【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

文字の大きさ
上 下
215 / 235
第二部 炎魔の座

第百二十七話 光の右腕

しおりを挟む

 迫る風刃を避け続けていたグレンだが、あまりの数の多さに避けきれなくなったのだろう、ついにその一つが命中する。



「まだだ! 続け! グレンを斃せ!」



 畳み掛けるようにサムソンが風刃をグレンへと当てていく。黒い土埃が広がりグレンの姿を覆うなか、俺は見た。奴の口角がわずかに歪んでいたのを。そして悟る、奴の本当の目的を。

 直後、グレンの姿が土埃に完全に隠れる。同時に、俺はサムソンへと叫んでいた。



「サムソン! グレンの本当の狙いはサムソンだ!」



 そのとき、土埃のなかからサムソンへと黒い斬撃波が撃ち出された。レーヴァテインによる攻撃。受け止めるより避けたほうがいいと判断したサムソンが横へと跳ぶ。



「サムソン! 後ろだ!」

「っ⁉」



 サムソンの背後にグレンがいた。瞬身斬。普通ならサムソンが気付かないわけがない。しかしグレンに攻撃を当てたという微かな気の緩み、土埃による視界の遮断、そして眼前に迫る斬撃波によって気を逸らされてしまって反応が遅れたんだ。



「ベル! いますぐサムソンの……」



 だがもう遅かった。時間にして一秒もないはずだが、この戦いにおいては致命的に遅すぎた。ベルが足を止めるより先に、サムソンが振り返って対処するより速く、グレンが、



「やはりこの程度か」



 歪んだ笑みを湛えながらサムソンの背中を縦に斬り裂いた。



「く……そ……っ⁉」



 血飛沫を上げながらサムソンの身体が地面へと落ちていく。エイラやヨナが戦えないいま、怪我を治すことはできない。魔力をまとって止血できたとしても……。



「背骨を斬り裂いた。もう動けはしないが、魔法で邪魔されても面倒だからな。死ね」



 グレンが剣を両手で高く掲げ、切っ先が下になるように逆手に持ち変える。眼下に横たわり自分を睨んでくるサムソンにトドメを刺すために。



「ベル!」



 俺の声とほとんど同時にベルが二人のほうへと飛び出すが、間に合わない。距離が離れすぎている。くそっ! 俺は左手をグレンへとかざした。



「無駄使いするな!」



 サムソンが叫ぶ。いま動かせる口を精一杯に開けて。自分はもう助からない、自分を助けるために魔力を無駄にするくらいなら、グレンを斃すことだけに集中しろ! そう思いを込めて。

 ……悪いな、サムソン。その思いは無駄にしちまうことになる。俺は左手のひらに魔力を込めていく。その様子を見たサムソンが毒づいた。



「……馬鹿が……っ!」



 ギリと奥歯を噛みながら、両の拳を血が出るくらい握りながら。だがそれでも、いま俺が撃たなかったら、サムソンは……。

 その時、グレンの背後へと二つの塊が迫っていくのが見えた。一つは球体に近い塊、もう一つは矢の形状であり……どちらも魔力を集中させたものだ。



「……ハッ!」



 逆手に持っていた剣を再び順手にして、即座にグレンが二つの魔力塊を剣で弾く。いまの魔力塊は……間違いない。フリートとサラだ。



「「うおおおお!」」



 魔力塊が飛んできたほうから、その二人がグレンへと迫り魔力をまとった徒手空拳で攻撃していく。



「チッ、まだ死んでいなかったのか。ライースやザイと同じくしぶとい者達だ」



 グレンの悪態に二人が声を上げる。敵対者に噛み付く狼のごとく。



「炎魔になるのは我輩だ!」

「私は炎魔になるまで死ぬわけにはいかないんだ!」



 二人は魔力をまとっている。どちらも強大な魔力なことに変わりはないが、そんな二人の連続攻撃をグレンは紙一重の回避や剣身による防御で捌いていた。



「魔法の使えない貴様らが俺に勝つなど無理に決まっているだろう」



 グレンの言ったことは二人自身痛感しているはずだ。ただの魔力の戦闘ではグレンに勝つことは難しいと。だから違う、二人の真の目的は……。



「いまのうちに持っていけ!」



 さっきからそうだったが、普段のフリートからすると珍しい大声を上げる。その相手は俺やベルではなく、空に留まっていたフェンだ。フリートとサラの連撃によって、グレンはサムソンから遠ざかっていた。

 フェンが素早くサムソンへと舞い降りて、傷付いて動けなくなっている身体をくちばしで咥えて空へと飛び立っていく。それと時を同じくして、俺達もグレンの元へと辿り着いた。



「ベル!」



 ベルが吼え、前足にまとった爪状の魔力をグレンへと振り下ろす。



「フッ!」



 その魔力爪を、グレンが振り返りざまに黒剣で受け止めた。その剣身に魔力がまとわれていく。ベルごと俺を殺す為に、黒い斬撃波を放つつもりなんだ。

 俺は両足に魔力を集中させる。いまこそ温存してきた魔力を、ライースとザイに譲渡されて、サムソンが自身を犠牲にしようとしてまで残させようとした魔力を、使うときが来たんだ。



「うおおお……っ!」



 あともう一度だけでいい。もってくれ俺の脚。

 俺はベルの背から飛び出していく。そしてグレンの懐へと潜り込むと、奴が斬撃波を放つより速く。



「『神殺の光腕 《ミストルテイン》』!」



 右肘から先の、失われている部位に光の右腕を作り出して、その拳でもってグレンの心臓を貫いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...