166 / 235
第二部 炎魔の座
第七十八話 質問
しおりを挟む耳と口の拘束が解けたとき、しかし大男は特になにもしゃべらず、口を閉ざしていた。ウィズやみんなと視線を交わしてから、代表するように俺は大男に言う。
「おまえに聞きたいことがある。グレンは何者なんだ?」
百年前に殺されているはず……という情報は与えないでおく。こいつが知っているかは分からないが。
目隠しした男の顔がわずかにこちらを向く。声の方向で判断したのだろう。しかし。
「…………」
依然、無言のまま。
質問を変えてみる。
「おまえとライースとあのじいさんと、他にグレンの元には何人の協力者がいるんだ?」
「……その声、オレに勝った奴か……光の魔法使い……そういや名前を聞いてなかったな」
ウィズはだんまりだと言っていたので、てっきり無言を貫くかと思ったが。意外と早く口を開いたな。質問には答えていないが。
「質問に答えれば、俺の名前くらいいくらでも教えてやるぜ」
「…………、ガッハッハッ!」
唐突に大男は笑い声を上げた。
「取り引きになってねえな。そんなんで口を割ると思うのか⁉」
「……思ってねえよ」
こんなんでしゃべられたほうが、むしろ困惑しちまう。ウソなんじゃねえかってな。
「分かってんなら、オレに吐けることはねえな。こんな厳重な拘束までしてご苦労なこったが」
聞きたいことは他にもある。グレンのことをどこまで知っているのか……炎魔源を手に入れたグレンは具体的になにをするつもりなのか、ろくでもないことをする気なのは察しがつくが……あのじいさんが使う魔法は他にもなにかあるのか……。
だが、大男の態度的に、それらの情報を聞き出すのは難しいだろう。
「ウィズ。自白させる魔法とか道具はないのか?」
「そんなものがあれば、とっくに使っているさ」
「それもそうか」
問題は山積みになっている。魔界にいるフリート達とも合流する必要がある。ここで余計な時間を取られているわけにはいかないんだが……。
俺はもう一度大男に言う。
「おまえ、ザイとか言ってたな、名前」
「それがどうした」
自分の名前がこの場で意味をなすのか? 大男の顔つきはそう言っているようだ。
「グレン達のことは話せなくても、おまえ自身のことなら話せるだろ。どうしておまえはグレンと手を組んだ? おまえの目的はなんだ?」
「…………」
一瞬の沈黙。これもやはり答えないかと思ったが、ザイはおかしそうに笑い声を上げた。
「ガッハッハッ! オレの目的⁉ そんなのは簡単さ! 力だ!」
「……力、だと……」
「そうだ! 炎魔源を手に入れた奴と契約して、さらなる力を得るためだ。土魔は他の魔存在と契約することに、そこまで頓着しねえからな」
純粋な『力』への渇望……ってわけか。
補足説明するようにウィズが口を挟んでくる。
「土魔は面倒くさがりな性格なそうで、契約する際も細かいことは気にかけないらしい。だから他の魔存在と比べて、契約することや掛け持ちが容易なんだ」
「…………よく魔存在になれたな、そいつ……」
魔存在は圧倒的な実力を持っているが、その性格や内面まで超然としているわけではない。
たとえば光魔は柔和な性格で、先代の炎魔は傲慢な奴だった。それらのように、土魔はかなりの面倒くさがりな奴というだけのことだ。
まるで人間や魔族みてえに、それぞれの個性がある。
ウィズは続けて。
「しかし、土魔はそうだとしても、他の魔存在は契約に厳しいものもいるからな。結果として、やはり魔導士以上で二種類以上の契約をしている者は多くないことになる」
「……そこら辺のバランスは取れてるんだな……」
いつ崩れてもおかしくないような、絶妙なバランス関係だが。
もう一度大男へと向く。
「……力を得るためにグレンに協力する、か……そうまでして強くなって、どうするつもりだ?」
「……何……?」
どういう気持ちがそんな問いを発生させたのか、自分自身分からない。あるいは、瀕死の状態で見たあの夢のような邂逅での話が影響したのかもしれない。
その質問に、しかし目の前の大男はなにをバカなことをと言いたげに返してくる。
「この世界は力こそ全てだ! 力のない奴は淘汰されて、力のある奴はやりたいことを何でもできる! 世界を見てみろ、暴力、権力、財力、知力、どれもそうだろうが」
「…………」
黙り込む俺と気炎を上げる奴を、みんなが沈黙して見つめてくる。なぜそんな質問を? とか、そんなことを思っているのかもしれないな。
「……それで土魔と炎魔の力を組み合わせて、グレンよりも強くなったら、下剋上でもするつもりなのか?」
「ガッハッハッ! それも悪くねえな! まずはあのいけ好かねえグレンの野郎を叩きのめして炎魔の力を奪ったら、今度は土魔や他の魔存在の力も奪って……」
「……そう上手くいくとは思えねえけどな……」
「何だと⁉」
小さくつぶやいた声に奴が大声を返す。
やはりこいつは脳筋らしい。仮にグレンが炎魔の力を得ても、こいつにそれを貸すとは限らねえし、貸したとしても簡単に下剋上されるとも思えない。刃向かってきたら、契約を取り消して貸した力をなくせばいいだけだからな。
そう、それが魔存在の特権でもある。故に、魔存在は自身の契約者に敗北することはまずない。二種以上の属性が使える魔法士では実力的に刃が立たず、魔導士以上の強さの者は一体の魔存在と契約するのが主だからだ。
例外があるとすれば……。
そのとき、会議室のドアをノックする音が響いた。いきなりのその音に、なぜだか室内の空気をつんざくような切れ味を感じてしまう。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話
此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。
電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。
信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。
そうだ。西へ行こう。
西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。
ここで、ぼくらは名をあげる!
ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。
と、思ってた時期がぼくにもありました…
高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう
電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。
そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。
しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。
「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」
そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。
やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。
実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。
彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。
俺だけ皆の能力が見えているのか!?特別な魔法の眼を持つ俺は、その力で魔法もスキルも効率よく覚えていき、周りよりもどんどん強くなる!!
クマクマG
ファンタジー
勝手に才能無しの烙印を押されたシェイド・シュヴァイスであったが、落ち込むのも束の間、彼はあることに気が付いた。『俺が見えているのって、人の能力なのか?』
自分の特別な能力に気が付いたシェイドは、どうやれば魔法を覚えやすいのか、どんな練習をすればスキルを覚えやすいのか、彼だけには魔法とスキルの経験値が見えていた。そのため、彼は効率よく魔法もスキルも覚えていき、どんどん周りよりも強くなっていく。
最初は才能無しということで見下されていたシェイドは、そういう奴らを実力で黙らせていく。魔法が大好きなシェイドは魔法を極めんとするも、様々な困難が彼に立ちはだかる。時には挫け、時には悲しみに暮れながらも周囲の助けもあり、魔法を極める道を進んで行く。これはそんなシェイド・シュヴァイスの物語である。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
くじ引きで決められた転生者 ~スローライフを楽しんでって言ったのに邪神を討伐してほしいってどゆこと!?~
はなとすず
ファンタジー
僕の名前は高橋 悠真(たかはし ゆうま)
神々がくじ引きで決めた転生者。
「あなたは通り魔に襲われた7歳の女の子を庇い、亡くなりました。我々はその魂の清らかさに惹かれました。あなたはこの先どのような選択をし、どのように生きるのか知りたくなってしまったのです。ですがあなたは地球では消えてしまった存在。ですので異世界へ転生してください。我々はあなたに試練など与える気はありません。どうぞ、スローライフを楽しんで下さい」
って言ったのに!なんで邪神を討伐しないといけなくなったんだろう…
まぁ、早く邪神を討伐して残りの人生はスローライフを楽しめばいいか
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる