232 / 235
番外編 第二話
その五 ダイニング
しおりを挟むいま倒したゴロツキ共を、サムソンが土魔法の土や石で身体を固めていく。呼吸はできるように、顔までは固めなかったが。とりあえずは拘束したわけだ。
そいつらを拘束した固まりをツンツンしながら、トウカは興味深そうに言った。
「へえ、やっぱり魔法って便利だねえ。こんなことも出来るなんてさ」
「トウカはできないのか? 魔法」
俺が尋ねると、トウカは立ち上がってから肩をすくめた。
「体質の問題なのかねえ。あたしは魔法とやらは使えないんだ。魔力もね」
「……、……肩をすくめるのが癖らしいな」
「もしかして、肩すくフェチかい? ならもっとしてやるぞい」
「違えし。そもそも初めて聞いたぞ、そんなフェチ」
「あはは」
サムソンが錆びて壊れている鉄格子の門を開けながら言ってくる。
「行くぞ。逃走している気配がないということは、奴らは僕らを迎え撃つようだ。一層気を引き締めろ」
「……ああ」「了解了解」
俺とトウカは返事をして、そして俺達は廃墟の屋敷へと乗り込んでいった。
廃墟の屋敷のなかには相当な数のゴロツキ共が潜んでいた。まるで黒光りするあの気持ち悪い虫みてえに。
「ゴロツキを一人見たら、その五十倍はいると思えってか」
「あはは、面白いことを言うね、シャイナは。どうせならダイヤとかの宝石がたくさん出てくればいいのにね」
「意外と物欲的だな」
「あはは。でもまあ、そんなに出てきたら駄目か。希少だからこそ価値があるのであって、たくさんあったら暴落するもんだからね」
師匠みたいなこと言う奴だな。
そんなことを言いながらも、俺達はうじゃうじゃと湧いて出てくるゴロツキ共を片っ端から倒していく。サムソンや俺がそうするのは分かり切っていたことだが、トウカもまた俺達に負けず劣らずの大活躍を見せていた。
倒した数を正確には覚えていないが、おそらく俺やサムソンと同じくらいかもしれない。拳撃や蹴撃、防御や回避などの身のこなしに一切の無駄がなく、全てが洗練されていた。
あるいは、純粋な体術だけなら俺やサムソンより上かもしれない。おまけに数多くの敵を倒しながらも、その息は一つも乱れていなかった。
まあ、それは俺やサムソンも同じだったが。
「まさかトウカがここまで戦えるとはな」
「シャイナは意外と無神経かい? そういう君達こそ、まさかここまで強いとはね。本当にBランクとノーランクかい?」
「それはこっちの台詞だな」
ゴロツキ共を床に伸していきながら、俺とトウカはそんな会話をする。やがて周囲に立っているのは俺達だけになっていた。
手を軽く払いながら俺は言う。
「増援はもうないみたいだな。ってことは、これで全部か?」
「ちょいとお待ちよ。いま気功で周りの気配を探ってみるから」
「へえ、そんなこともできるのか、気功は」
「魔法は出来ないのかい?」
「できるやつもあるけどな。少なくともいまの俺にはできないな」
「ふーん」
トウカが目を閉じて、身体の力を抜いて自然体になる。周囲の気配を察知するために、聴覚や嗅覚、空気の流れを感じる触覚などに集中しているのだろう。
と、そこでいきなり目を開いて、廊下の先の暗がりへと急いで顔を向けた。
「そこにいる! 一人だ!」
俺とサムソンも急いでそちらに向いたとき、その暗がりからフード付きの上着で顔を隠した奴が廊下の向こうへと駆け出した。
「逃げたぞ!」
サムソンが叫んで、俺達は追いかける。走りながらも、俺はトウカに聞いた。
「トウカ、他の奴は⁉」
「この近くにはいないね。あいつがゴロツキ共のボスなのかな」
「さあな。だが、奴が最後の一人ならそうかもな!」
ところどころ蜘蛛の巣が張ってたりゴミや埃が散乱している廊下を、俺達は駆けていく。やがて視界の先に、ゆらゆらと微かに揺れているドアが映り込んだ。
奴はあそこに逃げたらしい。ドアが揺れているのは、急いで開けて入ったせいだろう。俺達はそのドア……両開きになっている元は豪華なドアを思い切り開けて、室内へと足を踏み入れた。
「ここは……ダイニング、か?」
「そうらしいな。気を付けろ、シャイナ」
俺の疑問にサムソンが答える。その部屋は広く、中央には縦長の大きなテーブルが置かれていた。汚れたテーブルクロスが掛かっているそれ以外には、壁面に蝋燭を灯すための燭台や、天井から吊るされているシャンデリアなどがある。
無論、もうすでに蝋燭はなかったが。閉じられたカーテンの隙間から差し込むわずかな陽の光だけが、そのダイニングを辛うじて目に見えるものにしていた。
「奴はどこに行った? トウカ、分かるか?」
「ここにいることは確かだよ。でも具体的な居場所となると、集中しな……待った」
俺の問いに答えるトウカの声音に緊張が走った。いままでで初めて見せた緊張感だ。
「もう一人、いる……」
「もう一人? 奴の仲間か⁉」
トウカはそれにははっきりとは答えずに。
「これは……女性? 呼吸が乱れている……まさかひとじ」
「動くなァッ!」
そのとき、ダイニングの奥、おそらくはキッチンと繋がっているドアが蹴られたように勢いよく開けられて男の声が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
異世界を8世界ほど救ってくれって頼まれました。~本音で進む英雄譚~(仮)
八神 凪
ファンタジー
神代 陽(かみしろ はる)はゲームが趣味という普通の高校生。
ある時、神様軍団に召喚されて異世界を救ってくれと頼まれる。
神様曰く「全部で8つの世界」が危機に瀕しているらしい。
渋々承諾した陽は、「主人公」と呼ばれる特異点を救うため、旅立つことになる。
「俺は今でも納得してないからな!」
陽の末路や、如何に!!
最底辺の落ちこぼれ、実は彼がハイスペックであることを知っている元幼馴染のヤンデレ義妹が入学してきたせいで真の実力が発覚してしまう!
電脳ピエロ
恋愛
時野 玲二はとある事情から真の実力を隠しており、常に退学ギリギリの成績をとっていたことから最底辺の落ちこぼれとバカにされていた。
しかし玲二が2年生になった頃、時を同じくして義理の妹になった人気モデルの神堂 朱音が入学してきたことにより、彼の実力隠しは終わりを迎えようとしていた。
「わたしは大好きなお義兄様の真の実力を、全校生徒に知らしめたいんです♡ そして、全校生徒から羨望の眼差しを向けられているお兄様をわたしだけのものにすることに興奮するんです……あぁんっ♡ お義兄様ぁ♡」
朱音は玲二が実力隠しを始めるよりも前、幼少期からの幼馴染だった。
そして義理の兄妹として再開した現在、玲二に対して変質的な愛情を抱くヤンデレなブラコン義妹に変貌していた朱音は、あの手この手を使って彼の真の実力を発覚させようとしてくる!
――俺はもう、人に期待されるのはごめんなんだ。
そんな玲二の願いは叶うことなく、ヤンデレ義妹の暴走によって彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて玲二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
義兄の実力を全校生徒に知らしめたい、ブラコンにしてヤンデレの人気モデル VS 真の実力を絶対に隠し通したい、実は最強な最底辺の陰キャぼっち。
二人の心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜
Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。
だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。
仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。
素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。
一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる