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【中2編】第5章「交差する心」
すれ違い(亜紀目線)
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俺はバカだった。人のことを気にしすぎて好きな人を手放すなんて、情けなさすぎる。瀬野と陽真は付き合ったんだから、こんな執着することなんてないのに。だって陽真には、もう俺よりも好きだとか言える相手がいるのに。でもせめて無理でも「好き」とは伝えたかったな。
「俺と陽真の出会いって、何だったんだろう…」
恋愛的な感情がなかった時だって、ずっと彼のことが気になっていた。「なんでそんなにバスケが上手なの?」とか、「何をきっかけに始めたの?」とか、聞きたいことは山ほどあった。別に「友達」としか認識してなかったのに、こんなに落ち込むほど彼のことが好きになるとは思ってもみなかった。それほど、俺の人生にとって、陽真は大きな存在だった。
「好きだよ、陽真…」
彼の名前を口にするたび、視界がだんだんとぼやけてきて、涙がどんどん頬を伝って流れてきた。
ヴー、ヴー。
ベッドに放り投げていたスマホが突然鳴った。手を伸ばしてスマホを取り、電話の差出人を確認すると、そこには陽真の名前があった。
「何でこんなタイミングで…?」
今まで陽真から電話してきたことなんて、ほとんど無いに等しいくらいだったのに。
俺は涙でぐしょぐしょになった顔を拭い、鼻をすすってから通話ボタンを押した。
『…もしもし』
『あ、斎藤?ごめん、忙しかった…?』
『…ううん、全然大丈夫、だよ…』
陽真の声を聞いて安心したのか、流さないようにと必死にこらえていた涙が無意識に流れた。そのせいで、最後の言葉が消えかけてしまった。
『え、泣いてる?どした?』
さらに鼻をすすってしまったせいで、彼に泣いていたことがバレてしまったようだ。
どうしてこんなにも陽真って優しいんだろう。諦めたくても、こういう所があるから諦められないんだ。本当に、罪深いんだから。
俺はかすりかける声を必死に絞り出した。
『…良かったね、瀬野と付き合えて』
『…は?お前何言ってんの』
陽真の声が突然低くなった。あまりにも聞いたことがない声に、思わず反動で『え?』という声が漏れた。
『誰と誰が、付き合ってるって?』
『…瀬野と陽真が…』
気づけばすっかり頬の涙が乾いていて、俺はいつの間にか恋バナに夢中になっていた。
『俺はあいつから告られて、振った側』
『……』
二人は付き合ってないって、どういう事?じゃあ、さっきの会話は何だったんだろう。振った、ということは陽真には別に好きな人が…?俺、ってことは流石にないか。
なにか言おうとした時、陽真は『あっ』となにか良い事でも思い出したのか、途端に声が明るくなった。
『そういえばさー、斎藤に聞きたいことあって』
『…何?』
『斎藤は、俺のこと好き?』
『…!』
一瞬時間が止まったのかと思った。
何で、そんな事聞くの…?だって男同士でしょ?好きとか関係なく、ただの「友達」に決まってる。
でも、もしこれが「そういう」意味なら…。
『…俺は、好きだよ…?』
『…今なんて?』
『あ、ごめん、なんでもない』
やっぱり、こんな事なんて伝わるはずもない。陽真は、絶対世間一般の恋愛の方が似合ってるし。どうせ無意味なことで悩んでいるのは、きっと俺だけだ。
『こっちこそごめん。いきなりこんな事聞いて』
『ううん。陽真は悪くないから謝らないで』
あ、また陽真に気を使わせてしまった。そう思うと、情けなさで段々とスマホを握る手が汗ばんできた。
だって「好き」って言葉には、色んな意味がある。それのどの意味が、陽真の言ってたことなんだろう。
俺が喋った後、気まずい空気が流れたような気がした。なにか言おうと口を開こうとしたが、なかなかそうにはいかず、ただただ沈黙が続いた。
あれから、かれこれ10分くらい経った頃。なにか話しかけてくるだろうと思い、スピーカーにしたままベッドに放り投げていたスマホが、陽真の声を拾った。
『…俺は、斎藤の事好きなんだけどなぁ…』
『……え?』
何かの聞き間違いなのか。今、確かに「好き」って聞こえたような…?
電話のスピーカーをオフにし、マイクに切り替え、スマホを右耳に当てた。
『陽真は、俺の事好きなの…?』
『…え、今の聞こえてた…!?ごめん、忘れて』
ザワッ。
心の中で、なんだか胸騒ぎがした。「忘れて」って、何でそんなことしなくちゃいけないの?好きなんなら、堂々と言えばいいのに。
気づけば、俺は泣きそうなほどに、無性にイライラしていた。
『…なんで、よ。ほんっと意味分かんない…』
『…え、どしたの…』
『どうせ、俺のことなんて嫌いなんでしょ…』
本当は、こんな事言うはずじゃなかった。さっき言ってたことが本当なら、俺も好きだった、って伝えるはずだった。なのに、感情に任せて出た言葉は思ったよりもひどかった。止めようとしても、止まらない。
『別に、好きかとか言われたら、違う気もするけど…』
…何なの。そんなの嫌いって言ってるようなもんじゃん。
もう、耐えられない。再び泣きそうになって声が震えそうになってるのにも構わず、吐き出した。
『…じゃあ嫌いってことだよね?そうなら、もう話しかけて来ないでよね!』
『ま、待って…』
戸惑う彼を無視して通話終了ボタンを押した。
何で俺はこんなチャンスを逃してしまったんだろう。 せっかく告白(?)してしてくれたのに。でも、あれだけ期待させておいて「忘れて」だとか「好きじゃない」とか、そう言う方がおかしいし。
だけど、冷静になって考えてみると、結構情けないところでキレてしまったように感じた。
「俺だって、陽真のこと好きなのに。嫌いなんなら、最初から言ってよ…」
多分人生で初の本命。その経験を、宝物のように大切にしたかった。なのに俺は…。
涙が頬を伝って1粒流れた。その雫は、膝の上に置いていたスマホの画面の上に落ちた。
外からは、5時を知らせるチャイムが聞こえてくる。その音は、いつも以上に耳に刻み込まれたような気がした。
「俺と陽真の出会いって、何だったんだろう…」
恋愛的な感情がなかった時だって、ずっと彼のことが気になっていた。「なんでそんなにバスケが上手なの?」とか、「何をきっかけに始めたの?」とか、聞きたいことは山ほどあった。別に「友達」としか認識してなかったのに、こんなに落ち込むほど彼のことが好きになるとは思ってもみなかった。それほど、俺の人生にとって、陽真は大きな存在だった。
「好きだよ、陽真…」
彼の名前を口にするたび、視界がだんだんとぼやけてきて、涙がどんどん頬を伝って流れてきた。
ヴー、ヴー。
ベッドに放り投げていたスマホが突然鳴った。手を伸ばしてスマホを取り、電話の差出人を確認すると、そこには陽真の名前があった。
「何でこんなタイミングで…?」
今まで陽真から電話してきたことなんて、ほとんど無いに等しいくらいだったのに。
俺は涙でぐしょぐしょになった顔を拭い、鼻をすすってから通話ボタンを押した。
『…もしもし』
『あ、斎藤?ごめん、忙しかった…?』
『…ううん、全然大丈夫、だよ…』
陽真の声を聞いて安心したのか、流さないようにと必死にこらえていた涙が無意識に流れた。そのせいで、最後の言葉が消えかけてしまった。
『え、泣いてる?どした?』
さらに鼻をすすってしまったせいで、彼に泣いていたことがバレてしまったようだ。
どうしてこんなにも陽真って優しいんだろう。諦めたくても、こういう所があるから諦められないんだ。本当に、罪深いんだから。
俺はかすりかける声を必死に絞り出した。
『…良かったね、瀬野と付き合えて』
『…は?お前何言ってんの』
陽真の声が突然低くなった。あまりにも聞いたことがない声に、思わず反動で『え?』という声が漏れた。
『誰と誰が、付き合ってるって?』
『…瀬野と陽真が…』
気づけばすっかり頬の涙が乾いていて、俺はいつの間にか恋バナに夢中になっていた。
『俺はあいつから告られて、振った側』
『……』
二人は付き合ってないって、どういう事?じゃあ、さっきの会話は何だったんだろう。振った、ということは陽真には別に好きな人が…?俺、ってことは流石にないか。
なにか言おうとした時、陽真は『あっ』となにか良い事でも思い出したのか、途端に声が明るくなった。
『そういえばさー、斎藤に聞きたいことあって』
『…何?』
『斎藤は、俺のこと好き?』
『…!』
一瞬時間が止まったのかと思った。
何で、そんな事聞くの…?だって男同士でしょ?好きとか関係なく、ただの「友達」に決まってる。
でも、もしこれが「そういう」意味なら…。
『…俺は、好きだよ…?』
『…今なんて?』
『あ、ごめん、なんでもない』
やっぱり、こんな事なんて伝わるはずもない。陽真は、絶対世間一般の恋愛の方が似合ってるし。どうせ無意味なことで悩んでいるのは、きっと俺だけだ。
『こっちこそごめん。いきなりこんな事聞いて』
『ううん。陽真は悪くないから謝らないで』
あ、また陽真に気を使わせてしまった。そう思うと、情けなさで段々とスマホを握る手が汗ばんできた。
だって「好き」って言葉には、色んな意味がある。それのどの意味が、陽真の言ってたことなんだろう。
俺が喋った後、気まずい空気が流れたような気がした。なにか言おうと口を開こうとしたが、なかなかそうにはいかず、ただただ沈黙が続いた。
あれから、かれこれ10分くらい経った頃。なにか話しかけてくるだろうと思い、スピーカーにしたままベッドに放り投げていたスマホが、陽真の声を拾った。
『…俺は、斎藤の事好きなんだけどなぁ…』
『……え?』
何かの聞き間違いなのか。今、確かに「好き」って聞こえたような…?
電話のスピーカーをオフにし、マイクに切り替え、スマホを右耳に当てた。
『陽真は、俺の事好きなの…?』
『…え、今の聞こえてた…!?ごめん、忘れて』
ザワッ。
心の中で、なんだか胸騒ぎがした。「忘れて」って、何でそんなことしなくちゃいけないの?好きなんなら、堂々と言えばいいのに。
気づけば、俺は泣きそうなほどに、無性にイライラしていた。
『…なんで、よ。ほんっと意味分かんない…』
『…え、どしたの…』
『どうせ、俺のことなんて嫌いなんでしょ…』
本当は、こんな事言うはずじゃなかった。さっき言ってたことが本当なら、俺も好きだった、って伝えるはずだった。なのに、感情に任せて出た言葉は思ったよりもひどかった。止めようとしても、止まらない。
『別に、好きかとか言われたら、違う気もするけど…』
…何なの。そんなの嫌いって言ってるようなもんじゃん。
もう、耐えられない。再び泣きそうになって声が震えそうになってるのにも構わず、吐き出した。
『…じゃあ嫌いってことだよね?そうなら、もう話しかけて来ないでよね!』
『ま、待って…』
戸惑う彼を無視して通話終了ボタンを押した。
何で俺はこんなチャンスを逃してしまったんだろう。 せっかく告白(?)してしてくれたのに。でも、あれだけ期待させておいて「忘れて」だとか「好きじゃない」とか、そう言う方がおかしいし。
だけど、冷静になって考えてみると、結構情けないところでキレてしまったように感じた。
「俺だって、陽真のこと好きなのに。嫌いなんなら、最初から言ってよ…」
多分人生で初の本命。その経験を、宝物のように大切にしたかった。なのに俺は…。
涙が頬を伝って1粒流れた。その雫は、膝の上に置いていたスマホの画面の上に落ちた。
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