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第二部 炎魔の座
第百三十四話 私達の
しおりを挟むヨナ達がいる場所に影のドームが現れる。グレンの瞬身斬による急襲と俺達の攻撃の余波を防ぐために。大きさからして、フェン、ベル、ワムは小さな姿に戻したらしい。
「立て、ダークエルフの女。これが最後の一撃だ」
「命令するな。言われなくても分かっている」
フリートが言い、サラが立ち上がる。サラとフリートが受け取った魔力を開放し、その拳にサラが紅い炎、フリートが蒼い炎をまとわせた。
俺もまた、いま俺にできる最大限の魔力を拳に集中させる。
「「「行くぞ、グレン!」」」
そして俺達は地面を蹴って、奴の元へと飛び出していく。
グレンが叫んだ。
「クソがッ! ふざけるなッ! 俺は炎魔だッ! こんな奴らに負けてたまるかッ!」
奴が振り上げている魔剣に魔力を集中させようとするが、その瞬間、その魔力の一部が消失した。
「なッ、何だッ⁉ 炎魔の魔力が……ッ⁉」
『お前には失望させられた。瀕死の者から生命力を奪うなど、炎魔のするべき所業ではない』
「貴様は……ッ⁉」
クロの声。グレンの空洞の胸元から響いていた。
『私は間違っていた。お前は炎魔の器ではなかった』
「ふざけるなッ! 俺は……ッ!」
『さらばだ。炎魔を目指した愚かな者よ』
「クソがァッ! どいつもこいつも俺の邪魔ばかりしやがって!」
グレンが振り上げていた剣を振り下ろした。黒の斬撃波が俺達へと迫る。しかし炎魔としての魔力が完全に消失し、自身の魔力も底を尽きかけているその斬撃波は、いままでのものよりも遥かに小さく弱かった。
避けるのは容易く、俺達は左右に分かれて回避し、なおもグレンへと突き進んでいく。距離はまだわずかに遠く、奴がもう一度魔剣を振り抜こうと身構える。
「力を求めて何が悪いッ! 力の為に他の奴らを犠牲にして何が悪いッ! 俺はただ永久不変に最強無敵の存在を目指しただけだッ!」
グレンが叫ぶ。それが奴の心からの叫びであり、願望だった。みんなを代表するように、俺も俺の思っていることを言う。
「力はなにかを、誰かを守るためにある。他者を犠牲にする力には、なんの意味もない。その先に待っているのは、ただの孤独だ」
虚無の孤独。無為の存在。全てを犠牲にした先にあるのは、寂しいだけの心の穴だけだ。
「ほざけェッ!」
グレンが剣を振り抜こうとする。その直前に、俺達は奴の元へと到達した。完全に振り抜くその途中の剣身に、サラ、俺、フリートの拳が激突する。
「グオオオオッ!」
「「「うおおおおっ!」」」
これが勝負を決める最後の一撃になると、奴自身悟ったのだろう。グレンの全身と魔剣から魔力が瞬間的に爆発するように膨れ上がり、魔剣の威力が跳ね上がる。
「出し惜しみするな! 全ての魔力を開放しろ!」
「貴様こそっ!」
フリートとサラが叫び、俺達はさらなる魔力を、身体中の魔力を一欠片も残さずに開放する。いままでの戦いの影響で、一人一人の魔力はいまのグレンには及ばない。特にいまの俺の魔力に至っては、あまりにも小さ過ぎてサラとフリートの足元にも届いていないだろう。
だが、しかし、その俺達三人を合わせた魔力の総量は……ギリギリ、本当にギリギリで、かすかにグレンの魔力を上回った。
「オオオオ……ッ!」
「「「おおおお……っ!」」」
魔力と魔力の激突、波動と波動のぶつかり合い……魔剣レーヴァテインに小さなヒビが走った。
「な……ッ⁉」
そのヒビは剣身全体へと広がっていき。
「「いっけーっ!」」
「……いってください……っ!」
エイラとトリンとヨナの声援が聞こえた。ベルとフェンの吼え声も。ワムの応援する意志も伝わってくる。
「「……やっちまえ……!」」
「……僕が出来ないのは悔しいが……やるんだ……!」
ライースとザイとサムソンの意志もまた届いてくる。
そして。
魔剣レーヴァテインが粉々に砕け散っていった。
それとともに、グレンの身体が淡い灰色の光に包まれる。
「バ……カな……この……俺……が……ッ……」
そして灰色の光が消えていくと同時に、グレン自身の身体が灰となり、魔力の激突の余波によって跡形もなく散っていった。
魔力が消失する。波動が収まっていく。俺達は地面へと仰向けに倒れていく。俺の左隣にサラ、右隣にフリート……三人とも体力も魔力も使い果たして、大の字のようになっていた。
「……やった……勝った……」
「……ええ……私達の勝利です……」
「……ふん……お前達でも役に立つことがあるのだな……」
「……貴様は黙ってろ……」
こんな状況でもいがみあえるんだな、おまえら。やれやれ……俺は心のなかで嘆息する。
そんな俺達へと、歓声を上げながらエイラとトリンが駆け寄ってくる。
「シャイナーっ! やったよーっ! 勝ったよーっ!」
やめろエイラ抱き付くな! いまは……痛ってーっ!
「みんな格好良かったよーっ!」
「トリン⁉ 何故私に抱き付く⁉ お前はフリート派閥だろ⁉」
「サラのほうが抱き付きやすいからだよーっ、おっぱいももふもふだしーっ」
「やめっ⁉ 余韻が台無しだろっ⁉」
少し遅れてヨナが歩いてくる。
「……やりましたね、フリート様……」
「……ふん……こいつらと共闘したのは癪だがな」
フリートは片膝を立てて起き上がる。
「……だが……悪くない気分だ……」
小さくつぶやいたその声は、よどみがなくすっきりしていた気がした。
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