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第二部 炎魔の座

第八十一話 合流

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 と、そこでようやく通信がつながった。目の前の空間にノイズが走るウィンドウが開かれ、向こうの声だけが聞こえてくる。


『……誰ですか?』


 ヨナのほうには通信相手の魔力や表示名から、俺だということは分かってはいるだろう。しかしタイミング的に俺が生きていることはまだ知らず、そのためこの通信を怪しんでいるんだ。


「俺だ。シャイナだ」
『…………っ……⁉』


 非常な驚きに満ちた気配。直後、ヨナ以外の別の声。


『シャイナっ⁉ ウソっ⁉ 本当にシャイナなのっ⁉』


 トリンだった。当然だが彼女もいま初めて知ったため、天地がひっくり返ったような声をしていた。


「ああ、俺だ。偽もんだと思うなら顔を映してみろ」


 ウィンドウに向こうの様子が投影される。こちらを確認して目をわずかに大きくするヨナと心底びっくりした顔のトリン。
 背景は暗く、二人がいまどこにいるのかは判別できない。


『……本当にシャイナさまですか……? 何者かの変装ということなら……』


 まだ疑っているらしい。無理もない。俺自身、自分が生きていることが信じられないくらいなんだから。


「本当に俺だ。ここに首の傷があるだろ?」
『『…………』』


 首が切断されていた痕を見せる。ギザギザの痛々しい傷痕。
 っと、見せてから気付く。こんなもので俺だということを証明できるわけでもない。考えてみれば、自分自身の存在証明とは、非常に難しいもんだな。
 会話のやり取りを見ていたエイラが横から入ってきて、ウィンドウに顔を映しながら二人に言った。


「本当にシャイナだよ。二人が魔界に戻ったあといろいろあって、シャイナが生き返ったんだよっ」
『……エイラさま……』『エイラ』


 生き返ったというと語弊があるが。一度死んだわけではなく、生と死のギリギリのところをさまよっていたわけだから。
 再び俺は二人に言う。


「話すと長くなるが、とにかく俺は助かったわけだ。いま帝都の城の会議室にいるんだが、二人のところまで合流できないか? そっちの様子を知りたいし、こっちのことも話しておくことがある」
『『…………』』


 二人は黙り込むが、別に疑念の眼差しを向けてくるわけではない。なんとなくだが、話すのをためらうような、話しにくいような雰囲気が醸し出されている。
 少しして、代表するようにヨナが言った。


『……分かりました……ですが私はその会議室の具体的な場所を知りませんので、帝都の入口まで来てくれませんか? ……そこで落ち合いましょう……』


 以前この街を攻めてきたときにヨナは帝城の位置を確認しているはずだ。合流するなら城の入口でもいいはずだが、ウィズやリダエル達といった帝国関係者に遠慮しているのだろう。
 とにかく、俺はうなずいた。


「分かった。いますぐ帝都の入口に向かう。着いたらまた連絡する」
『……了解しました……』


 プツリ。一度通信が切れる。俺は今度はウィズ達に向いて。


「というわけだ。これから帝都の入口まで行く。フリート達と会見について話をつけたら、また連絡する」
「分かった」「おう、また死ぬなよ」


 ウィズがうなずき、リダエルが笑みながら言う。死んでたわけじゃねえが、まあ似たようなもんか。
 しかし相変わらずサムソンはなにも言わず、こちらを睨んでくるだけだった。最近のこいつはこんな顔ばっかりだな。
 続けてウィズが俺とエイラに言う。


「帝都の入口まで送ろう。そのほうが時間の短縮になる」


 帝城から帝都の入口まではわりと距離がある。歩いて行ったらけっこうな時間が掛かるだろう。俺はうなずいて、ありがたく申し出を受けることにした。


「サンキュ。なにからなにまで悪いな」
「気にするな。君達には私達も大いに助けられているからな」


 そして俺とエイラの足元に魔法陣が浮かび上がり、俺達は一瞬で帝都の入口にたどり着いた。
 土魔司宰のザイとの戦いから数時間経っていて空は暗くなっているが、まだ夕方の少し前くらいの時間だ。暗いのは雲が垂れ込めているからであり、幸いにも雨はまだ降り出していなかった。
 湿気を含んだ風が草原を吹き抜けるなか、俺は再び指輪から通信を入れる。


「シャイナだ。帝都の入口に着いた」
『……了解しました……ではいまからそちらに向かいます……』


 通信が切れて、そばの地面に魔法陣が出現する。間もなくして、そこにヨナとトリンが現れた。


「「…………」」


 二人は俺の姿を再確認して一瞬息を飲む。通信で見て話したはずだが、やはり実際に自分の目で見て驚きが隠せないのだろう。
 と、一拍おいて。


「シャイナぁっ!」


 トリンが声を上げながら抱きついてきた。


「ほんとにシャイナだぁっ! ほんとに生きてたぁっ!」


 涙声のような、それでいて嬉しさを含ませた声。
 ぎゅーっとトリンが抱きしめてくるなか、こほんと小さな咳払い。エイラがトリンに言う。


「トリンちゃん、それでそっちはいまどうなってるの?」
「あ、炎魔源のこと? それはね……」


 トリンが言おうとするが、それより早くヨナが口を開いた。足元にはいまだに魔法陣が展開されたままで、すぐにでも再転移が可能になっている。


「……そのことについては向こうで話しましょう……少なからず進展がありましたので……良くも悪くも……」
「「…………⁉」」


 進展があった。いったいなにがあったのか?



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