上 下
18 / 62
三章 薬を求めて

障りたちはおどり、わらう

しおりを挟む
 急いでナクラの集落に戻ると、丁度日が暮れて宵闇が迫っていた。
 ベッドのサギは、相変わらず眠りこけてはいるものの、症状が落ち着いているのか少し安らかな顔をしていた。
 レントの葉を村長に渡して事情を説明する。
 レントと出会ったことにナクラは全員が驚いたが、本物だとわかるとすぐに薬を作る準備に取りかかってくれた。
 待つことしばし、村長が水と、粉状の薬をもって現れる。

「これ? 前のは液体だったけど」
「大丈夫。間違い、ない」
「でも……」
「つばさ、大丈夫だ。大事なのはレント族の葉であるということだ。そのちびの薬の技術は保証する」

 エドが横から口をはさむ。
 なお彼は家の中に入れないから、窓から顔だけを入れていた。
 一抹の不安があったけど、エドとナクラ族を信じるしかなかった。

「サギ、起きて。薬だよ」
 
 つばさが何度も声をかけるとうっすらと眼を開く。
 苦しみで表情を歪ませたけども、つばさの姿を瞳に捉え少し微笑んだ。
 頭を上げる力がないようなので、彼女の頭を抱き上げて少しあげた。そこに村長が口を開かせ、薬と水を飲ませる。
 弱々しいサギの様子がすぐに変化していく。
 汗が引っ込み、青白かった顔がつやのある元の元気な姿へと変わっていった。
 サギの眼に焦点が戻り、じっとつばさの顔を見上げる。

「治った、治ったんだね!」

 思わず大きな声をあげてサギの手を強く握った。
 歓声が沸き上がり、ナクラ達が隣の者と抱き合い、手拍子を始めた。
 彼等は旅人である自分たちの回復をここまで感動してくれるのか。
 そのことが妙に嬉しくて、少し視界が歪む。慌てて服の裾で眼をこすった。
 再び前を向くとサギの顔がすぐそばにあった。
 手は握ったまま。
 慌てて離すと、今度はサギの方から手を握ってきた。
 手の甲が小さくて温かいものに包まれる。

「ありがとう。つばさが助けてくれたんだね」

 息がかおにかかる。
 つばさはきゅうにナクラ達の様子が気になって顔をそらした。彼等は喜び、踊っていた。

「お礼なんて……」

 ぼくのほうこそ何度も助けられた。
 ヤマのクニに迷い込んでから、ずっと君にお世話になりっぱなしだ。
 いろいろな思いが、つばさの頭の中で浮かび上がる。

『ぐぅ~』
  
 びっくりするぐらい、大きなおなかの音がなった。
 自分のおなかだった。
 くすりと笑い声があり、ほほに熱がこもる。
 台無しだった。

「……サギが作ってくれるご飯で充分だよ」
「腕によりをかけるからね」

 と、サギはにっこり笑う。
 エドが鼻息をあらくしながら大笑いする声が、小屋の中でひびきわたった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

処理中です...