もう「友達」なんかじゃいられない。

らぉん

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【中2編】第4章「好き、ということ」

伝えたい、けど(亜紀目線)

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『俺、陽真の事好き。だから付き合って欲しいな』

 やっぱり言おうかな。瀬野には申し訳なくなるけど、他の男子にはとられたくないし。でもいきなり言われると、流石に引かれてしまうかもしれない。いつ、どのタイミングで告白するのがベストなんだろう。
「で、ここが3xになるから、yが-4になって…」
 そう考えると、瀬野はいつ告白するつもりなんだろう。放課後呼び出す、とか?部活が違うからそれぐらいしか方法ないよね…?そういえば俺、陽真とライン繋がってたっけ。メールで告白するのもいいな。

「じゃあここの問題を、斎藤君」
「…えっ!?」
 考え事をしていたせいで、授業を聞き逃してしまっていた。
 今は数学の授業中。黒板を見ると、教科書の問題の答え合わせをしているみたいだった。授業開始早々、考え事をして先生の話を聞かなかったのは初めてだ。
「えっと、…xが-5で…」
 数学は得意だが、流石に即時には考えられない。
 戸惑っていると、後ろの席の瀬野がシャーペンの先で俺の背中を小突いた。後ろを向くと、そっと答えを耳打ちしてくれた。
「xが-5なのは合ってて、yが-3」
 ありがとう、と小声でいった後、再び視線を黒板へ向けた。
「x=-5、y=-3、です」
「…はい正解。じゃあ、次の問題を…」 

 俺は授業後の号令が終わると、立ったまま後ろを向いた。
「ねえ、さっきはなんで助けてくれたん?」
「どうせ考え事してたんでしょ。恥かかせたくなかったし。その代わりに、してほしいことがあって」
 してほしいこと。勉強を教えてほしい、とか?
 俺は首を傾げた。すると彼は、耳貸して、と俺の腕を引っ張った。
「今度こそは俺に協力しろ」
「あ、あれのこと?」
 多分、県大会のときの協力すると言ったはしから、俺自身のことに夢中になって彼を優先しなかった話のことだ。
「俺決めたんだけどさ、明後日の放課後部活ないじゃん?だからその時に告ろうと思って。斎藤は陽真に残っててって言ってくれるだけでいいからさ」
 周りの人を気にしているからか、声のトーンは落としたままだった。
 ついに、告るんだ。悔しさと衝撃で、顔が青ざめていくのが分かった。同時にモヤモヤしたものが頭の中をよぎった。瀬野が先に告ってしまうと、結局は俺が不利になる。もし仮に瀬野と陽真が付き合ったら…、俺はどうすれば良いんだろう。
「え、あー。…分かった」
 俺は戸惑いながらも頷いた。瀬野は、俺の腕を離すと「よろしくー」と軽快に笑った。
 陽真の好きな人もまだ分からないのに、こんなに自信を持って告白しようとしている彼が、なぜかほんの少しだけ輝かしく見えた気がした。

 キーンコーンカーンコーン。
「ありがとうございましたー」
 帰りの会が終わり、俺はリュックを背負った。
「ねえ斎藤、一緒に帰ろー」
「ん?別に良いけど」
 同じくリュックを背負った松川が話しかけてきた。松川は前の席だが、こうして1対1で話すのは告られた日以来かもしれない。
 その時、たまたま松川の後ろにいた陽真のことが気になった。彼は瀬野と帰るらしく、リュックを手に持ったまま「瀬野はよしろや」とせかしていた。すると、瀬野は後ろから嬉しそうな声音で「お願い待てって」と嘆いていた。陽真がもし瀬野の事が好きだったら…、と思うと胸が苦しくなった。

 俺らは下駄箱で靴を履き替え校門をくぐったところで、最初に松川が口火を切った。
「そういえば、斎藤部活は?」
「今日は勉強するから休む。そっちは?」
「習い事の方のバスケ。急遽5時からになったから休まざるを得なくなってさー」
 松川は小学生の時から地元のバスケクラブに入っている。バスケ部員のほとんどは、こうしたクラブと学校の部活とで掛け持ちしている生徒が多い。しかし、自分は部活しか入っていない。
「最近はバスケどころか、ボールでサッカーしてる人多いんだよねー。なんかみんなやりたがるんだけど」
 なんとなくの男子あるあるだ。
「サッカーってモテるイメージあるんじゃない?」
「バスケの方がモテるイメージあるの俺だけ?斎藤はそれ肯定できるんだ」
「陽真がこの前言ってたなーと思って」
 少しでも好きな人と同じ気持ちになりたかったから、という理由は流石に言えないので伏せておこうと思った。
 別れ際の地下道に差し掛かったところで、ふと松川は何かを思い出したのか、あっ、という声を漏らした。
「どしたん?」
「そういえば、陽真今年度でバスケ部辞めるって。来年度からはサッカー部入るらしい」
「え…」
 今知った衝撃の事実に、俺はただ呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
 その本音は、後々陽真に説明されることは、まだ今の俺にはわからない。

「土谷君と斎藤君が推しカプ」
 6時間目の移動教室、田宮が言っていたあの言葉にも衝撃を受けた。もちろん、嬉しくて。
 
 妄想なんかじゃなくて、本当のカップルに、なれたらいいのに。


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