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番外編 第二話

その五 ダイニング

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 いま倒したゴロツキ共を、サムソンが土魔法の土や石で身体を固めていく。呼吸はできるように、顔までは固めなかったが。とりあえずは拘束したわけだ。

 そいつらを拘束した固まりをツンツンしながら、トウカは興味深そうに言った。



「へえ、やっぱり魔法って便利だねえ。こんなことも出来るなんてさ」

「トウカはできないのか? 魔法」



 俺が尋ねると、トウカは立ち上がってから肩をすくめた。



「体質の問題なのかねえ。あたしは魔法とやらは使えないんだ。魔力もね」

「……、……肩をすくめるのが癖らしいな」

「もしかして、肩すくフェチかい? ならもっとしてやるぞい」

「違えし。そもそも初めて聞いたぞ、そんなフェチ」

「あはは」



 サムソンが錆びて壊れている鉄格子の門を開けながら言ってくる。



「行くぞ。逃走している気配がないということは、奴らは僕らを迎え撃つようだ。一層気を引き締めろ」

「……ああ」「了解了解」



 俺とトウカは返事をして、そして俺達は廃墟の屋敷へと乗り込んでいった。

 廃墟の屋敷のなかには相当な数のゴロツキ共が潜んでいた。まるで黒光りするあの気持ち悪い虫みてえに。



「ゴロツキを一人見たら、その五十倍はいると思えってか」

「あはは、面白いことを言うね、シャイナは。どうせならダイヤとかの宝石がたくさん出てくればいいのにね」

「意外と物欲的だな」

「あはは。でもまあ、そんなに出てきたら駄目か。希少だからこそ価値があるのであって、たくさんあったら暴落するもんだからね」



 師匠みたいなこと言う奴だな。

 そんなことを言いながらも、俺達はうじゃうじゃと湧いて出てくるゴロツキ共を片っ端から倒していく。サムソンや俺がそうするのは分かり切っていたことだが、トウカもまた俺達に負けず劣らずの大活躍を見せていた。

 倒した数を正確には覚えていないが、おそらく俺やサムソンと同じくらいかもしれない。拳撃や蹴撃、防御や回避などの身のこなしに一切の無駄がなく、全てが洗練されていた。

 あるいは、純粋な体術だけなら俺やサムソンより上かもしれない。おまけに数多くの敵を倒しながらも、その息は一つも乱れていなかった。

 まあ、それは俺やサムソンも同じだったが。



「まさかトウカがここまで戦えるとはな」

「シャイナは意外と無神経かい? そういう君達こそ、まさかここまで強いとはね。本当にBランクとノーランクかい?」

「それはこっちの台詞だな」



 ゴロツキ共を床に伸していきながら、俺とトウカはそんな会話をする。やがて周囲に立っているのは俺達だけになっていた。

 手を軽く払いながら俺は言う。



「増援はもうないみたいだな。ってことは、これで全部か?」

「ちょいとお待ちよ。いま気功で周りの気配を探ってみるから」

「へえ、そんなこともできるのか、気功は」

「魔法は出来ないのかい?」

「できるやつもあるけどな。少なくともいまの俺にはできないな」

「ふーん」



 トウカが目を閉じて、身体の力を抜いて自然体になる。周囲の気配を察知するために、聴覚や嗅覚、空気の流れを感じる触覚などに集中しているのだろう。

 と、そこでいきなり目を開いて、廊下の先の暗がりへと急いで顔を向けた。



「そこにいる! 一人だ!」



 俺とサムソンも急いでそちらに向いたとき、その暗がりからフード付きの上着で顔を隠した奴が廊下の向こうへと駆け出した。



「逃げたぞ!」



 サムソンが叫んで、俺達は追いかける。走りながらも、俺はトウカに聞いた。



「トウカ、他の奴は⁉」

「この近くにはいないね。あいつがゴロツキ共のボスなのかな」

「さあな。だが、奴が最後の一人ならそうかもな!」



 ところどころ蜘蛛の巣が張ってたりゴミや埃が散乱している廊下を、俺達は駆けていく。やがて視界の先に、ゆらゆらと微かに揺れているドアが映り込んだ。

 奴はあそこに逃げたらしい。ドアが揺れているのは、急いで開けて入ったせいだろう。俺達はそのドア……両開きになっている元は豪華なドアを思い切り開けて、室内へと足を踏み入れた。



「ここは……ダイニング、か?」

「そうらしいな。気を付けろ、シャイナ」



 俺の疑問にサムソンが答える。その部屋は広く、中央には縦長の大きなテーブルが置かれていた。汚れたテーブルクロスが掛かっているそれ以外には、壁面に蝋燭を灯すための燭台や、天井から吊るされているシャンデリアなどがある。

 無論、もうすでに蝋燭はなかったが。閉じられたカーテンの隙間から差し込むわずかな陽の光だけが、そのダイニングを辛うじて目に見えるものにしていた。



「奴はどこに行った? トウカ、分かるか?」

「ここにいることは確かだよ。でも具体的な居場所となると、集中しな……待った」



 俺の問いに答えるトウカの声音に緊張が走った。いままでで初めて見せた緊張感だ。



「もう一人、いる……」

「もう一人? 奴の仲間か⁉」



 トウカはそれにははっきりとは答えずに。



「これは……女性? 呼吸が乱れている……まさかひとじ」

「動くなァッ!」



 そのとき、ダイニングの奥、おそらくはキッチンと繋がっているドアが蹴られたように勢いよく開けられて男の声が聞こえてきた。



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