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第二部 炎魔の座
第五十七話 きゃっきゃっ、みんなー、やっちゃえやっちゃえー、きゃっきゃっ
しおりを挟むいまいる場所はどこかの薄暗い部屋のなかで、ベッドのそばのサイドテーブルに、小さなランプ型の魔法具がほのかに灯っているだけだった。
……ここは……フリート達の屋敷、か……?
薄暗いなかにぼんやりと見える内装は、あの屋敷のものと似ている。が、先日泊まったときとは微妙に違う気もする。誤差の範囲かもしれないが。
そんなことを考えながら上体を起こすと。
「う……ん……」
すぐそばから声が聞こえた。見ると、ベッドのそばに座ったエイラが、ベッドわきに両腕を枕にして頭を乗せていた。寝ているらしく、目を閉じて穏やかな寝息を立てている。その肩には、身体を冷やさないように毛布が掛けられていた。
「エイラ……」
そこで気付く。切断されていた左腕が治っていることに。あれからどのくらいの時間が経っているか分からないが、おそらくエイラが付きっきりで治したのだろう。
「……目が覚めたようですね……」
不意に声が掛けられる。部屋が薄暗くていま気付いたが、エイラの隣にヨナも座っていた。ということは、ヨナも治療に協力したのか。
「……さすがエイラさま、というところでしょうか……左腕の癒合自体はすぐに終わらせて、その後は細菌などによる感染症を防いでいました……失われた分の血液も新たに作りながら……」
ヨナでは切断された部位をくっつけるだけでも、かなりの時間が掛かるらしい。だから、それをすぐにしてしまうエイラのことをほめているのだろう。
「……私も精進しなければなりませんね……」
もし自分がもっと高位の回復魔法を使えていれば、すぐに治せたのに……そう思っているのだろう。
「いや、ありがとう。この腕が治ったのは二人のおかげだ」
「……お礼であればエイラさまに言ってください……」
「エイラにも起きたあとで言うつもりだ。でもヨナのおかげでもあるだろ」
「…………」
そして穏やかな寝顔のエイラのことを見つめたあと、ヨナに尋ねる。
「あれからどれくらい経ったんだ?」
「……二時間ほどです……サラさまの提案で、いままでの屋敷とは違う場所に移動しましたが……」
「だから、部屋の内装が違ってる気がしたのか」
そのとき、部屋の外から、
「うぎゃあーッ!」
という叫び声が聞こえてきた。ライースの声のようだった。
いきなりのそれに、びっくりしてヨナに聞く。
「なんだ、いまのは……⁉」
「……フリート様達が槍使いを尋問しているところです……グレン達の情報を聞き出すために……」
「拷問の間違いじゃないのか?」
「……尋問です……気になるのなら、見に行かれますか? ……エイラさまなら私が見ておきますので……」
「…………」
一度エイラに視線を移してから、ヨナにうなずく。
「……そうだな」
治ったばかりでまだ本調子じゃないのか、身体は微妙にフラフラした。だが動けないほどではない。
シャツの上に上着を羽織っていると、ヨナが足元に小さな影を作り出す。
「……フリート様達がいる部屋には、この影に案内させます……ついていってください……」
「分かった。エイラが起きたら、フリート達のとこだって言っといてくれ」
「……了解しました……」
ドアから廊下へと出て、足元を先導する影についていく。以前の屋敷から移動したとのことだったが、どうやらライースとの戦いのあとに一度転移していた隠れ家と同じ場所のような感じがした。
壁に設置された燭台が照らす廊下を少し進んで、とある部屋の前で影が止まる。こうしている間も、ライースの、
「うぎゃあーッ!」
という声は断続的に続いていた。殺してはいないようだが、はたしてなかではどんな拷問がされているのか……フリートのことだから、身体を切り刻んだり火で炙ったり、そんな想像もしたくないような拷問が繰り広げられているに……。
ごくり……喉を鳴らして、そして。
「…………」
ドアを開けて最初に目に入ってきた光景は、影によって拘束されたライースが床に転がされ、小さな猫や鳥やヘビやミミズにまとわりつかれている姿だった。
「うぎゃあーッ! もうやめてくれーッ!」
猫に顔を引っ掻き回され、鳥に頭をつつかれ続け、ヘビに首に巻き付かれて耳や鼻などを噛みつかれ、ミミズが顔を這い回りながら至るところを噛んでいる。
「きゃっきゃっ、みんなー、やっちゃえやっちゃえー、きゃっきゃっ」
そのそばではトリンが楽しそうに笑っていて、また部屋にはフリートが仏頂面で腕を組んでその様子を見ていた。そして二人から少し離れた壁際に、真面目な顔付きのサラもいる。
「あ、シャイナー、やっと起きたんだねー」
トリンが気付いて声を掛けてくる。フリートとサラも目を向けてきて。
「……ふん。起きたか」
「…………」
各々の反応をしてくる。それはともかく。
「……なにやってんだ……?」
想像と違って拍子抜けしたというか、若干呆れぎみに聞くと、トリンは楽しそうに。
「なにって、ジンモンだよー、ジンモンー。一味の情報を吐かせてるのー」
「はあ……」
フリートも言ってくる。
「ヨナが、普通の拷問では吐かないだろうと言ったのだ。我輩にしてみれば、生温すぎるがな」
こんなことで吐くわけがない……不機嫌そうな顔はそうも言っているようだった。
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