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第二部 炎魔の座
第百三十一話 またみんなの役に
しおりを挟む「でかした、トリン」
未だ着地していないグレンの背後へと、フリートとベルが追い迫る。ふたりはトリンの仲間だから、もしかしたらあの蜘蛛の毒に多少は耐性があるのかもしれない。
「はああッ!」
「クソが……ッ!」
フリートとベルが強大な魔力をまとった拳と爪でグレンに、その右手に持つ魔剣に狙いを定めて攻撃する。しかしグレンは剣身での防御や斬り返しをしようとはせず、左手をかざして強固な紅蓮の盾を作って防いだ。
「……フッ……確定したな」
「……チッ……!」
フリートの口元に微かな、そして不敵な笑みが浮かぶ。対するグレンは、しまったと言いたげな舌打ちを漏らした。
紅蓮の盾はグレンが自身の魔力で作り出したものだ。黒炎をまとわせられなかったのは、そうする時間的余裕がなかったからだろう。それによって防御と、フリート達への反撃を同時にできなかったわけだが……問題はそこじゃない。
黒剣を使わなかったこと。とっさに黒剣……レーヴァテインをかばう挙動をしてしまったこと。それ自体が奴にとっての最大のミスだ。
「そしていまの貴様には、この程度の魔力からですら、その魔剣を守れる確信がないということだ」
「……っ」
いままでの、無傷のグレンであれば、防御する必要も魔剣を守る必要もなかった。それだけの圧倒的な実力差が俺達の間には、巨大な断崖のように存在していた。
だがしかし。いまはそれがなくなりつつあるんだ。俺のミストルテインやみんなの連携攻撃、グレン自身の魔力の消耗や不滅の肉体の正体を知られた焦慮などによって。
あと少し。もう少し。伸ばした手の指先が掠めている。あと一歩踏み出せれば……届く。
「ふざけるなッ! 俺は最強無敵の炎魔だッ! 貴様ら如きの雑魚共に殺られてたまるかッ!」
フリート達の攻撃を防いでいた盾にさらなる魔力が込もっていく。盾の表面が爆発するように燃え盛り、ふたりへと襲い掛かった。
「く……っ⁉」
フリートとベルが手から魔力を放出して、その反動によって飛び退いて炎から逃れる。いまライースは戦闘不能状態だ、あの炎に焼かれてしまえば今度こそ消火できずに死亡が確定する。
着地したふたりは、同じく着地したグレンへと再び即座に迫っていった。攻撃の手を緩めないために。
俺はいまだ俺のそばで守ってくれているサラに言う。
「……サラ……おまえもフリート達に加勢してくれ……俺なら大丈夫だ……」
「しかし……」
「頼む……俺もできる限り戦線に復帰しよう……」
「何を言って……?」
いまの俺は疲労困憊の極みであり、普通ならまず戦える状態じゃない。だからこそ、俺はサラからもらった魔力をわずかに指輪に込める。離れているエイラ達三人と話すために。
いまの俺に大声は出せないし、できる限りグレンに悟られたくはない。いま奴はフリート達との戦いに集中している、聴力に魔力を割いている余裕はないはずだ。
「エイラ、ヨナ、トリン……聞こえているか……?」
『シャイナ⁉ もう少し待ってて、怪我が治るまでまだ……』
「俺のこの体力の消耗はミストルテインの過剰使用が原因だ……たぶん回復魔法だけじゃあ完全には回復しない……いまの俺はただの役立たず、みんなの足手まといだ……」
『そんな……でも……』
「だから、聞いてくれ……ヨナとトリンも……俺がまたみんなの役に立てるように、戦えるように……」
『シャイナ、いったいなにを……?』
そのときヨナの声が割って入ってくる。
『……言ってください……出来る限り協力しましょう……』
『ヨナさん……』
ヨナがエイラに首を縦に振る気配。俺達の気持ちを察したらしいエイラが黙り込み、ヨナがまた俺に言ってくる。
『……シャイナさま……さあ……』
「……いまの俺は戦えない。だから……エイラは俺に遠距離から回復魔法をかけ続けて、俺の身体を少しでも長くもたせてくれ……」
『でも完全には回復しないって……』
「いいんだ……いまこのときだけ、一瞬でも長くもてば、それで充分だ……」
『…………っ』
エイラがなにも言ってこなくなる。了解したと受け取ろう。
「次にトリン……トリンは確か、糸を使ってものを操れるんだったよな……」
『そうだけど……まさか……?』
「そのまさかだ……トリンは俺の身体に糸をつけて、動かないこの身体を無理矢理動かせるようにしてくれ……正確には、俺が立ち上がれるようにしてくれ……そしてできれば、俺がほんの少し力を込めたら、その部分が動くようにしてくれ……」
『……、要は、操作先が主体の操作をすればいいってこと? あたしはあくまでシャイナの意志を汲み取ってサポートをする的な?』
「まあ……簡単に言えばそんなところだ……」
『分かった。やってみる』
トリンの操作は本来、操作物の意志がないような場合か、抵抗できない場合でしか使えない。でなければ、操作物に抵抗されてしまうからだ。
しかしいまは違う。操作される俺自身が了承した上での操作。それならば、動かないこの身体を動かせるはずだ。
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