もう「友達」なんかじゃいられない。

らぉん

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【中2編】第4章「好き、ということ」

伝えたい、けど(陽真目線)

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 斎藤に避けられた。
 何でだろう。俺が絡みすぎて、しつこく感じたんだろうか。元々、彼は大人数グループで行動することよりも、一人でいるほうが好きらしく、休憩時間はいつも読書をしている。でも絡みたいときに絡む、といった感じで、必ず一人でいるとは限らない。彼のペースはいつも穏やかだ。

「で、ここが3xになるから、yが-4になって…」
 なるほど、そういうことか。どんな問題かは知らないけど。
 睡魔が襲う5時間目に、俺は睡眠学習をしていた。後ろの席でしかも窓側だからどうせ気づかれない、と自分に言い聞かせる。
「この解き方の応用が使えるから、教科書98ページの大問3を解いてくださーい。分からなさそうなやつに当てるから、ちゃんと確認しとけよー」
 うわ、うざ。分かる分からないって先生が判断できるものじゃないと思うんだけど。分かんなくても必ずしも俺に当たるとは限らないし。
 そう思って、俺は睡眠を続けた。
 仮眠をとっていると、あっという間に3分のタイマーが鳴った。
「じゃあここの問題を、斎藤君」
「…えっ!?」
 前から3番目の斎藤が当たった。寝てたか何かかな。可愛い。
 目を覚まして、彼を見た。必死に答えを出そうと、ノートに殴り書きをしては消す、を繰り返していた。
「えっと、xが-5で…」
 ついに混乱状態になったらしい。
 どうなる事かと見守っていると、斎藤の後ろの席の瀬野が、シャーペンの先で彼の背中を小突き、答えかなにかを耳打ちした。俺は瀬野の行動に対して、胸がズキっとなった。
 今頃もし斎藤の後ろの席だったら、あんな風に彼を振り向かせて、耳元で「好きだよ」って伝えられてたのかな。
「x=-5、y=-3、です」
「…はい正解。じゃあ、次の問題を…」 
 その後俺は、齋藤の方を見つめながら変な妄想をしては心の中で興奮していた。

 キーンコーンカーンコーン。
「姿勢、礼」
「ありがとうございましたー」
 睡魔に襲われながらも、50分間の授業を終えた。
 それにしても、ただ答えを教えているのを見ただけなのに、なんだかモヤモヤする。俺からなにかしないといけないのに、何も出来てない自分がもどかしい。
 そう思ったのと同時に、見てはいけないものを見た気がした。ふと斜め前に視線をやると、瀬野は斎藤の腕を引っ張り、耳と唇が触れそうなところで何かを囁いた様に見えた。斎藤は特に赤くなる様子はなかったが、いきなりの行動だったらしく、肩をビクッと震わせ硬直していた。
 瀬野は彼の腕を離すと、「よろしくー」と言って笑った。何に対しての返事なのかは分からないが、瀬野が斎藤のことを好きではない事を切に願った。

 6時間目は体育の移動教室で斎藤と行きたかったが、なぜか瀬野と一緒に行動しているため、松川・田宮の3人と行くことになった。
 田宮は、うちのクラスの中で一番頭がいい。顔立ちもいいほうだと思う。でも、消極的ということだけが玉にキズだと思う。
 俺はどうしても、前方にいる彼ら2人組が気に食わない。イライラしながらも、俺は隣にいる松川に話しかけた。
「まっつーはさ、あの二人見てどう思う?」
「別になんとも思わないけど。田宮はどう思う?」
「へぁっ…!?えっと、多分瀬野君は男前だから攻めとして…」
 真面目にぶつぶつとつぶやいては赤面している彼の話からすると、単にBLに見える、ということらしい。そして「あの」単語が出てきたということは、もしかしなくとも彼は腐男子だ。
 念の為、最近覚えたBL用語を交えながら、田宮に話しかけてみた。
「田宮ってさ、俺らのクラスに推しカプとかいるん?」
 彼は「よくぞ聞いてくれました!」と言うように、こちらを向き目を輝かせた。
「土谷君も腐男子…!?」
「ちげーよ。最近腐ってるやつ多いから聞いてみた」
 シュンとなりながらも、目の輝きは残ったままだった。
 BL用語って言っただけで勘違いされるのか、気をつけよう。
「俺の推しカプは、土谷君と斎藤君です!」
「…えっ、まじ!?それちょっと詳しく!」
 まさか、外部からそんな風に思われていたとは。思わず顔がほころんでしまった。話の聞き甲斐がありそうな気がした。
「今から体育だから、後でもいい?」
「じゃあ、終わった後の着替えの時にしよ」
 彼は快く承諾してくれた。
「あー、今からバスケめんどくせー。来年度からサッカー部入ろーかな」
 俺のふと出た本音が、いつの間にか斎藤に伝わっていた、ということはまだまだ先の話だ。

「ツンデレな攻めである土谷君と、執着心強めな受けである斎藤君って最高だと思って…!」
 田宮の話す腐トークは、何気に面白かった。俺自身が腐ってるわけではないが、特に斎藤の話を聞くのが楽しかった。
 執着心強めの受け、か。確かに、バスケだって小学一年生の頃からやってて、飽きずに頑張ってる。それに対して、俺は辞めたいとか面倒くさい、って思っている。
 その執着が俺にはならないのか、という妄想が、ふと頭をよぎった。



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