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第二部 炎魔の座

第百話 心当たり

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 そこでフリートが口を挟んできた。



「ふん。あの女を助ける余裕があるのか? あの老いぼれが戻らないことを不審に思ったグレンが、我輩達がこの世界に移動したことに気付くのは時間の問題だぞ」



 確かエフィルはグレンを出し抜くために独断専行していたはずだ。だから、あの森で俺達と戦ったことまでは知られていない……と思う。

 しかし、グレンもまたエフィルを信じていないだろう。なにかしら、エフィルの動向を探れる手段があってもおかしくはない。実際にどうなのかは分からないが。

 フリートはトリンとアカのほうに向いた。



「トリン。戦闘準備をしておけ。いつグレンと対峙しても始末出来るようにな」

「わーいっ、やっとあたしの出番っ⁉ 待ちくたびれたよーっ」

「そして炎魔の召し使い。あのダークエルフの女は事実上の脱落だ。さっさと貴様の力を我輩に寄越せ。グレンに奪われる前にな」



 しかしアカは応じずに、黙ったままフリートを見返すだけだった。思わず俺はフリートへと言う。



「ちょっと待て。サラを見捨てるってのか⁉ それにおまえだって、まだ怪我が治ったばかりだろうが⁉」

「我輩は貴様のように柔ではない。例えどんな重傷だろうと、治ったのなら即座に行動出来る。それが我輩だ」

「サラのことに答えてないぞ。おまえだって森で助けただろうが。なら……」

「愚行だったと言ったはずだ。そして先の我輩の言動が全てだ」



 つまり、サラは見捨てるってことだ。



「フリート、おまえ……っ⁉」



 俺が奴の胸ぐらを掴もうとした、その寸前で、パシンッとヨナがフリートの頬を平手で打った。



「「「……っ⁉」」」



 俺とエイラとトリンが意表を突かれたびっくりした顔になる。な、え、あのヨナがフリートをひっぱたいた……っ⁉



「…………」



 ギロリとフリートがヨナを睨む。言葉こそ発していないが、眼力だけで殺しそうな威圧感を放っていた。

 そんな奴に一切ひるむことなく、ヨナは奴へと言う。普段と変わらない、しかしどこか力の込もった声で。



「……非礼をお詫びします、申し訳ありませんでした……しかし行き過ぎた言動だと思われましたので……」

「……不愉快だ。いますぐ我輩の視界から消え失せろ」

「……はい。分かっております。では失礼致します……」



 ヨナがフリートに背を向けてドアへと歩いていく。廊下へと出る寸前で俺とエイラに声を掛けてきた。



「……シャイナさま、エイラさま、行きますよ……」

「え? あ、ああ……」「は、はい……」



 促されるままに俺とエイラもヨナのあとについて出ていく。後ろでアカが珍しいものを見たようにつぶやいていた。



「……人間とは不思議な生き物ですね……」



 サラがいる別室に向かっているのだろう、ヨナについていきながら、俺は彼女に問うように言った。



「いいのか? フリートはヨナの……」

「……これで私は自由に行動出来るようになりました……」

「「へ……?」」



 思わずエイラと声をハモらせていた。鳩が豆鉄砲を食らったような顔になっていたとも思う。



「……フリート様と私には『建前』が必要だったのですよ……病に冒されたサラさまを公然と助ける為の『建前』が……」

「「…………」」



 俺とエイラは阿呆みたいに、ポカンと口を開けていた。



「……しかしフリート様は一手、不覚にもミスをなさってしまいました。シャイナさまとサラさまを『建前』なく助けてしまったことです……その後二人を捨て駒扱いする言動をしましたが、流石に苦しかったですね……」

「「…………」」



 いまはもう俺とエイラは口を閉じて、真面目な顔でヨナの話を聞いていた。俺はヨナに言う。



「……面倒くさい奴らだな。なんでそんなことする必要がある? 素直に助けたいって言えばいいだろうが」

「……誇り、ですよ……」

「誇り……?」

「……魔族の天才としての、魔界の復権を目指す者としての、誇りの為です……」

「「…………」」



 俺はエイラと顔を見交わした。きっとエイラも同じことを思ったに違いない。



「……本当に面倒くさい奴らだな……」



 俺のつぶやきに、かすかにヨナの口端が笑んだ気がした。

 サラがいる部屋の前に辿り着いて、ヨナは俺達へと振り返る。



「……本題に戻りましょう……サラさまを助ける為には、感染症を治す薬か魔法使いが必要です……」



 俺とエイラはうなずいた。



「分かってる。これからそれを探しに行くんだろ。グレンが襲ってくる前に」

「……ええ……炎魔源の半分を手に入れたグレンは残りの半分、つまりアカさまの居場所を探知することが出来ます……あくまで同じ世界にいればでしょうが……エフィルのことがあった以上、フリート様が言うように気付かれるのは時間の問題です……」

「それも分かってる。要はピンポイントでサラを治せる奴を連れてくる必要があるってことだ」



 なんとなく俺は感じ取っていた。グレンとの最終決戦が近いことを。倒せる方法なんかまったく見つかっていないというのに。

 エイラが聞いてくる。



「でもシャイナ、心当たりがあるの? サラさんの感染症はいくつかのものが合併症を引き起こしていて、普通くらいの魔法使いや薬じゃとても……」

「魔法使いの基準でいえばどのくらいが必要なんだ?」

「え……えっと、Aランクの上位かSランクくらいじゃないと……その感染症に対する治癒魔法をピンポイントで使えるなら、それ以下でも大丈夫だろうけど……」

「そのランク以上の実力を持っている奴なら、心当たりが一人いる。エイラやヨナ達も知っている奴だ」

「え……?」



 ヨナは察したのだろう、その名前をつぶやいた。



「……ウィズさまですね。帝国魔導士団団長の……」

「ああ。ウィズならサラを治せるかもしれない。確証はないけど、確信ならある」

「「…………」」



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