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第二部 炎魔の座

第百四話 連絡先

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「了解した。それじゃあ連絡先を登録したいが、皇帝は通信魔法は使えるか? もしくは通信魔法具でもいいが」

「いや、すまんが、私は通信魔法も通信魔法具も持っていないのでな。代わりの者の連絡先を交換させよう」



 ウィズの連絡先は知っているが、ウィズは俺と一緒に行くからな。だとすると、ティムとかエマとかバーメンとかか? まさかサムソンという可能性も……。

 皇帝は後ろに振り向くと、開いたままのドアの陰に声を掛ける。



「娘や、そこに戻ってきているのだろう? お前の連絡先を交換しなさい」

「ひゃ、ひゃい⁉」



 なんか、ドアの陰、廊下に出たすぐ辺りから変な声が聞こえてきた。それからおずおずと、もしくはもじもじとした様子で、さっきの女が姿を現す。



「ほれ、早くせんか。二人は一刻も早くお仲間も助けに行かねばならんのだからな」

「わ、分かってますわ……っ!」



 さっきいきなり逃げ出したからバツが悪いのだろう、皇帝の娘は恥ずかしそうに顔を赤くしていた。その指には俺のと同じ魔法具の指輪がはめられている。



「魔力使えたんだな。それじゃあ連絡先を交換しよう」

「ふぁ、ふぁいっ!」



 ファイッ? ファイト? いや戦わねえけど。

 なんか緊張しっぱなしの女と連絡先を交換して、俺はウィズに言葉を向ける。



「よし、交換したぞ。ウィズ、いつまでも跪いてないで、サラのところに向かうぞ」

「わ、分かっている。陛下と皇女殿下の御前なのだ」



 ウィズがようやく立ち上がり、俺はヨナへと通信を入れる。一度ヨナがこの会議室に転移し、それからエイラとサラの元へと向かう算段となった。

 ほどなくしてヨナが転移してくる。なぜヨナがこの会議室の座標を知っているのかは、まあ、聞かないでおこう。どうせあの戦争のときに、この帝城を歩き回ったんだろうし。

 俺は皇帝へと顔を向ける。



「じゃあ行ってくる。本当に助かった」

「だから気にするなと言ったじゃろう」



 それから俺は皇帝の隣でぼっーとこちらを見続けている女に向いて。



「もし三十分経っても連絡がなかったら、いまは無理だったんだと思ってくれ。そのあとはウィズを通して皇帝に連絡するから、いつ連絡が来るかとか心配しなくていいからな」



 そこで女はハッと我に返ったように言ってきた。なんか食いぎみに、身を乗り出すようにして。



「あ、あのっ、お待ちしておりますからっ!」

「ああ。俺もフリートと皇帝が対話できるように努力する」

「…………」



 なんか知らんが、女の顔には複雑な気持ちが表れていた。いや、この国の未来に関わるかもしれないことなんだ、そんな顔にもなるか。



「じゃあ行ってくる」



 俺に続いてウィズも皇帝と娘に頭を下げる。



「陛下、皇女殿下、行って参ります」

「うむ。吉報を待っているぞ」「…………」



 皇帝は鷹揚にうなずいて、娘は心ここにあらずといった感じで見つめてくる。そして俺達はエイラとサラの元へと転移していった。

 



 

 到着したのは洞窟のなかだった。入口から少し入ったところに横たわるサラと、彼女に光る手をかざしているエイラがいた。

 入口から差し込む明かりによって完全に暗いというわけではないが、それでもやはり見渡しは良くない。地面にわずかな凹凸があるせいもあって、気を付けていないとつまずきそうになる。

 俺達が来たことに気付いたエイラがこちらを見る。



「シャイナ、ヨナさん、それにウィズさん」

「連れてきたぞ、エイラ」



 エイラに応じてから、俺はウィズに向いて。



「ウィズ、あの横たわってるのがサラだ。……頼む」

「うむ」



 ウィズがサラの元へと向かい、エイラと同じように地面に膝をついてサラへと手をかざした。その手のひらに光が宿っていく。



「どうだ? 治せそうか?」

「安心しろ。時間は少し掛かるが、完治可能だ。ここは私達に任せて、シャイナはフリートの元へ向かうのだ」

「分かった。頼むぞ」

「うむ」



 俺とウィズの会話に、どういうことなのかとエイラが顔を向けてくる。俺は手短に、皇帝と交わした依頼について説明した。ウィズを連れてくる代わりに、フリートと皇帝が通信できるように取り計らうことを。



「皇帝さまがそんなことを……」

「言われてみれば、その方法もあったなって感じだ。いや、相手が皇帝だから、そういうのはあまり良くないんじゃないかって勝手に思ってたんだが」



 会話を聞いていたウィズが、サラに視線を落としたまま言ってくる。



「無論、誰でも良いというわけではない。そうしたほうが良いと判断した場合だ。効率的な面や遠隔地にいる相手、そして今回のように、対話すべき相手が直接会うのを渋っている場合などだ」

「その言い方だと、まるでフリートが駄々っ子みたいだな」

「傲岸なのは当たっているだろう?」



 ウィズの言い草に、思わず俺とエイラは苦笑してしまう。っと、ヨナがいたんだった。慌てて苦笑を消して彼女を窺うと、彼女は特になにも思っていないというようにいつもの顔つきをしていた。



「……フリート様が自分勝手なのはいつものことですから……」



 ヨナはそうつぶやいていた。もしかして彼女もフリートの振る舞いには苦労しているのかもしれない。あるいはフリートのそれは、さっき言っていた『誇り』とやらの建前もあるのだろうか。



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