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第二部 炎魔の座
第八十七話 確認しておきたい場所
しおりを挟む改めて俺は口を開いた。
「……これから俺達がなにをすべきか、考えがある」
フリートのほうを見て。
「フリート、皇帝と会見してくれ。いまから……はもう時間が遅いか」
俺とエイラがヨナ達と合流したときにはもう夕方近かった。時計は見ていないが、皇帝と謁見や会見できる時間でないことは確かだ。
「早ければ明日の昼間、遅くとも夕方くらいまでには会見できるようになんとか向こうを説得する。とにかくグレンが襲ってくるまでに……」
「ふん。まだそんなことを言っているのか。いまはそんなことに構っている余裕はない。あるいは、帝国の連中に助けを求めろと言うのか」
「……フリート」
それは炎魔源はいらないとアカに言っているようなものだぞ。アカが求めているのは、仲間と協力し合える奴なんだから。
しかしフリートはそれを分かっている上で、言っているようだった。にらむように返してくる。
「帝国の連中は仲間ではない。そもそも仲間になれるわけもない。部下にならば、してやってもいいがな」
「…………」
……こいつ……。
サラが皮肉るようにフリートに言った。
「私としてはそちらのほうがありがたい。シャイナどのは帝国と協力するおまえをアカに見せて、認めさせるつもりだったのだろうがな」
「ふん。知ったことか。我輩を手駒に出来ると思うな」
「こうしておまえが勝手に候補から外れてくれるのだからな」
…………ダメだこいつら、全然協力する気がねえ……。
呆れたように二人を見ていると、ふとアカが口を開いて言った。
「いま、帝国と申しましたか?」
「え? ああ、そうだが?」
彼女に振り向いて、俺は答える。この建物自体はどこにあるか分からないけどな。
「…………」
するとアカは少し考える素振りを見せたのち。
「帝国に向かうというのなら、私も同行しましょう」
「え……?」
俺も含めてみんなの顔に疑問符が浮かぶ。アカは続けて言った。
「確認しておきたい場所があるのです」
俺達は一度顔を見合わせる。それから俺はアカに言った。
「いや……いまの俺達の話を聞いていて分かると思うが、明日帝都に向かうことは……」
「ならば、私だけで行動しましょう。あなた方に迷惑は掛けられませんから」
俺達はもう一度顔を見合わせる。迷惑を掛けるもなにも、彼女に単独行動されること自体が困るんだが……。
俺の代わりに、今度はヨナが彼女に言う。
「……残念ですが、単独での行動は控えてください。いまあなたに離れられては非常に困りますから……」
「…………」
逃げるとは思えないが、想定よりも早くグレンが気付いてやってくる可能性もあるからな。
「……しかし、あなたが言う場所とやらには興味があります……どこなのか言ってくだされば、あるいは……」
「…………」
アカはみんなの顔を見渡して……特に俺のことをほんのわずかだけ長く見て、答えた。
「森、です」
森……?
それだけ答えると、アカは口を閉ざしてしまう。俺やみんながどういうことなのか、具体的にどこの森なのか、そこになにがあるのか……それらの質問をしても、彼女は静かに首を横に振るだけだった。
『いまは答えられません』
『あなた方には関係ないことですので』
そんなような言葉を、その仕草に込めているかのように。
…………。
いまはアカは窓辺に置いた椅子に腰掛けて、なにも見えない真っ暗な窓の外を見つめていた。暗いのは夜だからではなく、ヨナとトリンが影と糸で建物の周囲を覆い隠しているからだ。
魔界にあった隠れ家と同じように魔力が漏れないようにするためだが……。
「エフィルのシキガミに見つかったら一発でバレるかもな」
そう言う俺にヨナはこう答えた。
「……そのときは、そのときとしか……魔力を探知されるほうが、危険性は極めて高いですので……」
「それはそうだけどな……」
魔力探知は遠く離れていても可能だが、シキガミによる発見は近くまで来て目視するしかない。帝国は広大だから、まだシキガミのほうが見つかる危険性は低いということだ。
いまは二組に分かれて交代でアカの護衛と見張りをしていた。俺とエイラとヨナを便宜上に一班として、フリートとサラとトリンが二班だ。
俺達一班がアカのそばにいる間に、フリート達は食事や仮眠を取る。決めた時間になったら交代して、今度は俺達が食事と仮眠をする。そうやって朝まで待機しているのだが。
「アカ。メシは食わなくていいのか? 睡眠も……」
「私なら心配は不要です」
アカは窓の外を見たまま答えた。彼女のそばの小テーブルにはヨナが用意した食事が置かれていたが、さっきから一口も手をつけていない。
「私は炎魔源によって作られた存在です。炎魔源の魔力さえあれば、食事も睡眠も基本的に必要ありません」
炎魔源の魔力がエネルギーとなる、ということだ。その炎魔源はいま彼女が所持しているため、実質いまは不滅に近い存在ということになる。あくまで普通に日常生活する分には、だが。
「かつて、歴代の炎魔様のなかには、召し使いを生物と同様に扱う方もいらっしゃいました。もう遠い昔のことですが」
抑揚などの話し方に変化はなかったが、もしかしたらその遠い昔の主人だった者達のことを思い出しているのかもしれない。
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