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第二部 炎魔の座
第百三十話 召喚縛魔法
しおりを挟むそのとき、俺の身体を柔らかく温かい光が包み込んでいく。これは……回復魔法……エイラの魔法だ。
「……ぐ……ぅぉ……っ」
俺は立ち上がる。完全回復には程遠く、自分の足で立つことさえ無茶苦茶だが。それでもこのことをみんなに伝えねえと……っ。
「シャイナどの⁉」
「シャイナ⁉ まだ立っちゃ駄」
俺は叫んだ。いま出せる声の限りに。
「みんな聞け! グレンの生命はレーヴァテインのなかにある! レーヴァテインを破壊するんだ!」
戦場にいた全員が驚きの顔を浮かべる。あのフリートも、当のグレンでさえもまた。
「……ぐ……っ」
そして完治していない背中に再び激痛が走り、俺は地面に片膝をついてしまう。
「大丈夫ですか⁉ シャイナどの⁉」
そばにいるサラが言ってくるのと同時期に、グレンと戦うフリートが不敵な表情を取り戻していた。極めて細いが、勝利への一縷の活路を見出した顔だ。
「ふん……いまは奴の発見ということに目を瞑ろう。殺ってみる価値はある。そう思わないか」
「……戯れ言を」
フリート、ベル、フェン、サムソンの攻撃がグレンの魔剣へと集中していく。グレンはそれらを捌いていっているが……その動きには微かな違和感があった。巧妙に隠しているが、剣身による正面からの受け止めを可能な限り避けて、一瞬だけの弾き返しや受け流しを多用し始めていた。
「ふん。僅かだが先程までの勢いが衰えているぞ。何をそんなに危惧している」
「……戦況を理解していないようだな。俺は炎魔であり、魔剣レーヴァテインを持っている。貴様らに勝ち目は微塵も存在しない!」
グレンがまとう魔力が瞬間的に増幅する。一気に勝負をつけるつもりだ。
「爆散しろ! 『エクスプロージョン』!」
その足元に巨大な魔法陣が出現し、そこから強烈な爆発と熱波が……。
「……『シャドーテリトリー:ドームクローズド』……!」
俺達へと襲い掛かってくる瞬前に、影のドームがグレンと魔法陣を取り囲んだ。ヨナの影魔法だ。直後、ドーム内に轟音が響き、ドームが亀裂を走らせて砕け散る。
「ぐ……っ……よくやったヨナ」
すべての衝撃を閉じ込めることは無理だった。しかしグレンのすぐ近くにいたフリートやベル達への直撃は防ぐことができ、みんなは後ろに飛び退くことでドームの破片を避けていく。
また全身にまとう魔力を瞬間的に増大することで、溢れ出した熱の余波にも耐えていた。
「シャイナどの!」
いまの俺はろくに魔力が残っていなく、扱うことも難しい。だからか、そばにいたサラが俺をかばうように身を寄せて、俺の肩に触れる手から俺も含めて自身の魔力をまとわせてグレンの熱から守ってくれていた。
「小賢しいことをッ!」
炎魔であるグレンに炎魔法は通用しない。いまの影による内部自爆において、奴へのダメージはゼロだった。しかし……。
「ならばッ、次はこの一帯全てを吹き飛ばすまでだッ!」
グレンが再び魔法陣を展開しようとする。今度は影のドームによる閉じ込めができないように、俺達の足元すべてに行き渡るほどの巨大さで。
その奴の上空に、天上を覆うような巨大な魔法陣が出現した。
「させるかっ! 『サモン:アラクネ』!」
トリンの召喚縛魔法。天上の魔法陣から巨大な一匹の蜘蛛が姿を現し、八本の足それぞれから糸や鎖、ロープなど様々な縛る物体をグレンへと巻き付けていく。
「炎魔であるこの俺にッ! たかが縛魔如きの召喚魔獣が効くと思っているのかッ!」
グレンが身体に力を込めて、この戦いの始まりで見せたのと同じように自身に巻き付く縛物を粉々に破壊する。……が。
「縛魔をなめるなっ! アラクネの力はそんなもんじゃないっ!」
天上から巨大な蜘蛛が落下し、地響きを起こしながらグレンの間近へと着地する。そして巨躯の前部にある四本の足と鋭い牙で奴へと襲い掛かった。
召喚された魔獣による直接攻撃。普段の縛魔法であれば難しいことでも、召喚した蜘蛛ならできる。
だがしかし……。
「同じことだ! 『レーヴァテイン』!」
グレンが魔力をまとった黒剣を頭上へと振り抜く。黒い斬撃波が空中を飛び、自身に迫っていた蜘蛛の足と頭部を両断していった。
「所詮は下位魔存在の召喚魔獣! 炎魔の俺の敵ではない!」
巨大蜘蛛の身体が地面に崩れようとしていく……が。トリンからは驚愕や絶望といった感情は発散されていなく、むしろ……不敵に笑む気配が感じ取れた。
「お前ならそうするはずだと思ってた。アラクネの三つ目の武器を知らないから」
ズズウン……ッ、重低音を響かせて巨大蜘蛛の頭部と前足が地面に落下する。そして残った巨躯の首元からは赤黒い大量の血液が流れ落ちて……。
「……これは……ッ……⁉」
先走るように地面に付着した血液から、ジュッという物が焼けたような、あるいは溶けたような音が立った。そうか……蜘蛛が持っているのは足や牙だけじゃない。
猛毒もまた蜘蛛の特性の一つだ。
「ク……ッ……!」
滝のように流れ落ちてくる蜘蛛の毒液から逃れるために、グレンが飛び退く。防御しないのは万全を期したからかもしれない。あるいはまとった魔力すらも溶かしてしまう毒の可能性もあるとして。
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