9 / 62
一章 異世界へ
せめて泣き言はやめようと、ぼくは誓った。
しおりを挟む
しばらく休んだあと、二人は再び森を歩き出した。
サギの話ではなるべく眠るのは、霧がなるべく発生しないところがいいという。
霧が深いところは異形が現れるからそれはわかる。
でも霧の深いところはどのあたりかどうしてわかるのか。
それを尋ねたら森が教えてくれるとの答えだった。
この世界の一人前の障りはみんなわかるのか、ナーナイであるサギだからなのかわからない。
つばさにはサギに従う以外になかった。
一日中森の中を歩いているので、足も腰もずいぶんと痛い。
背中の荷物がずっしりと、重さを増しているようだった。
「荷物を少し持とうか?」
サギが心配して申し出てきたが断った。
つばさは一人前とはとてもいえないだろう。でも自分の分の荷物まで持ってもらって平然となんかできなかった。
こんなに歩いたことは生まれて一度もない。
きっと一人だととっくの前に荷物を放り出して歩くのをやめていただろう。
身体もふらつきだした。ご飯をあまり食べていないからだ。
学校の先生が朝ごはんをしっかり食べるように口を酸っぱくして言う理由が、身をもって体験できた。
夕暮れがせまりだし、森はだんだんと暗くなっていった。
意地で歩くこともだんだん限界が近づいてくる。
「今日はここまでにして休もう」
サギが少し開けたところでそういうと、つばさはその場に崩れ落ちた。
体だけでなく、頭もなんだか痛い。
座るともう立ち上がれない。とにかく疲れがひどかった。
荷物を放り投げて大きな木に身体を横たえると、つばさは急速に意識が遠くなった。
「つばさ、つばさ」
サギの声でつばさは目を開いた。
たき火の燃える音。それから風が森の葉を揺らす音。
かすかに水が流れる音。
それになんだかいい匂いがする。
いつの間にか周囲は完全に暗くなっていて、ただたき火の明かりだけが揺らいでいる。
「ぼく、眠っていた?」
「少しだけね」
どうやらその間にサギが食事や休む準備をしてくれたらしい。
頼りっぱなしで申し訳なくて、顔を上げられなかった。
「ご飯ちょうどできたけど、食べる?」
そんなつばさの様子には気づいた様子もなく、サギは笑顔を向けてくる。
彼女の言うとおり、たき火の前に食事の準備が出来ていた。
ナベはどこかで採取したらしい草のような、彼女によると野菜。
それに豆とも芋ともつかない野菜が入っている。なんだかニンニクともしょうがともとれる匂いがあった。
他には芋のような団子。それから不思議な香りがする草で包まれた焼き魚があった。
つばさの自分のお腹が鳴る音を聞いた。
「た、食べるよ」
二人で器をもって料理の前に並ぶ。昼と同じようにサギは祈りを捧げた。
彼女の祈りが終わるをまち、つばさは草を器にいれる。
手が震え、鈴が小刻みに音を立てた。
どうみてもただの草だ。つばさはごくりとつばを飲み込み、思い切って草を口にいれた。
始めにんにくともカラシともとれるような、不思議な味が口に広がる。それからかじる。想像していたほど青臭い味がない。少し筋が硬いもののちゃんとした野菜だった。
決して食べられないようなものじゃない。
抵抗がなくなると後は夢中だった。
お腹がすいていたので、どんどんとナベの中身をお腹へといれる。
団子も青臭さはあったが噛むと芋のような食感があった。でもジャガイモほどぱさついておらず変わった感じだがそれなりにおいしかった。
魚はいわずもがなだ。
あっという間に食事はお腹に消えていった。
「どう、美味しかった?」
食べ終わって一息ついたところでサギが隣で聞いてくる。
「もちろんだよ」
実際すごく満足していた。好物のハンバーグやカレーを食べてもこんな気分にはならない。
「よかった」
サギは嬉しそうに表情を緩めた。
「昼も全然食べなかったし。もしかしたらわたしの食事が合ってないんじゃないかって」
そう言って安心したように息を吐いた。
つばさが食べなかったのは単なる好き嫌いによるもので、しかも見かけがあまりにも野性的すぎたからだ。
作ってくれる人がどんなおもいで作ってくれるかなんて考えたことなかった。
今まで食べ物を残してきたことに強い罪悪感が生まれた。
「昼間はごめんね」
「どうして謝るんだい?」
サギが不思議そうに首をかしげる。
たき火の明かりが二人を照らしていた。遠くでふくろうの鳴く声が聞こえる。
サギが身体を動かすと、彼女のにおいがした。
二人とも今日はお風呂に入っていないはずなのに、どうして彼女はこんなにいいにおいがするのだろう。
なんだか息苦しくなって、つばさはサギから視線を外した。
「変なつばさ」
サギがからかうような声で笑った。
サギの話ではなるべく眠るのは、霧がなるべく発生しないところがいいという。
霧が深いところは異形が現れるからそれはわかる。
でも霧の深いところはどのあたりかどうしてわかるのか。
それを尋ねたら森が教えてくれるとの答えだった。
この世界の一人前の障りはみんなわかるのか、ナーナイであるサギだからなのかわからない。
つばさにはサギに従う以外になかった。
一日中森の中を歩いているので、足も腰もずいぶんと痛い。
背中の荷物がずっしりと、重さを増しているようだった。
「荷物を少し持とうか?」
サギが心配して申し出てきたが断った。
つばさは一人前とはとてもいえないだろう。でも自分の分の荷物まで持ってもらって平然となんかできなかった。
こんなに歩いたことは生まれて一度もない。
きっと一人だととっくの前に荷物を放り出して歩くのをやめていただろう。
身体もふらつきだした。ご飯をあまり食べていないからだ。
学校の先生が朝ごはんをしっかり食べるように口を酸っぱくして言う理由が、身をもって体験できた。
夕暮れがせまりだし、森はだんだんと暗くなっていった。
意地で歩くこともだんだん限界が近づいてくる。
「今日はここまでにして休もう」
サギが少し開けたところでそういうと、つばさはその場に崩れ落ちた。
体だけでなく、頭もなんだか痛い。
座るともう立ち上がれない。とにかく疲れがひどかった。
荷物を放り投げて大きな木に身体を横たえると、つばさは急速に意識が遠くなった。
「つばさ、つばさ」
サギの声でつばさは目を開いた。
たき火の燃える音。それから風が森の葉を揺らす音。
かすかに水が流れる音。
それになんだかいい匂いがする。
いつの間にか周囲は完全に暗くなっていて、ただたき火の明かりだけが揺らいでいる。
「ぼく、眠っていた?」
「少しだけね」
どうやらその間にサギが食事や休む準備をしてくれたらしい。
頼りっぱなしで申し訳なくて、顔を上げられなかった。
「ご飯ちょうどできたけど、食べる?」
そんなつばさの様子には気づいた様子もなく、サギは笑顔を向けてくる。
彼女の言うとおり、たき火の前に食事の準備が出来ていた。
ナベはどこかで採取したらしい草のような、彼女によると野菜。
それに豆とも芋ともつかない野菜が入っている。なんだかニンニクともしょうがともとれる匂いがあった。
他には芋のような団子。それから不思議な香りがする草で包まれた焼き魚があった。
つばさの自分のお腹が鳴る音を聞いた。
「た、食べるよ」
二人で器をもって料理の前に並ぶ。昼と同じようにサギは祈りを捧げた。
彼女の祈りが終わるをまち、つばさは草を器にいれる。
手が震え、鈴が小刻みに音を立てた。
どうみてもただの草だ。つばさはごくりとつばを飲み込み、思い切って草を口にいれた。
始めにんにくともカラシともとれるような、不思議な味が口に広がる。それからかじる。想像していたほど青臭い味がない。少し筋が硬いもののちゃんとした野菜だった。
決して食べられないようなものじゃない。
抵抗がなくなると後は夢中だった。
お腹がすいていたので、どんどんとナベの中身をお腹へといれる。
団子も青臭さはあったが噛むと芋のような食感があった。でもジャガイモほどぱさついておらず変わった感じだがそれなりにおいしかった。
魚はいわずもがなだ。
あっという間に食事はお腹に消えていった。
「どう、美味しかった?」
食べ終わって一息ついたところでサギが隣で聞いてくる。
「もちろんだよ」
実際すごく満足していた。好物のハンバーグやカレーを食べてもこんな気分にはならない。
「よかった」
サギは嬉しそうに表情を緩めた。
「昼も全然食べなかったし。もしかしたらわたしの食事が合ってないんじゃないかって」
そう言って安心したように息を吐いた。
つばさが食べなかったのは単なる好き嫌いによるもので、しかも見かけがあまりにも野性的すぎたからだ。
作ってくれる人がどんなおもいで作ってくれるかなんて考えたことなかった。
今まで食べ物を残してきたことに強い罪悪感が生まれた。
「昼間はごめんね」
「どうして謝るんだい?」
サギが不思議そうに首をかしげる。
たき火の明かりが二人を照らしていた。遠くでふくろうの鳴く声が聞こえる。
サギが身体を動かすと、彼女のにおいがした。
二人とも今日はお風呂に入っていないはずなのに、どうして彼女はこんなにいいにおいがするのだろう。
なんだか息苦しくなって、つばさはサギから視線を外した。
「変なつばさ」
サギがからかうような声で笑った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる