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第二部 炎魔の座
第六十話 向かうのは貴様とそのヒーラーの女だ
しおりを挟むフリートが鋭い目でにらみ、俺もにらみ返す。
いまはグレン一味への対策が急務なため、こんなところでまた決闘するなどという愚を冒すつもりはないが……もし本当にフリートが炎魔の力を手にしたときは、再び雌雄を決することになるかもしれない。
「やれやれ、私のいる前で宣言するとはな」
にらみ合いに割り込むように、サラがフリートに言う。フリートの宣言は俺にだけではなく、彼女をも刺激する言葉なのだから仕方がない。
「まさかグレンだけではなく、私まで簡単に倒せると思っているのか、フリート。だとしたら心外だな」
「ふん。はぐれのダークエルフに遅れを取る我輩ではない」
「まさか忘れているわけじゃないだろうな。おまえは三人の炎魔宿命だった者のなかで、最も新参なことを。炎魔が気まぐれを起こさなければ、この争奪戦に参戦することすらできなかったんだぞ」
「貴様こそ忘れているらしいな。魔存在が与える位階と実力は必ずしも比例しない。そこの光魔導士がいい例だ」
「…………」
「また位階によって魔源の争奪資格を問われるわけでもない」
「……口だけは達者だな」
「反論出来ないのが貴様の答えだ」
「…………」
今度はフリートとサラが火花を散らしてにらみ合う。
……いまさらだが、こっちのメンバー、いつ共闘状態が崩壊してもおかしくねえな。特にフリートとサラの関係性が最悪だ。いや俺も人のことは言えねえが。
「…………、こんな奴と反目している場合ではないな。シャイナさん」
サラがフリートから俺に向いて言う。
「ヨナのことも含めて、この争奪戦において大事なことはだいたい分かっていただけたかと思います。なのでさっそくですが、各地をさまよっている炎魔源を探しにいくべきかと」
「あ、ああ、そうだな」
どうやら即席のこの共闘メンバーのなかで、パワーバランスを保つ重要な役割を担っているのは俺なのかもしれない。
このパーティーはフリート組の三人と、サラ、そして俺とエイラの三勢力が一時的に共闘している状態だ。そのなかでフリートとサラは筆頭格であり、おそらくこの二人だけではグレン一味を倒す前に共闘状態が空中分解してしまうだろう。
そんな、いつ散り散りになってもおかしくない状態をなんとか保っているのが、どうやら俺という存在らしい。もしもフリートとサラの二人が内部抗争を引き起こしたときに、それを止められる力を持っているとして。
ヨナやトリンやエイラでは止めきれない可能性が高く、そもそもそれ以前に、ヨナとトリンはフリートの部下だ。フリートとサラが争えば、当然フリートの援護をする。
だから、フリートにライバル視されていて、なぜだかサラにも一目置かれているらしい俺がしっかりしないといけないらしい。
…………プレッシャー半端ねーな……。
とにかく。気を引きしめて、俺はみんなに言う。
「それじゃあまずは、その炎魔源とやらが炎魔から離れた場所、つまり炎魔の実体が死んだ場所に向かおう。ただし行くのは三人までだが」
サラがうなずく。
「ええ。エフィルの魔法がある以上、四人以上で向かうのは危険ですからね」
あの老人のデスフォーとかいう魔法は、四つの対象を取る必要があるとはいえ、決まれば大ダメージは避けられない。それこそ致命傷レベルの。それは俺が身をもって分かっている。
「問題は誰が行くか、だが。ヨナは確定として……」
ヨナ以外のメンバーは五人。俺、エイラ、サラ、フリート、トリン。このなかから残り二人を選ぶわけだが。
「はいはーいっ! 今度こそあたしが行くんだからーっ!」
トリンが元気よく手を上げる。数時間前のメンバー選定では漏れてしまったため、今回こそは行きたいと思っているんだろう。
彼女以外の、フリートとサラは互いに相手の様子を探っているようだった。魔源争奪のライバル同士なので、相手の出方を見てから対処を講じるつもりなのかもしれない。
エイラはというと、俺のほうを不安そうに見て、しかしなにかを言おうとはしなかった。自分の実力を考えて、余計なことを言って困らせたくはない……そう思っているのかもしれない。
……さて、このなかから誰が魔源追跡に向かうべきか。誰が行くのが、追跡するのに適しているか。
それを考え始めたとき、フリートが鋭い目を向けて言ってきた。
「ふん。どうして貴様が選ぶ。我輩は貴様の指図など受けん。選ぶのは我輩だ」
そして俺とエイラへと。
「向かうのは貴様とそのヒーラーの女だ。我輩がいない間に、この拠点を自由に歩かれるのは不愉快だからな」
皮肉を込めた口振りでサラが口を開く。
「私はいいのか?」
「貴様は我輩が見張る。何をするか分からん奴を好きにさせるわけなかろう」
「好都合だな。私もおまえを監視する必要があったから」
「ふん。ほざくがいい」
またも静かに火花を散らす二人。
その決定に俺自体は文句はないし、エイラも素直に受け入れていた。ただ一人、トリンだけは。
「えーっ⁉ またお留守番ーっ⁉」
と文句の声を上げていた。
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