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第二部 炎魔の座

第九十一話 何百年も

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「でもなあ、なんか知らんが、フリートはヨナの言うことなら素直に聞いてる気がするんだよな。俺やサラが言うことには文句をつけてくるくせにさ」

「それは……そうかも……?」



 エイラにも思い当たる節があるようだ。いま思い返せば、エフィルのじいさんとの戦闘以外でも、帝国に進攻してきたときもそうだった気がする。ヨナの作戦を素直に受け入れて、帝国側での死亡者が出ないようにしていたし。



「だから、もしかしたらと思ったんだが……」



 そんな話をしていると、キッチンからヨナが戻ってくる。手にした布巾でテーブルの水飛沫を拭いていき、もう一枚の布巾でエイラの顔も拭こうとする。



「わわっ⁉ 自分でしますからっ! あとごめんなさいっ」

「……お気になさらずに……」



 ヨナがエイラに布巾を手渡して、エイラが自分の顔を拭いていく。まるで母親と娘みたいだな。と、ヨナが俺達を見つめながら言った。



「……先程の質問ですが……私とフリート様はそのような関係ではございません……」

「「…………」」



 俺達も思わずヨナを見つめ返す。たぶん、変な顔をしていたと思う。



「……説明するのは難しいですが……強いていうならば、師弟、あるいは親子という関係が近いでしょう……フリート様のことは、彼がまだ少年だったときから仕えていましたから……」

「「…………⁉」」



 俺とエイラは口をポカンと開けた。



「……懐かしいですね……彼は昔から変わっていませんが……」



 それは性格とかの内面についてだろう。いや、そんなことよりも。なんか、なんとなくだが。



「まるで、ずっと長い間、それこそ何百年も生きてきたような言い方だな」

「……どうしてそう思いますか……?」

「いや……なんか口調が俺の師匠に似ていてな……それに、きょうだいというならともかく、親子っていうのが……」



 仕えているのに親子だとか師弟だとかいうのも変な話な気がするが。しかし、まさかとは思うが。



「ヨナも不老不死だったりするのか? 師匠と同じで、時間を操作できるとか……」

「……残念ながら、私の命は有限です……お二人も知っているように、私の能力は魔力探知であり、主な契約魔法は影魔法ですから……」

「「…………」」



 ヨナは水飛沫を拭いた布巾をエイラから受け取ると。



「……話が逸れましたね……フリート様やトリン、サラさまと彼女には、森に向かうことをあとで私から伝えておきます……お二人は食事を終えたら銘々お休みになってください……」

「……ああ……分かった……」「……はい……」



 なんか、しこりが残るような感じだったが、俺とエイラは了解する。その後、夕食を済ませたあと、俺達は仮眠室として宛がわれた部屋で仮眠を取った。

 当然だが男女の部屋は分かれていて、俺はその部屋で一人、ヨナに新たに用意してもらった毛布にくるまって床に雑魚寝した。しかし目をつぶっても頭にはいろいろなことが思い浮かんでは消えていき、なかなか寝付けない。

 炎魔源のこと、皇帝との会見のこと、アカのこと、グレンのこと、明日のこと、ヨナが言っていたこと……。

 ………………………。

 いつの間にか寝てしまっていたらしく、コンコンと部屋のドアをノックする音で目を覚ます。夢も見なかったし未だに眠気が残っているから、あまり深くは眠れなかったらしい。

 ゴソゴソと毛布から起き上がってドアに声を掛ける。



「……誰だ……?」



 寝起きのダミ声に、自分のほうこそ誰だと思ってしまう。たぶん髪もボサボサになっているだろう。



「……ヨナです……まだ太陽は出ていませんが、早朝になりましたので……」

「……もうそんな時間か……」



 ドアを開ける。ヨナの隣にはいつものヒーラー服のエイラの姿が。俺と同じ寝起きのようで、まだ半分くらい夢のなかにいるみたいだった。

 ヨナはというとそんな様子は微塵もなく、いつも通りだった。本当に仮眠を取ったのかと疑問に思うほどに。

 身仕度もそこそこにアカがいる部屋へと向かう。相も変わらずフリートとサラは互いを見張るように向かい同士の壁際にいて、トリンは疲れたのかベッドで眠っていた。そのトリンのそばの椅子にアカが座って、スヤスヤと眠る彼女を見つめている。

 元々はアカを見張るためなのに、これじゃあ誰が誰を見張っているのか分かりゃあしないな。



「仮眠は済んだようだな」



 ギロリとフリートが睨んでくる。いつもならなにか言い返すところなのだが、夕食時のヨナの話がよぎって、まじまじと奴のほうを見てしまった。



「ふん。相変わらずの間抜け面を向けてくるな。まだ寝ぼけているらしい」



 相変わらず口が悪い。これも昔からなのか。

 今度はサラが言ってくる。



「ヨナから話は聞きました。アカの言う森に向かうそうですね」

「ああ」

「まだ陽は昇っていませんが、さっそく向かうのですか?」

「それは……」



 こちらの会話にアカが顔を向けてくる。嬉しいのか、ありがたいと思っているのか、真顔の表情からは読み取れない。

 行動を決める前に、俺はフリートに聞いた。



「フリート、もう一度聞いておく。今日、皇帝と会見する気はないか? おまえがその気なら、朝一番にウィズに連絡を取って、昼には……」

「くどい。いまはそんな余裕などない。貴様とて、昨夜に連絡しなかっただろうが」

「……おまえの都合がつかないのに、ウィズ達を振り回すわけにはいかないだろ」

「断れば済む話だ」

「…………」



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