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第二部 炎魔の座

第七十三話 絶対に覆らない未来

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「⁉」
『⁉』


 突然の攻撃に、大男だけじゃなくみんなが驚愕の顔をする。


「グ、オオオオッ⁉」


 身長二メートル以上の大男が、自分の背丈ほどの斧で光の矢を受け止める……が、矢の威力によってその足が少しずつ地面へと沈んでいっている。このままだとやられると焦ったのだろう、


「ド、リャアアアアッ!」


 大男が光を受け止めていた斧を横へと思いきり薙ぎ払って、光の矢を弾き飛ばした。ダメージこそ与えられなかったが、体力は消耗させられたらしい、ぜえぜえと荒い息を吐いて額からは汗がにじんでいる。


「いまのは……ッ……⁉」


 大男がこちらへと……魔法を放った俺へと鋭い目を向けてくる。奴だけじゃなく、みんなもまた教会の入口に立つ俺へと振り返ってくる。


『シャイナっ⁉』


 みんなが驚きの声を上げる。生きていたことは知っているし、切断されていた首を治したのはエイラやウィズだろう……だが、それでもみんなは信じられないといった顔を浮かべていた。エイラに至っては口元に手を当てて瞳から涙をこぼしている始末だし。


「待たせたな、みんな」


 あれからどのくらい経ったのか、正確な時間は知らない。長かったような気もするし、短かったような気もする。だけど一つだけ言えることがある。
 本当にみんなのことを待たせちまったということだ。
 みんなへと向けていた視線を、眼前にいる大男へと向け直す。視線を外さないまま、みんなに言う。


「教会のなかにジーナが隠れてる。みんなはジーナと一緒にどこかに避難しててくれ」


 その言葉に、ウィズが声を上げた。


「待て。いくらシャイナどのでも、生還したばかりで奴と戦うのは無謀だ。私達も……」


 その声に、落ち着いた声で答える。返事としては、やんわりとした拒否の意を。


「ダメだ。奴の位階は土魔司宰だ。初めて会ったときのフリートと同じくらい強えってことだな。倒そうと思ったら、みんなの安全までは保障できなくなる」
「…………っ」


 その言葉は、暗にいま持てる全力を出すつもりであることを示唆している。必要とあらば、ミストルテインも使うだろう。


「それになんでか分からねえけど、なんか心の底が落ち着いてるんだ。ついさっきまで死にかけてたってのに、いまは誰にも負ける気がしないんだよ」


 実力や魔力そのものが底上げされているわけではない。ただの気持ちの問題。
 しかし、いまは本当に、たとえ相手が誰だとしてもなんとかなりそうな気がしていた。


「だから、安心して待っていてくれ。俺が勝って帰ってくるのを。みんなで」


 最後にちょっとだけみんなのほうへ顔を向けると、わずかな微笑みを見せる。心配させないための、安心させるための、微笑。


『…………』


 みんなが一瞬だけ沈黙する。それぞれが思い思いのことを心に抱いている、かすかな間。
 俺の気持ちを察したように、


「…………分かった」


 ウィズは少しだけうなずくと、みんなへと声をかけた。


「みんな、ここはシャイナの言う通りにしよう! 全員、撤退!」


 騎士団長のリダエルや騎士団のみんなはすぐにうなずきを返して、ジーナを保護するために教会へと向かっていく。


「任せたぞ、シャイナ」
「頼みます、シャイナさん」
「絶対に勝って帰ってきてよね。そんで葬儀代、返しなさいよ」
「まったく、これでも俺達だって強くなってんのによ。とにかく任せたぜ」


 すれ違ったリダエル、ティム、エマ、バーメンがそれぞれ言ってくる。つーか、エマはこの状況でそれ言うか?
 リダエル達がジーナを教会から連れ出すなか、ジーナもまた、


「絶対に勝ってくださいねー」


 と言ってきていた。
 ウィズも俺へと目を向けてくると。


「君なら必ず大丈夫だと信じている。『奇跡』を体現した君なら、な」


 『奇跡』。
 そう、まさにあれは奇跡という他ない。本当なら死んでいたこの命。運命の気まぐれでまた拾い上げたこの命。
 もう俺は誰にも負けるつもりはない。たとえ世界を滅ぼせるくらい強大な『力』が相手だろうと。
 エイラが駆け寄ってくる。こういうとき、いつもなら抱きついて泣きじゃくる彼女だと思うが、しかしいまはその気持ちを抑えているように立ち止まると、涙を指で拭いながら言ってきた。


「信じてるからね、シャイナ」


 しかしすぐに首を横に振り。


「ううん、これは事実。シャイナが勝つことも、帰ってくることも、絶対に覆らない未来なんだから」


 エイラの後ろからはディアもやってきた。同じように立ち止まって、少しの間見つめてくる。その瞳には安堵や信心、かすかな心配などといった感情が見て取れた。


「…………、言いたいことは全部エイラさんに言われてしまいました。だからわたしからはこれだけ言わせてください。シャイナなら絶対に大丈夫です」


 そしてみんなは戦場から離れていく。サムソンだけはなにも言わずに鋭い顔でにらみつけてくるだけだったが……その顔が言っていた。


『僕以外の奴に負けることは絶対に許さない。もし負けたら、地獄の果てまで追いかけて、ぶっ飛ばしてやる』


 相変わらず怖ええ奴だな。まあ俺も負けるつもりはサラサラないし、サムソンに聞きたいことも残ってるしな。



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