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第二部 炎魔の座
第百三十二話 本当に最期にするために
しおりを挟むそこで話を聞いていたサラが口を挟んでくる。
「シャイナどの、それならライースやザイもトリンで操れるのでは?」
トリンはかつて俺の元パーティーメンバーを操ることができた。ならばライース達も操れるだろうが……。
サラの言葉にトリン自身が答える。
『サラの言う通り、複数を同時に操ることも出来るけど、そうすると一つ当たりの精度は格段に落ちるよ。少なくともシャイナが思うようには身体を動かせなくなる』
「…………」
『あたしとしては、シャイナ一人に集中したほうがいいと思う。……どうするかはシャイナに任せるけど』
サラが目を向けてくる。俺は二人に答えるように言った。
「……俺一人に集中してくれ……」
「…………」
『分かった』
サラも黙認したようだ。
俺はヨナに言う。
「そしてヨナ……ヨナはさっきの影魔法のように、俺達全体のサポートをしてくれ……特に、いまの俺達はグレンの攻撃を防御できるだけの余力がない……だから……」
『……分かりました……可能な限り善処しましょう……それと、そのチャンスがあればシャイナさまに適宜魔力を譲渡していきましょう……』
「……っ⁉ いいのか……?」
『……でなければ継戦出来ないでしょう……?』
「……確かにその通りだ……」
お見通しか……フリートの側近だけあって、ヨナは本当に察しがいいな。
『……ただし、ミストルテインを使える程の余裕はありませんが……』
「いや……譲渡してくれるだけで充分だ……」
俺は改めて三人に言う。
「ありがとう、三人とも……俺の我が儘を聞いてくれて……」
『……、我が儘じゃないよ。シャイナはいつだってわたし達の……わたしの希望だったから……っ』
「…………、それじゃあ、頼む、三人とも……」
通信を切る。かすかに遅れて、俺の身体各部に透明な魔力糸が付着してくる感覚。足先にわずかに力を込めると、カラクリ人形のように身体が自動で立ち上がった。
同時に、俺を回復していた魔法陣が強まる感覚。また魔力がわずかに補充される感覚もあった。
「シャイナどの……」
サラが見上げてくる。その顔には心配そうな色が。
俺はサラにうなずきを返す。こんな細かい動作もトリンは再現してくれていた。
「……行こう……グレンを斃しに……これで本当に最期にするために……」
「…………」
サラもうなずきを返して立ち上がる。そして俺達はまとっていた魔力を強化すると、いまなお激戦を繰り広げているフリート達へと飛び出すように駆けていった。
魔力糸で無理矢理動かしているせいで、全身には酷い痛みが走りまくっている。エイラの回復魔法がなかったら、とっくに絶叫を上げて気絶してしまいそうなくらいに。
だが。いまは無視する。いま動かなければ、全員が、みんなが確実に死ぬだけだ。
いまのエイラ達との会話の間に、戦況には変化が生じていた。俺達にとっては悪い変化が。
ベルが血を流して倒れ、空を飛んでいたフェンも地面に落ちていた。地面に投げ出されているサムソンの身体も動いていない。
動いていたのは全身に傷を負うフリートと、魔力は大幅に減少しているものの負傷があまり見当たらないグレンのみ。そのフリートもまた魔力が確実に減っていて、いつ体力と魔力が尽きてもおかしくなかった。
いや待て、なぜ俺が貫いたはずの心臓部の傷が、さっきよりも小さくなっているんだ……⁉
グレンは回復魔法は使えないはずじゃないのか? それとも実は使えるのか? いや、だったら完全に治っているはずだ……あれからそれなりの時間が経っているんだから……。
……そうか。
「「うおおお……っ!」」
俺とサラは手に魔力を込めてグレンへと放つ。俺は小さな魔力波、サラは魔力の矢を。
「ハアッ……!」
それをグレンは魔力をまとった腕で弾き飛ばした。ダメージこそなかったが、やはり奴の魔力は以前よりも減っていて、弱ってもいる。奴の魔力さえ使い切らせることができれば……っ。
「また起き上がったのか。しぶとい連中だ……!」
そして俺達はグレンへと辿り着くと、即席の連携攻撃をしていく。
拳撃、蹴撃、魔力弾、魔力波、魔力矢……フリートは俺を目の敵にしているし、フリートとサラはいがみ合っている……そんな俺達だが、いまこのときだけは不思議なことに見事な連携が取れていた。またそんな俺達を、ヨナが影魔法での防御などでサポートしてくれている。
「……フリート、サラ、聞いてくれ……グレンが持つレーヴァテインには、おそらく斬った相手の生命力を奪う力がある……」
「……っ⁉」「ほう……」
サラが驚きに目を開き、グレンが気付いたかと言いたげな声を出す。そしてフリートはというと。
「ふん。お前も気付いたか」
すでに気付いていたらしい。
「我輩もお前達が無駄話している間に気付いたがな。我輩達のこの残る傷跡。これが魔剣の力らしい」
「……ライースもそう言っていた。魔剣を破壊しない限り完全には癒えない傷だと。そしておそらくこれが、グレンが百年前から若さと力を保ってきた謎の正体だ」
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