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第二部 炎魔の座

第九十三話 炎魔源が生まれた場所

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 エイラの予想通り、あれこそが炎魔源が誕生した瞬間なのだろう。



「ここなら前に行ったことがある。俺の転移の指輪で行けるはずだ」



 フリート、サラ、アカの三人に言うと。



「ふん。貴様でも役に立つことがあるらしい」

「そうだったのですか」

「…………」



 それぞれ三者三様の反応が返ってきた。俺はヨナに聞く。



「ちなみに、俺達がいるここはどこなんだ?」

「……この地図では縮尺が大きいですが、この辺りになります……」

「ここだな」



 彼女が示した場所を確認して、指輪の転移先リストに追加する。これでなにかあっても、すぐに帰ってこられる。

 俺は壁の時計を見上げて。



「朝六時前か」

「……陽が顔を出し始めた頃ですね……」



 ヨナの声を耳にしながら、俺はフリート達三人を見た。三人とも気構え充分で、いますぐ出発しようという雰囲気を発散させている。そんな俺達にヨナが言う。



「……お気を付けて……」



 エイラも心配げな顔を浮かべながら言ってくる。



「死なないでね、シャイナ、みんな」



 俺は二人にうなずきを返す。他三人はうなずきも返事もしなかったが、言葉は届いているはずだ。



「行くぞ。俺の近くに集まってくれ」

「ふん、早くしろ」



 俺の言葉にフリートが文句を言う。相変わらずといえば相変わらずだが、先行きが不安になるのもうなずけるメンバーだな。それはともかく。

 俺は転移の指輪に魔力を込める。俺を中心とした足元に魔法陣が現れて、そして俺達は淡い光に包まれた。

 件の森に到着して、俺達は魔力で身体強化して目的の地点に向かっている。アカの記憶を頼りにしてはいるが、やはり以前俺が来たときと同じ方向なので、彼女が迷った素振りを見せたときはこっちじゃないかと誘導していた。



「これではシャイナどのに案内してもらってるのか、アカについていってるのか分からないですね」



 苦笑ぎみにそう言ったのはサラだ。ともに森のなかを駆けながら、彼女はこうも言ってきた。



「しかしシャイナどのがこのメンバー編成に納得したのは意外でした」

「エフィルの魔法の危険性があるからか?」

「はい。あの威力を身をもって知っているはずですから」

「それはサラも同じだと思うがな」



 一番最初にメンバーの人数を警告してきたのはサラだ。彼女は間違いなく、エフィルの魔法について知っていたはずだ。

 サラがわずかに目を細める。地平から出てきた朝陽が眩しかったのか、それとも。



「…………、私は最初からソロで行動していたわけではありません。かつては友と呼べる者がいました」



 口振りから、なにを言いたいのかは予想がついた。



「彼女はエフィルの魔法によって殺されました。当時の私達は奴のことを知らなかった」



 あのじいさんの魔法は、いわば初見殺しだ。情報や対処法を知らなければ、まず間違いなく秒殺されるだろう。



「……復讐したいと思ってるのか? 友人の仇を取りたいと」

「…………」



 俺の問いに、サラは答えなかった。

 フリートが言ってくる。



「その女の過去などどうでもいい。それより、さっさと言ったらどうだ。貴様が敢えて四人構成にしたということは、奴への対抗策があるということだろう」

「……そうだな」



 俺の返事に、サラが目を見開く。本当ですか⁉ その目はそんな驚きを示していた。



「エフィルのじいさんに出くわしたら、その瞬間にアカをヨナ達のところに飛ばして、人数を減らす」

「ふん。馬鹿の愚策だったか」



 三人になれば、俺達全員を対象とした直撃を避けることはできる。しかしフリートは忌々しそうに。



「そもそも、三人以下の構成にするというのが愚策なのだ。あの老いぼれと戦った時を思い出せ。奴はそこにいた魔物を四番目の対象としていた」



 確かゴリラか大猿型の魔物だった気がする。エフィルのじいさんはそれを含ませて魔法を使い、俺の片腕を失わせた。

 フリートは言う。



「奴の魔法に明確な対抗策があるとすれば、それを使う前に奴を殺すことだ。四つの対象を定める前にな」

「……そうだな」



 それも一つの戦法だろう。少なくとも、俺が言った方法なんかよりは、よっぽど実践的だ。俺はサラに尋ねる。



「サラはどう思う? なにか有効な策はあるか?」

「……気に食わないですが、フリートの言う方法しか思い付きません。もしくは、戦わないこと、見つけた瞬間に逃げることしか。それほどまでに、奴の即死魔法は脅威的ですから」

「そうか……」



 一拍置いてから、俺は二人に聞こえるようにつぶやいた。あるいは自分自身に問うように。



「そんなに強い奴が、なんでグレンに協力してるんだろうな。必要ないだろ」

「え……」「…………」



 サラとフリートが各々の反応をする。見るに、サラはいま気付いた様子で、フリートは薄々感じていたのかもしれない。

 疑問に対する答えが出る前に、ともにいたアカが視界の先を見据えて口を開く。炎魔源を守って魔界を移動していただけあって、彼女の魔力の質と量はかなりのものだった。



「見えてきました。あの場所が炎魔源が生まれた場所です」



 俺にとっても記憶にある場所。少し視線を横にずらせば、木立に囲まれた小屋も見えてくる。師匠が仮の住まいとしていた小屋だ。



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