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第二部 炎魔の座
第百三十八話 炎魔代行
しおりを挟む俺は一度沈黙した。それからまた口を開いて。
「……やけに素直に引き下がるんだな。てっきり決まるまで何度でも戦り直すのかと」
ライースとトリンがうんうんとうなずいた。しかしフリートとサラは。
「…………全く無駄なことをしても疲れるだけだ」
「……私としては、こいつに文句を言わせる隙のない、きちんとした勝利を手にしたいのです……」
サラはともかく、フリートがそう言うとはな。グレンとの戦いで心境の変化でもあったのだろうか……?
二人の言葉を聞いて、俺は。
「……なるほどな」
まあ、二人がそう言うのなら……そんな気持ちになっていた。
少しの間、全員が口を閉ざす。微妙で複雑な空気が流れていた。そしてサムソンが言った。
「結局、炎魔源はどうなるんだ? まさかいままで通りとするわけにもいかないだろう? 炎魔の継承者だけではなく、炎魔法を再び使えるようにしなければならないんだからな」
それを決めるための二人の決闘だったんだけどな……。
俺達の視線は自然とアカ達、炎魔の召し使い達に向けられていった。炎魔源の今後を決めるには、彼らの意見も必要だからだ。
俺達の視線を受けて、さんにんを代表するように、アカが口を開く。
「私達の総意としては、グレンを協力して斃したフリートさまとサラさまに、炎魔源を継承する資格があると考えています」
みんなを代表するように俺は応じる。
「だが、決闘は引き分けだった。その場合はどうするんだ?」
「……本来ならば、勝利者が決まるまで保留にすべきなのですが。炎魔法を再び使えるようにしなければならないのですよね」
「ああ。サムソンも言っていたが。俺も出来れば使えたほうがいいと思う。帝国に住む奴とか、魔法を使う奴のことも考えれば、そのほうが便利だからな」
「……であるならば。暫定的な継承者……いえ、炎魔代行を決めておくという方策を取るべきでしょう。可能な限り中立な立場の者に。次の炎魔様が決まるまでの間」
それはつまり……。
「……誰にするんだ?」
アカ達が互いに目を見交わした。それからまた俺達に向く。
「それを告げる前に、まずお断りしなければなりません。はっきり申し上げると、これは異常事態です。いままでの炎魔源の歴史において初めての事象となります」
エイラが声を漏らした。
「……それって……」
そしてアカは告げた。
「不肖、私、炎魔源の被造物にして召し使いであるアカが、その義を全う致したいと思う所存であります」
次代の炎魔が正式に決定するまでの間、アカが炎魔の代行者となることが決まった。
それに対してトリンは、
「えーっ⁉ ここまでやっといて、結局それーっ⁉」
と不満そうな声を上げていた。他のみんなも言葉にこそしていなかったが……結局そうなるのか……となにかしらの文句は言いたそうな顔つきはしていたが。
「でも、アカさんは召し使いなんですよね? 炎魔法を使えるようにはできるんですか?」
地面に正座で座るサラの怪我を治しながらエイラがそう聞いた。ちなみにフリートはヨナが治している。聞いたのはエイラだが、みんなが疑問に思っていたことだろう。
それに対するアカの返答としては。
「可能か不可能かで言えば、可能です。炎魔源の力は私達にそれぞれ分担されており、その力の一部を契約することになります。必要であれば私の統括の元、アオとクロの力も契約していくつもりです。先程フリートさまとサラさまに、炎魔源の力を分け与えたのと近い理屈ですね」
俺は尋ねた。
「そうすると、新たな炎魔が決まったときはどうなるんだ?」
「その際は、契約者との契約関係も含めて、全ての権利と力を新たな炎魔様へと譲渡することになります。私はあくまで暫定的な炎魔代行ですので」
「……なるほど……」
「他にご質問のある方はございますか?」
俺達は顔を見合わせた。質問する者はいなかった。
俺達を見渡したアカが言った。
「ではご質問がないようですので……まずはここにいらっしゃる方々と炎魔法の契約を結びたいと思います。最初にフリートさま、サラさまと契約致しましょう。その後、希望する方は前に出てきてください」
エイラとヨナが傷を治したあと、フリートとサラがアカの前に出て契約を完了させる。
「お二人は炎魔継承者として契約致します。是非とも次代の炎魔様となるべく、更なる力を高めてください。私達はいずれ来たるその時をお待ちしております」
「「…………」」
二人は互いに睨む目を見合わせていた。次に戦うのは半年後か、一年後か……。
その後は、サムソン、ライース、ザイがそれぞれ炎魔法士として契約していった。ライースとザイはこのために争奪戦に参加していたわけだから、やっと力を手にできて一応満足したらしい。
「お三方は他の魔存在と契約している関係上、炎魔法士としての契約に留めさせていただきます。ご了承ください」
そしてアカはエイラ、ヨナ、トリンに顔を向けると。
「貴方がたは契約なさらなくて大丈夫ですか?」
エイラは苦笑しながら首を横に振った。
「あはは……わたしは攻撃系の魔法の才能がないみたいで……せっかく契約しても使いこなせないだろうから遠慮しておきます……」
「そうですか……」
トリンも契約するつもりはないみたいだった。
「あー……あたしもやめとこうかな。縛魔法と炎魔法って普通に相性悪いから。縛魔に文句も言われちゃいそうだし。面倒くさいんだよねー、縛魔がいじけると」
「そうですか」
ヨナはというと、フリートに一度目を向けていた。フリートの手前、炎魔法の契約を遠慮するつもりなのかもしれない。……と、それを見越したのか、フリートがヨナに言った。
「我輩に気を遣うのなら、不要な気遣いだ。断る理由がないのなら、契約しておけ。更なる戦力強化に繋がるからな」
「……フリート様がそう仰るのなら……承知しました……」
というわけで、ヨナも契約することになった。
「ヨナさまも他の魔存在との兼ね合いから、炎魔法士として契約させていただきます」
それからついでにフリートの配下の魔物達も契約することになった。
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