂いで見つけたのだ。
 おそらくこの世界に来たばかりのつばさでは、とうていみつけられなかっただろう。
 つばさはそれを一口のむ。

「……飲める水だ」

 オケと水筒に水をくむと、すぐに小屋へと戻った。
 苦しむサギの顔を少し横にして口元に水筒を当てる。
 彼女がのどをならして水を飲んだのでほっとした。
 それから彼女の額に巻いてある布をとり、水に濡らしてからまき直す。少しは熱にいいはずだ。

「身体はどうしよう」

 血を洗わないといけない。
 それに打ち身の箇所から熱がでている。
 女の子の身体に勝手に触れることに抵抗があったけど、さすがに命がかかっている。
 心の中で謝りつつ、下着の下に手をいれて身体をぬれた布で拭いた。
 手に肌が布越しに触れてどぎまぎしたが、布に血がついているのを見るとそんな気持ちも吹っ飛んでしまう。
 何度も布にオケにいれた水につけては絞り、丹念に身体を拭いた。
 このまま熱が下がらないと危険かもしれない。
 あのときのレントの薬を残しておかなかったことを悔やんだが、ないものはどうしようもない。
 つばさは薬になるものを探して、再び小屋を飛び出した。
 つばさにはサギが教えてくれた知識が全てだ。

「一番簡単な薬はキハダだね。内皮を煮て飲めば腹痛の薬になるし、ぬれば痛み止めになる。実は煎じれば肺に、フッキソウと一緒に粉にすれば熱冷ましになる」

 キハダは名前の通り黄色い樹だ。
 つばさは小屋に来る前に見たことを思いだした。
 それにフッキソウは小屋の周りに生えている。
 それから確か大葉のような葉は悪い血を抜き取ったり、包帯のように患部にあてるって言っていたっけ。
 女王の城に向かいながら、彼女が植物や樹のことを教えてくれたことがまざまざと思い出させる。
 つばさは彼女の記憶を頼りに薬を集めた。
 しばらく探し回り、知る限りで見つかる限りの薬草を採取する。
 つばさにわかるのはそれまでだ。
 野草には毒になるものもあるので、知らないものを破れかぶれにサギに飲ませるわけにはいかない。
 こんなことならもっといっぱい、サギからたくさんのことを教えてもらっておくんだった。
 城を出立してから今まで、ただ馬車に揺られて食べて寝るだけで過ごした時間を、つばさは心の底から後悔した。
 だがあるものでやるしかない。
 つばさは採取した薬草と、あとは水を汲んで小屋に戻った。
 フッキソウとキハダの実をナイフで切り刻み、小屋でみつけたお椀をそとで見つけた丸い石ですりつぶす。
 それを水と一緒にサギに飲ませた。
 またキハダの内皮をくだき、多肉植物を切った内側からにじみ出てきたどろっとした液体と混ぜ合わせた。
 これが日本でいうところの湿布のようなものになると、彼女は言っていたはずだ。
 これを大葉にぬりつけ、サギの背中の傷や青あざが出来たところに貼り付けた。
 葉が乾いたら新しいのと取り替えればいいのだと、言っていたことを思い出す。
 つばさは何度も水を汲みに小屋を出ては、サギの汗をふき、水を飲ませ、薬を塗った。
 休まずにサギの看病を続けた。
 その甲斐があってか、だんだん発汗が少なくなり表情が柔らかくなっていった。
 また熱も下がっているようで、額も傷の跡も熱さがましになっている。
 良かった、治るかもしれない。
 安心したためかどっと疲れが出た。
 サギの横に座り、壁にもたれると目蓋が重くなる。うつらうつらと眠気がつばさを襲った。
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