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第二部 炎魔の座
第百十六話 本当に、命知らずな連中
しおりを挟む俺はライース達に目を向ける。
「こっちから話すことはできるか?」
「いや無理だな。さっきと同じで一方通行だ」
ライースが答えるなか、グレンの声は続いていく。
『ザイは帝国に捕まっているのだろう。有言実行するならば真っ先に殺しに行く所だが、気が変わった。考えてみれば、お前を殺すのはいつでも出来るからな』
「んだとッ⁉」
ザイが怒鳴る。しかしその声はグレンには届かない。
『いまここに俺は宣言する。俺はこの最強の炎魔の力を使い、全ての上位魔存在の力を手に入れる。そして真に無敵の存在となるのだ』
「……⁉」
俺を含めて、この場にいる全員に衝撃が走った。こいつは……炎魔の力だけじゃまだ物足りないというのか……⁉
『お前もそこにいるのだろう? 光魔の神格候補者。まずはお前が契約している光魔からだ』
「……っ⁉」
間髪入れずに、俺は再び驚愕する。奴が光魔を狙う、だと……⁉
『光魔の領域は既に把握している。しかし気紛れに三分間だけ待ってやろう。俺は炎魔の城にいる。もしお前が阻止するつもりなら、俺の元まで来るがいい』
ブツリ。通信が途絶えた。言うべきことはすべて言い終えたからだろう。
この場の全員の視線が俺に集中される。心配、不安、思案げ、あるいは真顔……それぞれの感情や思惑の入り交じった顔触れが並んでいる。
エイラが不安そうな声を掛けてきた。
「シャイナ……」
「俺は向かうぞ。グレンを倒しに」
「……っ」
グレンは自らの居場所を暴露した。炎魔の力を手に入れて、強大なその力からかつての炎魔のように傲岸不遜になっているのだろう。もはや敵など完全にいなくなったというように。
俺はこの場の全員に言う。
「グレンの力はまさに最強に近い。戦えば間違いなく甚大な被害は避けられない。だから、無理に一緒に戦ってくれとは言わない」
いや言えるわけがない。それはすなわち死んでくれと言っているのと同じなのだから。
「時間はない。俺は行く」
指輪に魔力を込めて、転移の魔法陣を展開していく。ヨナが聞いてくる。
「……勝算はあるのですか……?」
「…………、ない。だがやるしかない」
「…………」
不確実なことは言えない。下手に希望を見せれば、不用意に死人を増やすだけだから。
皇帝が真面目な顔で言ってくる。
「……すまないが、先程も言った通り、帝国からは戦力を投入するつもりはない。分かってくれ」
「分かってる。皇帝は皇帝の守るべきものを守ってくれ」
「…………」
黙り込む皇帝に娘が言った。内心の気持ちを焦らせた声音で。
「お父様……っ⁉」
「お前も分かってくれ、娘よ。そして信じるのだ、英雄どのならきっと勝てるのだと」
「……っ」
娘が俺を見た。なにかを言いたそうな顔。しかしそれが声を発する前に、転移の陣が展開終了する。
俺はみんなに言った。
「じゃあな。生きてたら、また会おう」
そして俺は以前行った先代の炎魔の城跡へと転移していった。
城跡の前、立ち並ぶ瓦礫の群れの前へと俺は到着する。煤だらけだったり歪に破損している瓦礫は数が多く、視界を遮るのには充分だった。
ここのどこかにグレンがいる……しかしその居場所は探すまでもなく分かった。視界の先に、曇り空の天まで衝くような火柱……いや、紅蓮色の魔力、炎魔の魔力が立ち上っていたからだ。
「『自分はここにいるぞ。ここまで来い』ってか」
言われるまでもなく、そこに向かうつもりだ。いまこそ、この戦いに決着をつけよう。
奴がいる場所へと一歩を踏み出そうとしたとき、俺の周囲にいくつもの魔法陣が出現していく。転移の魔法陣。そこに姿を見せたのは……。
「先に一人で行かないでよ、シャイナ」
「……エイラ……」
俺と同じく転移の指輪で到着し、杖を握るエイラ。
「ふん。グレンは我輩が倒す。我輩が炎魔に成り代わる為にな」
「……フリート様がそれを望むなら、私は力を貸すだけです……」
「……みんなの死を無駄にしないために、あたしも……! あんな奴に怯え続けるのは、もう嫌だ……!」
それぞれの言葉、それぞれの決意。
「フリート。ヨナとトリンも」
ヨナの影の転移魔法で姿を見せた三人。そして最後にやってきたのは……。
「乗り掛かった船だ。俺達も加勢するぜ。つーかやらなきゃ俺がグレンにやられるからな」
「うおっしゃー! ずっと拘束されて身体が鈍ってたんだ! 暴れまくってやるぜー!」
「……シャイナどのに助力を仰いだのは私です。ならば協力するのが筋でしょう」
ライース、ザイ、サラの三人。ライースとザイは転移魔法を使えないはずだから。
「サラ、転移魔法使えたのか?」
「ウィズどのに指輪をいただきました。自分は帝国を守る為に向かえないから、せめてこういう形で協力を、と」
サラの指には俺やエイラが持っているのと同じ指輪がはめられていた。
……本当に、命知らずな連中だな……。グレンがいる前方に向き直った俺は、思わず口元が緩んでしまう。不敵な笑み。油断はできないはずなのに、それでも笑わずにはいられない。そんな気分だ。
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