【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

文字の大きさ
上 下
152 / 235
第二部 炎魔の座

第六十四話 炎魔の召し使い

しおりを挟む


 背後に振り返り、迫る壁の一側面に両手をかざしたとき、後ろからヨナが虫の息のような声で言ってくる。


「……お待ちください……転移の指輪なら……お二人の……」
「……!」


 そうだ。ずっとヨナの転移魔法に頼っていたから忘れていたが、転移の指輪を使えば……っ。


「間に合え……っ!」


 エイラはヨナを治している。俺が使ったほうが早い。握った手を身体の前に上げて指輪に魔力を込めようとするが、今度は俺の足元に黒い揺らめきがほのかに漂った。


「……っ、くそっ!」


 ヨナを襲ったのと同じ、漆黒の魔界の炎、それが燃え上がる予兆。全身が炎に飲み込まれる前に、瞬間的に地面を蹴って、その場を離れる。直後、いまいた場所から漆黒の炎が噴き上がる。


「シャイナ⁉」
「俺なら大丈夫だ! ギリギリ避けた!」


 しかし展開しようとしていた転移の魔法陣は解除されてしまった。どうやらこの炎魔源の魔力は、俺達を逃がすつもりはないらしい。
 そうして周囲から迫ってきた漆黒の壁は、その先端を天上で一つに合わせると、半球形のドームのように周りを完全に包囲してしまう。漆黒の大地に漆黒の壁、視界は完全な闇に閉ざされてしまった。


「エイラ! ヨナ! 無事か⁉」
「わたしなら大丈夫!」
「……私も……エイラさまの回復魔法のおかげでなんとか……」
「待ってろ! いま光を出すから!」


 いつまたあの黒い炎が襲ってくるか分からない。すぐさまライトボールを出そうとしたとき、闇に染まっていた視界の先に紅い揺らめきが出現した。


「あれ……? シャイナ……?」


 俺が使う光とは違う明かりに、疑問を感じたのだろうエイラが声を漏らす。


「気を付けろ、あれは俺のじゃない」
「え……?」


 声のする方向から判断したエイラが俺のほうを見る。そして紅い揺らめきを警戒の眼差しで見る俺を発見して、同じように紅い揺らめきのほうへと困惑した顔で視線を移動させる。


「シャイナのじゃないなら、あれって……」
「……紅い炎、だ……」


 漆黒の炎ではなく、真紅の炎。それが炎である以上、炎魔源の魔力の産物であることに違いはない。
 疑問は、なぜ漆黒ではなく真紅なのか? ということだが……。


『私は炎魔様の召し使い。そなた達は何者ぞ』


 そのとき、紅い炎のほうから声が聞こえてきた。ノイズが混じったような、異質な声。
 同時に、紅い炎のそばの地面から黒い塊がせり上がってくる。地面に横たわるようだったそれは次第に人のような形を取り、ユラリと立ち上がる。


『私は炎魔様の被造物。炎魔源を守り、次代の選定の一部を担う者なり』


 目も鼻も口も耳もない、のっぺらとした黒一色の顔がこちらを向く。ユラユラと、炎が揺らめくように、そいつの輪郭はかすかに揺れている。


『再度問う。そなた達は何者ぞ。炎魔源を手に入れんとする者達か』
「「「…………」」」


 俺達は一瞬視線を交差させる。三人を代表して、俺は目の前にいる炎魔の召し使いとやらに言った。


「そうだ。俺達は炎魔から離れた炎魔源を追っている。ただし、次代の炎魔になろうとする奴は他のところにいるがな」


 まさか、炎魔の召し使いとやらがこういう奴で、こんなところで出会うとは思ってなかった。次代の炎魔の選定を担うとか言っているが……さっき襲ってきたことを考えると、友好的でもなく素直に炎魔源まで案内してくれるとも思えないが。
 ユラユラとしていた奴は俺の言葉を聞くと、ピタリと、中途半端に斜めの姿勢で動きを止める。


『次代の炎魔様の座を狙うのであれば、私に勝利し、滅ぼすのだ。それが私が課す試練である』
「ちょっと待て、俺達はあくまで炎魔源を追っているだけで、炎魔になるつもりはない。さっきも言ったが、それは別の奴で……」


 しかし炎魔の召し使いはギギギと軋むような音を出しながら、斜めだった姿勢をまっすぐにしていく。


『逃走は許されない。敗北は死と等価。最強の火力を誇る炎魔源を手にする者に求められるのは、ただ『強さ』である』


 奴が漆黒の手をかざしてくる。


『まずは貴様からだ。栄光か死か、どちらかを選べ』


 その手の先に黒い火球が出現する。最初は直径数センチくらいだったのが、数十センチ、数メートルほどの火球へと肥大していく。


「くそっ! 話を聞けよ!」


 俺も即座に両手をかざす。漆黒の火球が撃ち出されるのと同時に、俺も光の魔法陣を展開すると。


「ミストルテイン!」


 呪文を詠唱している余裕はさすがになかった。また魔界の漆黒の炎に対して、中途半端な魔法では対抗できないだろう。
 いまの俺が使える最強クラスの光魔法……神殺しの光は漆黒の炎とぶつかると、数瞬だけ拮抗した様子を見せたあと、炎を飲み込んで奴がいる場所へと迫っていった。
 神殺しの光が通り過ぎ、はるか向こう側の壁にぶつかる衝撃音。外の光らしきものが向こう側に一瞬垣間見えたが、すぐさま壁が再生してそれを塞いでいく。
 ミストルテインが通り過ぎた場所に、さっきまでいた炎魔の召し使いも紅い炎もなくなっていた。再びの真の闇。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜

心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】 (大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話) 雷に打たれた俺は異世界に転移した。 目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。 ──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ? ──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。 細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。 俺は今日も伝説の武器、石を投げる!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...