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第二部 炎魔の座
第百十四話 騒がしい集まり
しおりを挟むウィズの姿が消えてから、ライースは一度室内を見回した。サラやエイラ、トリン達を見るこいつに、俺は聞く。
「どうした?」
「改めて思ったが、お前、ずりいな」
「は?」
ライースは不満そうな顔で。
「なんでこっちの陣営はかわいこちゃんや美人が多いんだよっ、俺のほうなんかムサイ野郎ばかりで殺伐してたのによおっ」
「はあ?」
「クソッ、どうせこうなるなら最初からこっちについてりゃ良かったぜっ。そうすりゃ美女達ともっとずっと仲良く出来たのによっ。クソックソッ」
「…………」
いきなりなにを言ってやがるんだこいつは。とりあえずこいつの心配はいらなそうだな。
やがてウィズがザイを連れて戻ってくる。見張りの姿はなくウィズ一人で、ザイはいまだに厳重に拘束されたままだったが。
「待たせたな。一応の説明はしておいたが、最終確認は君からのほうがいいと思ってな」
ウィズがそう俺に言い、またザイも俺を強い目で見てくる。ライースも視界に入っているはずだが気にする素振りはなく、さっさとしろと俺の言葉を待ち受けているかのようだ。
俺は一歩奴の前に出て、同じく強い目で見返しながら言った。
「ザイ。俺達に協力してくれ。このままグレンに殺されたくはないだろ」
「……嫌だと言ったら?」
「…………、そのときはまたここの地下牢に幽閉するだけだ。だが、おまえはそう言うわけはないと、俺は思ってる」
「……何故そう思う?」
「ライースもそうだったが、おまえもまた武人だからだ。俺との一騎討ちを望んで、他の奴らのことは見逃してくれたからな」
俺が奇跡的な生還を果たしてすぐの、最初の戦闘。あのときザイは俺とみんなの会話を遮って、無理矢理戦うこともできた。しかししなかった。強いと判断した俺と戦うために。
そこには確かに、余計な邪魔を入れられたくないという考えもあっただろう。だがやはり、こいつにも武人としての誇りが少なからずあったからこそ、そんな無粋なことをしなかったのだと俺は思う。
「交換条件を出せって言うのなら、またおまえと戦ってやるよ。おまえの性格なら、どうせまた……」
「……いまの俺様がまた戦っても、どうせまたすぐにやられるだけだ。テメエに勝つにはもっと強くなる必要があるからな。……炎魔になりやがったグレンを倒したあとで」
俺が出した条件に、ザイは応じなかった。だがしかし、その言葉は……。
「それは……」
「何アホみたいな顔してやがる。俺様も力を貸してやる。俺様に勝ったテメエはともかく、他の奴らはあてにならねえからな」
話を聞いていたライースがやれやれと肩をすくめていた。
「まったく、素直じゃないねえ。つーか、こいつに負けて捕まってた時点で、お前も人のこと言えねえぜ」
「ウルセエッ。真っ先に脱落した奴がほざいてんじゃねえッ」
「うっせーよ! 俺がいなかったらここにいる全員グレンに殺られてたんだぜッ!」
「アア⁉ 何パチこいてやがるッ!」
「本当のことだッ、フリートを焼いてたグレンの炎を消したのが俺でだな……!」
なんか怒鳴り声で言い合う二人。こいつら、本当は仲良いだろ。親友ではないにしても悪友くらいには。
俺のそばに来ていたウィズが溜め息を吐いた。
「随分と騒がしい集まりになったものだ……」
俺もそう思う。
俺まで溜め息を吐きそうになっていたとき、室内の騒がしさに呼応するように廊下のほうから駆け足の音が聞こえてきた。
なんだ? と部屋のドアのほうに顔を向けると、そのドアが思いきり開かれて綺麗な服に身を包んだ女が姿を現す。皇帝の娘だった。
「……あ……」
かと思いきや、娘は室内の面々を見て、ハッとした声を漏らす。慌てて自分の髪や服装の乱れを正して、改めて言ってきた。
「も、申し訳ありません。英雄さま達が戻ってきたとの報を受けましたので、様子を伺いに参った次第です」
俺の隣で目を丸くしていたウィズが、慌てて床に片膝をつく。ライースやザイもまた、いきなりの娘の登場に呆気に取られた顔をしていた。
気にしていなかったのは、フリートの治療に集中していたエイラやヨナくらいであり、二人のそばにいたトリンは娘を一瞥しただけでまたフリートへと顔を戻していた。
俺もおそらく鳩が豆鉄砲を食った顔をしていただろう。室内に流れた微妙な空気に娘が気まずい様子を見せたとき、その後ろから今度は皇帝が姿を現した。
「まったく、いきなり駆け出したかと思ったら、今度は大人しくなりおって。よく分からん娘じゃな」
文句を言いつつ、次に俺達のほうへと顔を向けてくる。
「地下牢の番をしていた者から、ウィズが戻ってきて幽閉していた者を連れてこの部屋に向かったとの報を受けてな。先程はいきなり通信が途切れたし、何が起きたのか聞いておこうと思ってやってきたのじゃ」
そう言いながら、皇帝は室内に首を巡らす。火傷を負ったフリートと、それを治療するエイラ達を見て、顔つきを引き締めた。
「……ただならぬことが起きた気配だな。良ければ事情を話してはくれぬか?」
それまでの柔和だった話し方から、威厳をまとった雰囲気へと変わる。一国を統治する皇帝としての雰囲気だ。
「ハッ! ただいま! シャイナどの、全てを見ていた君から説明してくれ」
ウィズが言ってくる。俺以外にもヨナやトリンは把握できているが、二人はいま説明できる状態じゃないだろう。俺はうなずいて、皇帝と娘に向き直った。
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