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第二部 炎魔の座

第七十八話 質問

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 耳と口の拘束が解けたとき、しかし大男は特になにもしゃべらず、口を閉ざしていた。ウィズやみんなと視線を交わしてから、代表するように俺は大男に言う。


「おまえに聞きたいことがある。グレンは何者なんだ?」


 百年前に殺されているはず……という情報は与えないでおく。こいつが知っているかは分からないが。
 目隠しした男の顔がわずかにこちらを向く。声の方向で判断したのだろう。しかし。


「…………」


 依然、無言のまま。
 質問を変えてみる。


「おまえとライースとあのじいさんと、他にグレンの元には何人の協力者がいるんだ?」
「……その声、オレに勝った奴か……光の魔法使い……そういや名前を聞いてなかったな」


 ウィズはだんまりだと言っていたので、てっきり無言を貫くかと思ったが。意外と早く口を開いたな。質問には答えていないが。


「質問に答えれば、俺の名前くらいいくらでも教えてやるぜ」
「…………、ガッハッハッ!」


 唐突に大男は笑い声を上げた。


「取り引きになってねえな。そんなんで口を割ると思うのか⁉」
「……思ってねえよ」


 こんなんでしゃべられたほうが、むしろ困惑しちまう。ウソなんじゃねえかってな。


「分かってんなら、オレに吐けることはねえな。こんな厳重な拘束までしてご苦労なこったが」


 聞きたいことは他にもある。グレンのことをどこまで知っているのか……炎魔源を手に入れたグレンは具体的になにをするつもりなのか、ろくでもないことをする気なのは察しがつくが……あのじいさんが使う魔法は他にもなにかあるのか……。
 だが、大男の態度的に、それらの情報を聞き出すのは難しいだろう。


「ウィズ。自白させる魔法とか道具はないのか?」
「そんなものがあれば、とっくに使っているさ」
「それもそうか」


 問題は山積みになっている。魔界にいるフリート達とも合流する必要がある。ここで余計な時間を取られているわけにはいかないんだが……。
 俺はもう一度大男に言う。


「おまえ、ザイとか言ってたな、名前」
「それがどうした」


 自分の名前がこの場で意味をなすのか? 大男の顔つきはそう言っているようだ。


「グレン達のことは話せなくても、おまえ自身のことなら話せるだろ。どうしておまえはグレンと手を組んだ? おまえの目的はなんだ?」
「…………」


 一瞬の沈黙。これもやはり答えないかと思ったが、ザイはおかしそうに笑い声を上げた。


「ガッハッハッ! オレの目的⁉ そんなのは簡単さ! 力だ!」
「……力、だと……」
「そうだ! 炎魔源を手に入れた奴と契約して、さらなる力を得るためだ。土魔は他の魔存在と契約することに、そこまで頓着しねえからな」


 純粋な『力』への渇望……ってわけか。
 補足説明するようにウィズが口を挟んでくる。


「土魔は面倒くさがりな性格なそうで、契約する際も細かいことは気にかけないらしい。だから他の魔存在と比べて、契約することや掛け持ちが容易なんだ」
「…………よく魔存在になれたな、そいつ……」


 魔存在は圧倒的な実力を持っているが、その性格や内面まで超然としているわけではない。
 たとえば光魔は柔和な性格で、先代の炎魔は傲慢な奴だった。それらのように、土魔はかなりの面倒くさがりな奴というだけのことだ。
 まるで人間や魔族みてえに、それぞれの個性がある。
 ウィズは続けて。


「しかし、土魔はそうだとしても、他の魔存在は契約に厳しいものもいるからな。結果として、やはり魔導士以上で二種類以上の契約をしている者は多くないことになる」
「……そこら辺のバランスは取れてるんだな……」


 いつ崩れてもおかしくないような、絶妙なバランス関係だが。
 もう一度大男へと向く。


「……力を得るためにグレンに協力する、か……そうまでして強くなって、どうするつもりだ?」
「……何……?」


 どういう気持ちがそんな問いを発生させたのか、自分自身分からない。あるいは、瀕死の状態で見たあの夢のような邂逅での話が影響したのかもしれない。
 その質問に、しかし目の前の大男はなにをバカなことをと言いたげに返してくる。


「この世界は力こそ全てだ! 力のない奴は淘汰されて、力のある奴はやりたいことを何でもできる! 世界を見てみろ、暴力、権力、財力、知力、どれもそうだろうが」
「…………」


 黙り込む俺と気炎を上げる奴を、みんなが沈黙して見つめてくる。なぜそんな質問を? とか、そんなことを思っているのかもしれないな。


「……それで土魔と炎魔の力を組み合わせて、グレンよりも強くなったら、下剋上でもするつもりなのか?」
「ガッハッハッ! それも悪くねえな! まずはあのいけ好かねえグレンの野郎を叩きのめして炎魔の力を奪ったら、今度は土魔や他の魔存在の力も奪って……」
「……そう上手くいくとは思えねえけどな……」
「何だと⁉」


 小さくつぶやいた声に奴が大声を返す。
 やはりこいつは脳筋らしい。仮にグレンが炎魔の力を得ても、こいつにそれを貸すとは限らねえし、貸したとしても簡単に下剋上されるとも思えない。刃向かってきたら、契約を取り消して貸した力をなくせばいいだけだからな。
 そう、それが魔存在の特権でもある。故に、魔存在は自身の契約者に敗北することはまずない。二種以上の属性が使える魔法士では実力的に刃が立たず、魔導士以上の強さの者は一体の魔存在と契約するのが主だからだ。
 例外があるとすれば……。
 そのとき、会議室のドアをノックする音が響いた。いきなりのその音に、なぜだか室内の空気をつんざくような切れ味を感じてしまう。



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