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一章 異世界へ

せめて泣き言はやめようと、ぼくは誓った。

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 しばらく休んだあと、二人は再び森を歩き出した。
 サギの話ではなるべく眠るのは、霧がなるべく発生しないところがいいという。
 霧が深いところは異形が現れるからそれはわかる。
 でも霧の深いところはどのあたりかどうしてわかるのか。
 それを尋ねたら森が教えてくれるとの答えだった。
 この世界の一人前の障りはみんなわかるのか、ナーナイであるサギだからなのかわからない。
 つばさにはサギに従う以外になかった。
 一日中森の中を歩いているので、足も腰もずいぶんと痛い。
 背中の荷物がずっしりと、重さを増しているようだった。

「荷物を少し持とうか?」

 サギが心配して申し出てきたが断った。
 つばさは一人前とはとてもいえないだろう。でも自分の分の荷物まで持ってもらって平然となんかできなかった。
 こんなに歩いたことは生まれて一度もない。
 きっと一人だととっくの前に荷物を放り出して歩くのをやめていただろう。
 身体もふらつきだした。ご飯をあまり食べていないからだ。
 学校の先生が朝ごはんをしっかり食べるように口を酸っぱくして言う理由が、身をもって体験できた。
 夕暮れがせまりだし、森はだんだんと暗くなっていった。
 意地で歩くこともだんだん限界が近づいてくる。

「今日はここまでにして休もう」

 サギが少し開けたところでそういうと、つばさはその場に崩れ落ちた。
 体だけでなく、頭もなんだか痛い。
 座るともう立ち上がれない。とにかく疲れがひどかった。
 荷物を放り投げて大きな木に身体を横たえると、つばさは急速に意識が遠くなった。

「つばさ、つばさ」 

 サギの声でつばさは目を開いた。
 たき火の燃える音。それから風が森の葉を揺らす音。
 かすかに水が流れる音。
 それになんだかいい匂いがする。
 いつの間にか周囲は完全に暗くなっていて、ただたき火の明かりだけが揺らいでいる。

「ぼく、眠っていた?」
「少しだけね」

 どうやらその間にサギが食事や休む準備をしてくれたらしい。
 頼りっぱなしで申し訳なくて、顔を上げられなかった。

「ご飯ちょうどできたけど、食べる?」

 そんなつばさの様子には気づいた様子もなく、サギは笑顔を向けてくる。
 彼女の言うとおり、たき火の前に食事の準備が出来ていた。
 ナベはどこかで採取したらしい草のような、彼女によると野菜。
 それに豆とも芋ともつかない野菜が入っている。なんだかニンニクともしょうがともとれる匂いがあった。
 他には芋のような団子。それから不思議な香りがする草で包まれた焼き魚があった。
 つばさの自分のお腹が鳴る音を聞いた。

「た、食べるよ」

 二人で器をもって料理の前に並ぶ。昼と同じようにサギは祈りを捧げた。
 彼女の祈りが終わるをまち、つばさは草を器にいれる。
 手が震え、鈴が小刻みに音を立てた。
 どうみてもただの草だ。つばさはごくりとつばを飲み込み、思い切って草を口にいれた。
 始めにんにくともカラシともとれるような、不思議な味が口に広がる。それからかじる。想像していたほど青臭い味がない。少し筋が硬いもののちゃんとした野菜だった。
 決して食べられないようなものじゃない。
 抵抗がなくなると後は夢中だった。
 お腹がすいていたので、どんどんとナベの中身をお腹へといれる。
 団子も青臭さはあったが噛むと芋のような食感があった。でもジャガイモほどぱさついておらず変わった感じだがそれなりにおいしかった。
 魚はいわずもがなだ。
 あっという間に食事はお腹に消えていった。

「どう、美味しかった?」

 食べ終わって一息ついたところでサギが隣で聞いてくる。

「もちろんだよ」

 実際すごく満足していた。好物のハンバーグやカレーを食べてもこんな気分にはならない。

「よかった」

 サギは嬉しそうに表情を緩めた。

「昼も全然食べなかったし。もしかしたらわたしの食事が合ってないんじゃないかって」

 そう言って安心したように息を吐いた。
 つばさが食べなかったのは単なる好き嫌いによるもので、しかも見かけがあまりにも野性的すぎたからだ。
 作ってくれる人がどんなおもいで作ってくれるかなんて考えたことなかった。
 今まで食べ物を残してきたことに強い罪悪感が生まれた。

「昼間はごめんね」
「どうして謝るんだい?」

 サギが不思議そうに首をかしげる。
 たき火の明かりが二人を照らしていた。遠くでふくろうの鳴く声が聞こえる。
 サギが身体を動かすと、彼女のにおいがした。
 二人とも今日はお風呂に入っていないはずなのに、どうして彼女はこんなにいいにおいがするのだろう。
 なんだか息苦しくなって、つばさはサギから視線を外した。

「変なつばさ」

 サギがからかうような声で笑った。
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