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第二部 炎魔の座

第六十一話 ……あれが炎魔の城……いえ、正確には城だったものです……

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 不満を募らせるトリンにフリートは顔を向けると。


「我輩が決めた。言うことを聞け。代わりとして、あの槍使いを好きにして構わん」
「えー? 正直、あれはもう、ちょっと飽きてきてたんだけどー?」
「文句を言うな。ならば、この争奪戦が終わったあとに、そこのシャイナと思う存分戦ってろ」
「え、ほんとっ! やったーっ!」


 おい。


「おいっ、勝手に決めんなよ!」
「ふん。貴様の言うことなど聞くつもりはない。これは決定事項だ」
「つーか俺と戦うのはおまえじゃなかったのかよ!」
「その前にトリンに負けるようなら、我輩が戦うまでもないだろう」
「なんつー自分勝手な奴だ」
「貴様に言われたくはない」


 不遜な態度で奴が言う。
 とはいえ、この条件なら良いのか、トリンはうれしそうに留守番することを承諾していた。……また一つ、面倒なことが増えちまったわけだが……仕方ないとしておこう……はあ……。
 意見がまとまったのを見てとって、ヨナが口を開く。


「……では、魔源追跡に向かうのは私とシャイナさま、エイラさまの三人ということですね……」


 俺はうなずいて。


「ああ。だが向かう前に聞きたいんだが、そもそも炎魔の実体が死んだ場所っては、どこなんだ?」
「……それは……」


 ヨナが答える前に、サラが答えてくる。


「炎魔の城です」
「城?」
「はい。奴は自分の住処に相応しい場所として、魔界の中心部近くに城を作らせ、そこに居座っていました。また雑用を命じるための召し使いも複数働かせていたようです」
「まるで王様だな」
「奴にとっては、まさに自分はそうだと思っていたのでしょう」


 フリートが忌々しげにつぶやく。


「ふん。我輩に言わせれば傲慢も甚だしいがな。召し使いとやらも半ば奴隷に近い」
「なんだ、見たことあるのか?」


 俺が聞くと、しかしフリートは吐き捨てるように。


「貴様には関係ない」
「……」


 やれやれ。
 そしてヨナが俺とエイラのそばまで近付いてきて。


「……それではさっそく向かいましょう……」


 転移のための影を展開する前に、彼女は一度トリンに向いて。


「……トリン、あの槍使いを出しておきますので、尋問の続きをお願いします……」
「えー、なんかめんどくさいなー」
「……あとでお菓子をあげましょう……」
「あいあいさーっ」


 トリンが額に手を当てて敬礼する。単純というか、やっぱり子供というか。
 いや、ヨナがトリンの扱いを分かっているからなのかもしれない、というのもあるだろうが。
 ヨナが別の場所に置いていたライースをこの部屋に転移させてから、改めて俺達に向く。


「……では参りましょうか……」


 彼女が影を展開させ始めたとき、俺はふと思い付いて言った。


「できれば炎魔の城からある程度離れた場所に転移できないか」
「……可能ですが……」


 なぜ? と問いたそうな声だったので、理由を説明する。


「もしかしたらグレン達が待ち構えているかもと思ってな。奴らだってヨナが炎魔源を追跡できるって分かってるわけだし」


 俺達がヨナとともに炎魔の城付近に姿を見せることは、奴らは容易に予想できるだろう。転移した瞬間に見つかって、不意討ちぎみに即戦闘開始するのは避けたかった。


「……なるほど……」


 ヨナもそのことに思い至ったようで、うなずくと。


「……では、まずは炎魔の城から離れた場所に向かいましょう……グレン達に警戒しながら……」
「頼む」


 そして展開した影に包み込まれて、俺とエイラとヨナの三人は転移していった。
 空は暗く、魔界の瘴気はこれまでよりも一段と濃い。辺りは荒野が広がっており、その視界のなかに場違いとも思える巨大な建物がある。
 俺達はその建物から離れたところにある大きな岩石の陰に身を潜めていた。周囲に魔物などの気配はなく、グレン達からの襲撃も受けずに済んでいる。
 俺達は岩の陰から視線だけを覗かせながら。


「……あれが炎魔の城……いえ、正確には城だったものです……」


 その建物の上部があったと思われる部分は、いまは無残に破壊されて、いびつな痕跡を見せているだけだった。下部にある数多くの窓に明かりは一つもなく、誰かがいるような気配は感じられない。


「まさか炎魔が死んだことで破壊されたのか? 炎魔源が暴走して」


 もしそうだとすれば、炎魔を殺した俺が間接的にその原因ともいえちまうが……。
 しかしヨナは否定する。


「……いいえ、あの破壊の跡に炎魔源の魔力は感じられません……あれを破壊したのは、おそらくグレン達でしょう、あの槍使いや老人、斧使いの魔力がかすかに感じられますから……」


 グレン達が……。


「……なるほどな。炎魔が死んだことをいち早く知ったグレン達が、炎魔源を手にするために乗り込んだってことか」
「……おそらくは……」


 話を聞いていたエイラが、杖をギュッと握りながら言う。


「でも見つからなかったってことですよね。ヨナさん達を狙ってきたってことは」
「……ええ、そういうことでしょう……」


 俺も気になることがあって尋ねる。


「炎魔に仕えていたっていう召し使い達はどうなったんだ?」
「……そこまでは……おそらく炎魔の死とともに城から離れたか、あるいはグレン達に殺されたかでしょう……」
「…………」



 炎魔の死はそいつらの運命をも変えちまったということになる。つまりは俺が変えたということに……。



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