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第二部 炎魔の座
第百一話 驚かされる
しおりを挟む二人はなにも言ってこない。俺自身は治せると信じているが、二人は不安が残っているらしい。ヨナが口を開いた。
「……とにかく行動しましょう。こうしている間もサラさまは危険な状態なのですから……シャイナさまはウィズさまの元へと向かってください……」
「二人は?」
「……エイラさまにはサラさまの延命をお願いします、ウィズさまが来るまでの間の……」
エイラがうなずいた。ヨナは続ける。
「……私はエイラさまとサラさまのそばにいて、ここから離れた場所に転移します……フリート様がアカさまを連れて別の場所に向かうかもしれませんが、一応念の為にです……」
グレンはアカの居場所を知ることができるから、サラが戦いに巻き込まれないようにする為だ。
「……無論、そばにいる以上、出来る限りエイラさまのお手伝いも致しますが……」
「分かった。連絡は通信魔法でってことだな」
「……ええ……」
「それじゃあすぐにでも……」
俺が指輪に魔力を込めようとしたとき、ちょっと待ってとエイラが言ってきた。
「シャイナ、サラさんがかかってる感染症がなにか分かってないでしょ? ウィズさんに頼むとき伝える必要があるんじゃない?」
「そう言われたら、そうだな」
ウィズなら大丈夫だとは思うが、それらの感染症の名前や症状を伝える必要はあるだろう。
「ちょっと待ってて。いま紙に病名を書いて渡すから」
エイラが部屋のなかに入って行こうとするのを、ヨナが引き留めた。
「……お待ち下さい……シャイナさま、その指輪は通信魔法具も兼ねているのですよね……?」
「ああ、そうだが……?」
「……ならば、あるいはメモ機能も搭載されているかもしれません……ウィンドウを立ち上げて下さい……」
「え、ああ、やってみる」
指輪に魔力を込めて、通信魔法のウィンドウを立ち上げる。誰かと通信する前だからか、画面は白一色だった。
「……メモ機能オープン、と言うか念じてみて下さい……そのウィンドウに切り替わるはずです……」
「……メモ機能、オープン……」
いままで使ったこともないし、この指輪を渡してきたウィズもそんなことはいってなかったから、正直半信半疑ではあった。しかしヨナの言う通り、俺が言うと同時に画面が横にスライドするように切り替わる。
とはいっても画面自体は白いままで、違うのは左上のほうにメモと書かれているくらいだが。
ヨナが説明を続ける。
「……これでメモ出来ます……メモには魔力が必要で、直接ウィンドウに触れて書くか、もしくはいまのように言うか念じれば記述されていきます……他者のウィンドウにもメモ出来ますが、その際は触れて書くことのみですのでご注意下さい……」
「へえ、最近の魔法具は便利なんだな」
転移や通信だけじゃなくメモもできるなら、今後の有用性は一気に上がりそうだな。
ヨナはエイラに向いて言う。
「……エイラさま、試用も兼ねてこれに病名を書いて下さい……私がいま言ったように……」
「は、はい」
エイラ自身も初めて知った機能なのだろう、驚き半分感心半分といった顔をしていた。
エイラが俺の隣に来て、メモ画面を覗き込みながら指を持っていく。
「そ、それじゃあ書いてみるね」
「ああ。もしかしたらエイラの指輪にも同じ機能があるかもな」
「うん、そうかも」
小さな光を灯したエイラの指が画面をなぞっていき、そこに件の感染症の名称が記述されていく。俺は医療に関してはちんぷんかんぷんなので、病名を読んでもさっぱり分からない。とりあえず分かったのは、サラにかかっている感染症は三つあるということだった。
「これをウィズに見せればいいんだな?」
「うん。ウィズさんなら、たぶん分かると思う。分からなかったら……」
「そのときは別の誰かか薬を探す必要があるな」
「…………」
とにかく会わなければ始まらない。俺は再度指輪に魔力を込めて、今度こそ足元に転移の魔法陣を展開させていく。
「それじゃあ、行ってくる」
「うん、気を付けてね」
エイラが言い、ヨナもまた言ってくる。
「……吉報をお待ちしております……」
俺は二人にうなずくと、帝国へと転移していった。
帝国城内、いつもの見慣れた会議室。エイラとヨナと別れてから、すでに二、三十分ほどが経過していた。
その間、俺は帝国城の門前にてウィズに連絡を取り、いまの状況を話して、これからすぐに会いたいことの旨を伝えて、そしてウィズと再会を果たしていた。
会議室には俺とウィズしかいなく、そのウィズは俺が提示したメモ画面を見つめて難しい顔をしていた。リダエルやサムソンなど、他のみんなはそれぞれ用事があるらしかった。
さっきから黙り込んだままのウィズに、俺は聞く。
「どうだ、ウィズ、なんとかサラを治せそうか?」
「……まさかこの三つの感染症に、一度に罹患するとはな……」
「実際はもっと多かったらしい。それら以外はエイラとヨナが治してくれたが、その三つだけは二人だけじゃ駄目だったみたいだ」
「……話を聞いた限りでは、ほとんどエイラどのが治したみたいだがな。いやはや、驚かされる」
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