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第二部 炎魔の座
第六十五話 『ライトカーブレール』
しおりを挟む「……やったのか……?」
つぶやく声に、ヨナが答える。
「……油断は禁物です……炎魔源の魔力は消えていません……」
確かに、周囲の漆黒の壁は崩壊していない。奴がこの場を制御しているのならば、それが意味するところはつまり……。
予測通り、視界の横側に紅い炎が燃え上がり、ブクブクと沸騰するような音を立てながら地面から奴が再び姿を現した。
『強さは充分。だが私はまだ滅んでいない。おまえには殺意が足りない。見ただけで殺すような殺意が』
やっぱりまだやってなかったか。奴はまたも漆黒の火球を作り始める。今度は一つではなく、両手に一個ずつの計二つ。
『私が仕えるべき炎魔様に必要なモノ。圧倒的な『強さ』と圧倒的な『殺意』。それらを持たないものに炎魔源を手にする資格はない』
「だから言ってるだろ、俺達は炎魔になる気はねえんだよ。そういうことは他の奴に言え」
だが奴は文句を無視して、さっきと同じように二つの火球を肥大させていく。
相変わらず話を聞かねえ奴だな……っ!
なんつーか、どことなく前の炎魔に似てる感じすらしやがる……って、炎魔に作られたってんなら、それもそうかもしれないが。
そしてさっきと同じように、奴は二つの巨大火球を撃ち出してきた。数は増えたとはいえ、一発の威力が変わらないのならば、再びミストルテインで突破するのは簡単だろう。
問題は、ミストルテインで消費する魔力は膨大だから、そうやすやすと何発も撃ちまくれないってことだ。こいつを倒したあとに炎魔源の追跡を再開することを考えれば、使う魔力はコントロールしておく必要があるだろう。
だから、俺は足に魔力を込めて奴へと、つまりは迫りくる二つの火球へと、猛スピードで駆け出した。
「シャイナっ⁉」
「……シャイナさま……⁉」
意表を突かれた二人が声を上げる。二人まで驚かすつもりはなかったが、説明する時間はなかったからな。
そして二つの火球の目前へと到達すると、俺は両手のひらにそれぞれ光の魔法陣を出現させる。ミストルテインなどの攻撃のための魔法ではなく、サポート系のやや小さめの、それこそ手のひらより一回りだけ大きい程度の魔法陣。
「『ライトカーブレール』」
作り出したのは二つの湾曲した、漆黒の天井方面に向けられた光の道……レールだ。目前に現れたそれに火球はそれぞれ乗ると、その道に沿って軌道を曲げられて、天井へと激突していく。
「はっ! どうやら威力は強くてもコントロールは苦手みてえだな!」
火球がぶつかった箇所に穴があき、魔界の暗い空が垣間見える。ずっと暗いと思っていたが、真の闇のここよりはマシだからか、見えたときほんのちょっとだけ安心したというか、懐かしく感じちまった。
そんな感傷はともかく、俺は奴へと駆けていく。天井の穴はすぐに再生していき、ほどなくして暗い空は見えなくなっていった。
「……なるほど……その手がありましたか……」
背後でヨナがつぶやいた。まあ、この方法は攻撃魔法をうまくコントロールできていないようなやつにしか通用しないけどな。
『邪道。次代の炎魔様にそのような時間稼ぎは必要ない。圧倒的な『力』でもってねじ伏せるべき』
奴が発する声に含まれるノイズが一際大きくなった。どうやら怒っているというか不愉快になっているらしい。そんなところも前の炎魔に似てやがるな。
「うっせえよ。人の言うことを聞かねえ奴が文句言うな。悔しかったら、その力とやらでねじ伏せてみやがれってんだ」
つーか、さっきすでにミストルテインでねじ伏せられてたじゃねーか。
俺の挑発に乗ったのか、奴は続けざまに漆黒の火球を連射してくる。が、それらも光のレールで天井や壁へとそらしながら、俺は奴へと迫っていき。
「『ライトブレイド』」
手に光の剣を出現させると、その漆黒の身体を斬り裂いた。
……が。
『不足。その程度の『力』では、私を滅ぼすことは出来ない』
左右に真っ二つになった奴が言う。さっきのミストルテインのときにある程度予想はしていたが、どうやらこいつは普通の方法では倒せないようだ。
左右に分かれた奴の身体の間、なにもないはずの空間に小さな黒い火球が出現する。
「ちっ……!」
この至近距離で飲み込まれれば、いくら魔力をまとっていようと即死しかねない。すぐさま後ろに跳んで距離を取ったとき、小さな火球は奴の身体を飲み込みながら巨大化して、俺へと向かってきた。
「くそ……っ!」
それも光のレールで天井へとそらして、なんとか直撃を避ける。火球に飲み込まれたはずの奴は、再び紅い炎のそばに姿を現していた。
「まさかとは思うが、そっちの炎が本体ってオチじゃねえよな」
あいているほうの左手をかざして、紅い炎へと光の矢を放つ。それは高速で炎を射抜いたが特にダメージはなく、素通りしていっただけだった。
離れた場所にいるヨナが声を大きくして言ってくる。
「……シャイナさま、その召し使いは炎魔、つまり炎魔源の魔力で作られた存在です……この場にその魔力が漂っている限り生存し、また物理的な攻撃は即座に回復して意味をなさないでしょう……っ」
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