上 下
153 / 235
第二部 炎魔の座

第六十五話 『ライトカーブレール』

しおりを挟む


「……やったのか……?」


 つぶやく声に、ヨナが答える。


「……油断は禁物です……炎魔源の魔力は消えていません……」


 確かに、周囲の漆黒の壁は崩壊していない。奴がこの場を制御しているのならば、それが意味するところはつまり……。
 予測通り、視界の横側に紅い炎が燃え上がり、ブクブクと沸騰するような音を立てながら地面から奴が再び姿を現した。


『強さは充分。だが私はまだ滅んでいない。おまえには殺意が足りない。見ただけで殺すような殺意が』


 やっぱりまだやってなかったか。奴はまたも漆黒の火球を作り始める。今度は一つではなく、両手に一個ずつの計二つ。


『私が仕えるべき炎魔様に必要なモノ。圧倒的な『強さ』と圧倒的な『殺意』。それらを持たないものに炎魔源を手にする資格はない』
「だから言ってるだろ、俺達は炎魔になる気はねえんだよ。そういうことは他の奴に言え」


 だが奴は文句を無視して、さっきと同じように二つの火球を肥大させていく。
 相変わらず話を聞かねえ奴だな……っ!
 なんつーか、どことなく前の炎魔に似てる感じすらしやがる……って、炎魔に作られたってんなら、それもそうかもしれないが。
 そしてさっきと同じように、奴は二つの巨大火球を撃ち出してきた。数は増えたとはいえ、一発の威力が変わらないのならば、再びミストルテインで突破するのは簡単だろう。
 問題は、ミストルテインで消費する魔力は膨大だから、そうやすやすと何発も撃ちまくれないってことだ。こいつを倒したあとに炎魔源の追跡を再開することを考えれば、使う魔力はコントロールしておく必要があるだろう。
 だから、俺は足に魔力を込めて奴へと、つまりは迫りくる二つの火球へと、猛スピードで駆け出した。


「シャイナっ⁉」
「……シャイナさま……⁉」


 意表を突かれた二人が声を上げる。二人まで驚かすつもりはなかったが、説明する時間はなかったからな。
 そして二つの火球の目前へと到達すると、俺は両手のひらにそれぞれ光の魔法陣を出現させる。ミストルテインなどの攻撃のための魔法ではなく、サポート系のやや小さめの、それこそ手のひらより一回りだけ大きい程度の魔法陣。


「『ライトカーブレール』」


 作り出したのは二つの湾曲した、漆黒の天井方面に向けられた光の道……レールだ。目前に現れたそれに火球はそれぞれ乗ると、その道に沿って軌道を曲げられて、天井へと激突していく。


「はっ! どうやら威力は強くてもコントロールは苦手みてえだな!」


 火球がぶつかった箇所に穴があき、魔界の暗い空が垣間見える。ずっと暗いと思っていたが、真の闇のここよりはマシだからか、見えたときほんのちょっとだけ安心したというか、懐かしく感じちまった。
 そんな感傷はともかく、俺は奴へと駆けていく。天井の穴はすぐに再生していき、ほどなくして暗い空は見えなくなっていった。


「……なるほど……その手がありましたか……」


 背後でヨナがつぶやいた。まあ、この方法は攻撃魔法をうまくコントロールできていないようなやつにしか通用しないけどな。


『邪道。次代の炎魔様にそのような時間稼ぎは必要ない。圧倒的な『力』でもってねじ伏せるべき』


 奴が発する声に含まれるノイズが一際大きくなった。どうやら怒っているというか不愉快になっているらしい。そんなところも前の炎魔に似てやがるな。


「うっせえよ。人の言うことを聞かねえ奴が文句言うな。悔しかったら、その力とやらでねじ伏せてみやがれってんだ」


 つーか、さっきすでにミストルテインでねじ伏せられてたじゃねーか。
 俺の挑発に乗ったのか、奴は続けざまに漆黒の火球を連射してくる。が、それらも光のレールで天井や壁へとそらしながら、俺は奴へと迫っていき。


「『ライトブレイド』」


 手に光の剣を出現させると、その漆黒の身体を斬り裂いた。
 ……が。


『不足。その程度の『力』では、私を滅ぼすことは出来ない』


 左右に真っ二つになった奴が言う。さっきのミストルテインのときにある程度予想はしていたが、どうやらこいつは普通の方法では倒せないようだ。
 左右に分かれた奴の身体の間、なにもないはずの空間に小さな黒い火球が出現する。


「ちっ……!」


 この至近距離で飲み込まれれば、いくら魔力をまとっていようと即死しかねない。すぐさま後ろに跳んで距離を取ったとき、小さな火球は奴の身体を飲み込みながら巨大化して、俺へと向かってきた。


「くそ……っ!」


 それも光のレールで天井へとそらして、なんとか直撃を避ける。火球に飲み込まれたはずの奴は、再び紅い炎のそばに姿を現していた。


「まさかとは思うが、そっちの炎が本体ってオチじゃねえよな」


 あいているほうの左手をかざして、紅い炎へと光の矢を放つ。それは高速で炎を射抜いたが特にダメージはなく、素通りしていっただけだった。
 離れた場所にいるヨナが声を大きくして言ってくる。


「……シャイナさま、その召し使いは炎魔、つまり炎魔源の魔力で作られた存在です……この場にその魔力が漂っている限り生存し、また物理的な攻撃は即座に回復して意味をなさないでしょう……っ」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。

香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー 私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。 治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。 隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。 ※複数サイトにて掲載中です

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...