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第二部 炎魔の座

第五十八話 彼女のその力こそが、この争奪戦の重要なカギだからです

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 いまのこの状況を補足説明するように、サラも口を開く。


「おそらく、あなたとあなたの仲間のヒーラーに配慮したのでしょう。残酷すぎる方法は、反感を買うだろうと判断して」
「…………」


 今後の協力態勢に亀裂や疑念が入ってしまうかもしれない。だから、はたから見ればコメディになってしまうとしても、ヨナはこの方法を提案した、と。


「自白剤とか、そういう魔法はなかったのか?」


 それらがあれば、拷問も尋問(?)もする必要はないと思うが。


「そんなものがあれば、こんなことはしていない」


 フリートが吐き捨てるように答える。
 そりゃそうか、と一瞬思ったが、ふと思い付いて、今度はトリンに聞いてみる。


「トリンの糸で操って聞き出すことはできないのか?」
「あたしができるのは身体を操るだけで、記憶を覗いたり意志を操ることまではできないからねー。それができた奴はもう死んだしー」
「…………」
「そもそも、あたしの糸は意識のあるやつを完全に操ることはできないしー」
「…………」


 皮肉ではあるが、あの覗魔導士のゾキがいれば、情報を簡単に引き出せただろうということ、か。
 と、そんな会話をしていると、尋問(?)の真っただなかのライースが。


「クソッ、おまえら、あとで覚えてやがれよッ!」


 床に転がりながらのその言葉に、サラが冷静に応じる。


「されるのが嫌なら、しゃべればいい。そうすれば、解放はしないまでもこの争奪戦が終わるまでは、どこかに幽閉しておく」
「ハッ! しゃべるかよ! そんなことすりゃ、グレンに殺されちまう!」


 グレンに殺される……エフィルとかいう老人も言っていたが、本当にこいつらはお互いを仲間とは思っていないらしい。


「つーか、クソッ、まさかおまえらが手を組んでるとはな⁉ どーせ最後には争うことになるのによ!」


 サラに関しては炎魔を継承したい意志はあるようだが……どうやらライースはフリートも炎魔を狙っていると思っているらしい。実際のところは、いまだに決断を保留している感じなのだが。
 と、そんなことを思っていると、フリートが奴に言う。


「ふん。我輩は戦いを挑まれたから応じたに過ぎぬ」
「おやおやあ、そんじゃあ炎魔の座には興味がないと?」
「…………」
「ほれ見ろ! やっぱりおまえも狙ってるんじゃねえか!」
「…………」


 フリートがトリンに言った。


「やれ」
「あいあいさー」


 トリンが手を頭に当てて敬礼のポーズを取ったあと。


「みんなー、それじゃあ今度はくすぐりの刑をしちゃおっかー」
「おい待てやめろ!」
「さー地獄を見せてあげちゃおー!」
「おいックソッやめッギャハハハハッ!」


 拘束されているせいで首から上しか影の外に露出していないのだが、四体の小さな魔物達は器用にその頭部や首の至るところをくすぐり、奴が爆笑の大絶叫を上げた。その様子を見て、トリンもきゃっきゃっと楽しそうに笑っている。
 ……うわあ……くすぐり地獄とか、絶対に味わいたくねえなあ……。
 目の前で繰り広げられている光景にそんなことを思っていると、サラが言ってくる。


「ヨナとあなたの仲間は?」
「二人なら俺がいた部屋だ。エイラが寝ちまってたから、起きるまでヨナが見てる」
「そうですか……」


 するとフリートがサラに鋭い声音で。


「そんなことはどうでもいい。何故我輩達を助けた。貴様にとっては敵のはずだ」
「フリートを助けたわけじゃない。三人の死体が奴らの手に渡るのを阻止しただけだ」
「なに?」


 殺されるのを助けたというのならまだしも、死体が手に渡らないようにした……? 意味がよく分からず、俺は聞く。


「どういうことだ?」
「理由は、エフィルという、あの屍魔導士が使う魔法にあります。奴は死体に触れることで、その死体が生きていたときの能力を使うことができます」
「……! ってことは……⁉」
「はい。お察しの通り、もし三人の死体が奴らの手に渡れば、この争奪戦に勝利したも同然だからです。少なくとも、私はもう奴らには勝てなくなる」


 フリートが口を挟む。皮肉を込めるように。


「ふん、自分が炎魔の座を勝ち取るためか」
「利害が一致したと言え。フリート達もまだ死にたくはなかっただろう」
「余計な世話だ」
「話に聞いた通りプライドの高い奴だ」


 ……なんか、二人の間に静かな火花が散ってるな……。フリートにだけ口調が厳しいし。まあ、炎魔の力を狙うライバル同士だから仕方がないのかもしれないが。
 馬が合わないフリートのことを無視するように、サラが言ってくる。


「特に、ヨナの固有能力である魔力探知を奪われるわけにはいきませんでした」
「なんでだ?」
「彼女のその力こそが、この争奪戦の重要なカギだからです」
「ヨナの魔力探知が……? それは炎魔の力を狙うライバルを殺すために、その居場所を特定するためか? サラとかの」
「それももちろんあります。しかしそれ以上に……」


 サラが説明しようとしたとき、ドアがノックされて、いま話していたヨナとエイラが顔を見せる。
 二人に顔を向けたサラが。


「うわさをすれば。こちらの主戦力がそろってちょうどいいので、全員に話しましょう」



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