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第二部 炎魔の座
第百八話 彼らの意志
しおりを挟むトリンの鎖は縛魔法で作ったものだ。人間界の炎であれば、普通の鎖の融点でも耐えられるだろう。しかし相手が炎魔法となれば、話は変わってくる。
「炎魔の炎は全てを焼滅させる。これこそが炎魔が最強たる所以だ」
人間界の炎も、形あるものならあらゆるものを燃やし尽くしていく。温度の高低による燃焼性能に差は出るものの、マグマのような超高温に耐えられるものはほとんど存在しない。
……形あるもの、ならば。
「『ミストルテイン』!」
俺は片手をかざして、最強の光魔法をグレンへと放った。奴の身体が光に飲み込まれた瞬間に、眩しさで目元を手や腕で覆っているみんなに叫ぶ。
「いまのうちだ! 逃げるぞ! ヨナ!」
いまの俺達ではグレンに勝てない。このミストルテインですら、もって数秒程度しか奴を足止めできないだろう。グレンは自らの魔力剣でミストルテインを斬り裂けるのだから。
「……皆さん、私の近くに来てください……っ。……転移陣を展開します……!」
俺とトリンが即座にヨナの元へと向かっていく。しかし、アカだけは集まろうとはせずに、グレンがいるほうへと向いたままだった。
「アカ! 早くしろ!」
叫ぶ俺に、アカが少しだけ振り返る。魔源の召し使いも眩しさは感じるのか、彼女の目は細められていた。ともすれば、その表情は微笑んでいるようにも見えて……。
「皆さま、私はここでお別れのようです」
「っ⁉ なにを……っ⁉」
「転移が完了する前に、あの者は貴方達を仕留めるでしょう。炎魔源の力が集中されているのが、私には分かります」
転移魔法には、魔法陣を展開してから実際に転移が完了するまで若干の時間が掛かってしまう。それこそが、転移魔法が一瞬の油断も許されない戦闘中に多用できない理由だ。
「あの者の最優先は、私の力を取り込むこと。私があの者を引き付けることで、貴方達は無事に転移出来るでしょう」
「待て! そんなことすれば……っ⁉」
そのとき、アカのそばになにかが近寄っていった。小さな猫と鳥と、それから猫の頭に乗るミミズ……フリートに仕えている魔物達だ。
その魔物達が巨大化し、本来の姿へと変わっていく。サーベルタイガーのような姿、サンドワーム、そして炎をまとった赤い巨鳥へと。
「おや。貴方達もですか? 死にますよ?」
そう言うアカのことを、三体の魔物は見つめ返すだけ。そんなことは分かっているというように。
「…………。分かりました。貴方達の意図を汲みましょう」
アカがもう一度こちらに向く。その顔は今度こそ微笑んでいた。
「貴方達と過ごした時間。短かったですが、悪くなかったですよ」
「アカ!」「みんな!」
俺とトリンが叫ぶのと同時に、ヨナが言った。
「……転移します……! ……二人とも離れないで……!」
「待て、アカを残しては……っ」「待ってヨナ! みんなが……っ⁉」
だが俺とトリンの叫びを無視して、視界が転移の光に包まれていく。同時にミストルテインの光が弾けて、その先からグレンが飛び出してきた。
転移が完了する直前に視界に映ったのは、グレンの腕に腹部を貫かれるアカの姿だった。
転移した先はエイラ達がいる洞窟のなかだった。俺達がいきなり来たことに気付いたエイラが、少し驚いた声を出す。
「みんなっ⁉ どうしたのっ⁉ あ、サラさんの治療なら……」
そこでエイラは、俺達が憔悴しているのを見て、察したようだった。
「まさか……グレンが……」
「……ええ……」
うなずくヨナ。その足元にはフリートを包んだ影塊を横たえらせている。グレンの炎に焼かれた以上、もう奴は絶望的かもしれないのに。
「……フリート様がやられました……治療をお願いできますか……?」
「え……?」
「……このなかです……」
影を解こうとしたヨナを、俺は慌てて止めた。
「待てヨナ、なかの炎は消えているのか……⁉」
「…………、……いえ……解放することすらままならないとは……」
影塊のなかの炎は依然燃え続けているらしい。もしその状態で影を解けば、この洞窟内まで火の海になる可能性がある。
トリンがヨナに言う。懇願するような必死な声で。
「ヨナ! あたしをあそこへ戻して! みんなが、アカがやられちゃう!」
「…………トリン……」
しかしヨナは首を横に振った。
「……あれが彼らの意志です……フリート様の為に、一矢報いようとしたのでしょう……」
「そんな……そんな……っ」
トリンがヨナへと抱きついて、ヨナはそんな彼女を抱きしめていた。ヨナは気丈に振る舞っていたが、トリンは泣いていた。
俺はあの魔物達のことをよく知っているわけじゃない。以前ちょっとだけ知り合っただけだ。だが、奴らがトリンと一緒に過ごしていた姿を見ている。彼女の悲しみは、俺の心にも伝わってきた。
具体的になにが起きたのかは、エイラはまだ知らない。しかしトリンとヨナの悲しみに感化されたのか、彼女もまた悲しそうな顔つきになっていた。
そのとき、洞窟の片隅でサラの治療にあたっていたウィズが振り向いて言ってくる。
「……サラどのの治療が完了した」
顔を向ける俺に続けてウィズが言う。
「いまは眠っているが、いずれ起きるだろう。しばらくは安静にしたほうがいいが……聞かないのだろうな」
ウィズはサラを一度見た。
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