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第二部 炎魔の座

第百十三話 炎魔になるべき奴

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 会議室には他に城の人間はいなく、俺達は無事にというか誰かに見咎められることなく転移できた。フリートの治療が続くなか、ライースが俺に言ってくる。



「んで? これからどうするんだ? なんか聞いた話から察するにザイの野郎も捕まってるみてえだから、ついでに仲間にするか?」

「……考え中だ」



 それだけ答えると、俺はそばの長テーブルまで近付いていく。抱きかかえていたサラを寝かせるためだ……と、その途中でサラは目を覚ましたようだった。



「う……ん……ここは……私はいったい……?」

「サラ、気が付いたか」

「シャイナどの……?」

「ここは帝国の城のなかだ。詳しいことは追って話すが、ゾンビにやられたサラをエイラとヨナとウィズが治してくれたんだ」

「……ウィズ……?」



 そうか、そういえばサラはウィズとは初対面だったな。俺は振り返り、サラにウィズが見えるようにする。



「あそこにいる白い髪の女がウィズだ。帝国魔導士団の団長を務めている凄腕の魔法使いなんだぜ」

「…………」



 見つめるサラに、ウィズは軽く会釈して自己紹介した。



「紹介にあずかったウィズだ。貴方のことはエイラどのから伺っている。この炎魔源の争奪戦のこともな」

「…………、……サラ……です。……よろしくお願いします……」

「こちらこそよろしく」



 二人の挨拶が終わったところで、俺はサラを長テーブルに寝かせる。しかしサラは。



「……私なら、大丈夫です……」



 そう言って、テーブルに手をつきながら身を起こした。



「まだ安静にしていたほうがいいんじゃ……」

「いえ……どうやら一大事だと察せられますし、私だけ寝ているわけにはいきません……」



 フリートを治療しているエイラ達のほうに目を向けながらサラは言う。俺はウィズの指示を仰ごうと見やるが、ウィズは意志を尊重しようと言うようにうなずいた。

 それから俺はサラに、いま起きていること、争奪戦の現状について、かいつまんで説明していった。サラは始めはおとなしく聞いていたが、グレンが炎魔源を完全に手に入れたことを聞くと、目を見開いて明らかに動揺した様子を見せた。



「そんな……グレンが……炎魔源を……⁉」

「すまない、いや、謝って済むことじゃないのは分かってる。俺がもっと強ければ、アカも炎魔源も魔物達も守れたのに……」

「…………」



 ショックのあまりか、サラは顔をうつむかせていた。もしかしたら俺の声も耳には届いていないのかもしれない。

 とにかく、俺は話を続ける。グレンの襲撃から逃げ延びて、ライースにフリートを焼いていた炎を消させて、そして現在に至るまでの経緯を。



「…………」



 話が終わってからも、いまだにサラは顔をうつむかせていた。そのせいで表情や心情は読み取れないが……。



「大丈夫か、サ……」



 彼女の様子を尋ねようとしたところで、ライースが俺に声を掛けてくる。ようやく話が終わったかと、愚痴を言いたそうな声音で。



「それで? これからどうするんだよ? もう二、三回くらい聞いてんだからさっさと答えてくれてもいいだろ?」



 ずっと後回しにされていたのが不服だったらしい。サラのことは心配だが、とりあえず俺はライースに答えることにする。



「……グレンを倒しにいく。あいつは、炎魔源を持ってはいけない、炎魔になるべき奴じゃない」



 サムソンの話では、百年前、グレンは当時の同門の仲間を皆殺しにしたという。そして現在においても、仮にも炎魔源を手に入れる協力をしてくれた奴らを、役立たずだったと言って抹殺しようとしている。

 そんな奴が次代の炎魔になっていいわけが、強大な力を手に入れていいわけがない。

 俺の言葉に反応して、サラがこちらを見上げてくる。感情を込めているわけではない顔つきと目つきなので、なにを思っているのかは分からない。奇妙で珍しいもの、初めて見るものを見るような瞳というのが表現としては合っているだろう。

 ライースが口笛を吹いて俺に言った。



「なるほどな。それでお前が新しい炎魔に成り代わる気か?」

「それは違う。俺は炎魔になる気はない。グレンは倒すが、そのあとのことは……」



 俺はサラを見て、それから向こうでいまなお治療中のフリートを見やる。ライースとウィズもつられてそちらを見た。

 ライースがなるほどなとまた口にした。



「まあ誰がなろうが、俺はその新しく炎魔になった奴と契約出来ればそれでいいぜ。俺の目的は最初からそれだし、グレンを倒すってのは俺も同じだからな」

「仮にも協力していた奴なのに、か?」

「殺そうとしてくる奴、だ。やらなきゃ俺がやられる」

「…………」



 そこまで話したとき、ウィズが口を挟んできた。



「地下牢に幽閉しているあの大男も連れてこよう。おそらく協力してくれるだろう。その男と同じ理由で」



 ザイのことだ。確定したわけではないが、もし奴も手を貸してくれるなら、なんとかすればグレンに太刀打ちできる可能性が出てくるかもしれない。

 ウィズが地下牢へと転移していく。ザイには見張りが何人かついているから、そいつらに事情を説明してからこちらに移すのだろう。



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