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第二部 炎魔の座
第百三十六話 互角
しおりを挟むドームを揺るがす衝撃……身を守れているのはいいんだが。
「おい、なんにも見えなくなったんだが」
俺が言うと。
「あ、悪りい」
「お? 悪い悪い、ガハハ」
ライースとザイがそう答える。悪びれているようには聞こえないがな。
ヨナの影のドームも内部は暗めではある。しかしヨナは視界が確保できるように、完全な暗闇にはせずに薄めの影にして、二人の戦いが分かるようにはしていた。
ザイの声が言ってくる。
「でもよ、あいつらの戦いから守るんならこれくらいしねえとな」
「それはそうかもしれないが……見えなかったら意味がないだろ。なんとかならないのか?」
エイラの声が注意してくる。
「シャイナ、駄目だからね、明かりの魔法を使っちゃ」
「分かってるよ。とにかく誰か……」
今度はライースの声がした。なんかびっくりしている声だ。
「うわっ⁉ 誰だよ俺のケツ触りやがったの⁉」
俺は文句を言う。
「ライースうるせえ」
「いやだから誰かが俺の……」
「おまえのケツなんか好きで触る奴いるかよ。ぶつかっただけだろ。真っ暗なんだから」
「…………、何か俺の扱い雑じゃね……?」
そのとき小さな明かりが灯った。ライースのケツの辺り、そこにアオの頭があって、もふもふとした体毛が発光……いや火がついていた。
「あ、さてはお前だな⁉ 俺のケツ触ったの⁉」
「…………」
ライースの言葉にアオは一瞥するが、また俺達のほうを向く。お前のケツなんか好きで触るか、とか、これでいいだろ人間、とか思ってそうな顔だ。
「サンキュー、アオ。だが、二人が見えないのはどうするか……」
「……それなら私が何とかしましょう……」
俺の声にヨナが答える。少しして俺達の前に大きな横長のウィンドウが現れて、そこに二人の戦いが映し出された。
「……通信魔法の応用ですが……」
通信魔法には相手の姿を投影する機能もある。要は二人を対象にした通信魔法を使って、その映像を映し出したわけだ。
「サンキュー、ヨナ。これで分かるな」
いまの俺達のやり取りの間に、結構な戦いが繰り広げられていたらしい。拳と拳、蹴撃と蹴撃をぶつけまくっている二人は、すでにあちこちに裂傷やアザを作っていた。
「……ほとんど互角のようだな。いまのフリートと、あのダークエルフの女性の実力は」
不意に言ってきたのはサムソンだ。腕を組んで、いつも通りの生真面目な顔をウィンドウに向けていた。
しかし独り言のように言ったせいもあるだろうが、誰もサムソンの声に返答することはなかった。無視しているわけではない、どう反応したらいいのか分からないだけだ……と思う。
ライースとザイはほとんど交流がないし、アカとアオとクロに至ってはほとんど初対面に近い。エイラは相変わらず仲が悪いみたいだし。
フリート派閥のヨナやトリンや魔物達は元々敵対していたし……っていうか、もしかしたら反応する気もないかもしれないが。
あれ? さっきはああ思ったけど、実は半数くらいに無視されている……? …………。場を繋ぐように俺は口を開く。
「そ、そうみたいだな。果たしてどっちが勝つことやら……」
「……ああ。まあ僕自体はどっちが勝っても、どうでもいいがな」
答えたのはサムソン。しかしやはり誰も応じない。むしろ……ならなんで見に来たんだよ……っていう無言の文句が聞こえてきそうだ。主にエイラやトリンや魔物達から。
みんなの思っていることを代弁するつもりではないが……。
「そ、そうか……な、ならなんで見に来たんだ? 騎士団の仕事や訓練とかで忙しいんだろ?」
「リダエル団長とウィズ団長に頼まれたからだ。次代の炎魔を継承するのが誰か、見届けて報告するようにと」
「そうか……」
リダエルやウィズなら確かにそう言いそうだな。今後の帝国のためにも、炎魔を継いだのが誰だか把握しておく必要があるだろうから。
「僕としては、逆に君に聞きたいがな」
「なにをだ?」
「しらばっくれるな。帝国とフリートの協力態勢とやらだ。結局どうなったんだ?」
「ああ、それな……」
正直、俺自身ここまで長引くというか、ややこしくなるとは思わなかった。
「皇帝自身はやや前向きに検討しているみたいなんだけどな……肝心のフリート自身がまだ了承していないんだ、これが」
この三日間の間にも一、二度、通信魔法による対話の場は設けたが……相変わらずの状態が続いていた。対話自体はしてくれているから、フリートも完全に拒否するわけではないのだろうが。
フリートとしては、炎魔を継ぐまでは決定的な発言は避けているのかもしれない。実際に炎魔になるかどうかで、今後の振舞いや対応を変える必要があると思っている……のかも?
「普通にもっと掛かるかもな。協力するにしても、しないにしても」
「君が始めたことだ。ちゃんと見届けるんだな」
「分かってるさ」
サムソンとのこの会話の間に、二人の戦いは次の局面へと移っていた。徒手空拳では埒が明かないと判断したのだろう、二人は互いに距離を取りつつ、高速移動しながら豪快な炎魔法を連発していた。
「『フランベルジュ』!」
「『アバリス』!」
フリートが蒼炎の長剣、サラが紅炎の弓矢をそれぞれ構える。そして強大な蒼い炎と、紅炎の矢の嵐が衝突していった。
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