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第二部 炎魔の座

第百二十七話 光の右腕

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 迫る風刃を避け続けていたグレンだが、あまりの数の多さに避けきれなくなったのだろう、ついにその一つが命中する。



「まだだ! 続け! グレンを斃せ!」



 畳み掛けるようにサムソンが風刃をグレンへと当てていく。黒い土埃が広がりグレンの姿を覆うなか、俺は見た。奴の口角がわずかに歪んでいたのを。そして悟る、奴の本当の目的を。

 直後、グレンの姿が土埃に完全に隠れる。同時に、俺はサムソンへと叫んでいた。



「サムソン! グレンの本当の狙いはサムソンだ!」



 そのとき、土埃のなかからサムソンへと黒い斬撃波が撃ち出された。レーヴァテインによる攻撃。受け止めるより避けたほうがいいと判断したサムソンが横へと跳ぶ。



「サムソン! 後ろだ!」

「っ⁉」



 サムソンの背後にグレンがいた。瞬身斬。普通ならサムソンが気付かないわけがない。しかしグレンに攻撃を当てたという微かな気の緩み、土埃による視界の遮断、そして眼前に迫る斬撃波によって気を逸らされてしまって反応が遅れたんだ。



「ベル! いますぐサムソンの……」



 だがもう遅かった。時間にして一秒もないはずだが、この戦いにおいては致命的に遅すぎた。ベルが足を止めるより先に、サムソンが振り返って対処するより速く、グレンが、



「やはりこの程度か」



 歪んだ笑みを湛えながらサムソンの背中を縦に斬り裂いた。



「く……そ……っ⁉」



 血飛沫を上げながらサムソンの身体が地面へと落ちていく。エイラやヨナが戦えないいま、怪我を治すことはできない。魔力をまとって止血できたとしても……。



「背骨を斬り裂いた。もう動けはしないが、魔法で邪魔されても面倒だからな。死ね」



 グレンが剣を両手で高く掲げ、切っ先が下になるように逆手に持ち変える。眼下に横たわり自分を睨んでくるサムソンにトドメを刺すために。



「ベル!」



 俺の声とほとんど同時にベルが二人のほうへと飛び出すが、間に合わない。距離が離れすぎている。くそっ! 俺は左手をグレンへとかざした。



「無駄使いするな!」



 サムソンが叫ぶ。いま動かせる口を精一杯に開けて。自分はもう助からない、自分を助けるために魔力を無駄にするくらいなら、グレンを斃すことだけに集中しろ! そう思いを込めて。

 ……悪いな、サムソン。その思いは無駄にしちまうことになる。俺は左手のひらに魔力を込めていく。その様子を見たサムソンが毒づいた。



「……馬鹿が……っ!」



 ギリと奥歯を噛みながら、両の拳を血が出るくらい握りながら。だがそれでも、いま俺が撃たなかったら、サムソンは……。

 その時、グレンの背後へと二つの塊が迫っていくのが見えた。一つは球体に近い塊、もう一つは矢の形状であり……どちらも魔力を集中させたものだ。



「……ハッ!」



 逆手に持っていた剣を再び順手にして、即座にグレンが二つの魔力塊を剣で弾く。いまの魔力塊は……間違いない。フリートとサラだ。



「「うおおおお!」」



 魔力塊が飛んできたほうから、その二人がグレンへと迫り魔力をまとった徒手空拳で攻撃していく。



「チッ、まだ死んでいなかったのか。ライースやザイと同じくしぶとい者達だ」



 グレンの悪態に二人が声を上げる。敵対者に噛み付く狼のごとく。



「炎魔になるのは我輩だ!」

「私は炎魔になるまで死ぬわけにはいかないんだ!」



 二人は魔力をまとっている。どちらも強大な魔力なことに変わりはないが、そんな二人の連続攻撃をグレンは紙一重の回避や剣身による防御で捌いていた。



「魔法の使えない貴様らが俺に勝つなど無理に決まっているだろう」



 グレンの言ったことは二人自身痛感しているはずだ。ただの魔力の戦闘ではグレンに勝つことは難しいと。だから違う、二人の真の目的は……。



「いまのうちに持っていけ!」



 さっきからそうだったが、普段のフリートからすると珍しい大声を上げる。その相手は俺やベルではなく、空に留まっていたフェンだ。フリートとサラの連撃によって、グレンはサムソンから遠ざかっていた。

 フェンが素早くサムソンへと舞い降りて、傷付いて動けなくなっている身体をくちばしで咥えて空へと飛び立っていく。それと時を同じくして、俺達もグレンの元へと辿り着いた。



「ベル!」



 ベルが吼え、前足にまとった爪状の魔力をグレンへと振り下ろす。



「フッ!」



 その魔力爪を、グレンが振り返りざまに黒剣で受け止めた。その剣身に魔力がまとわれていく。ベルごと俺を殺す為に、黒い斬撃波を放つつもりなんだ。

 俺は両足に魔力を集中させる。いまこそ温存してきた魔力を、ライースとザイに譲渡されて、サムソンが自身を犠牲にしようとしてまで残させようとした魔力を、使うときが来たんだ。



「うおおお……っ!」



 あともう一度だけでいい。もってくれ俺の脚。

 俺はベルの背から飛び出していく。そしてグレンの懐へと潜り込むと、奴が斬撃波を放つより速く。



「『神殺の光腕 《ミストルテイン》』!」



 右肘から先の、失われている部位に光の右腕を作り出して、その拳でもってグレンの心臓を貫いた。



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