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第二部 炎魔の座
第五十二話 いったい誰にするのか?
しおりを挟む言葉を聞いて、エイラは。
「…………っ! なら、せめてみんなで……っ」
二人だけよりも、みんなで戦ったほうが断然有利に決まっている……それも確かかもしれないが……。
ヨナが口を挟んでくる。
「……いえ……ここはあの者が言ったように、二人だけで向かいましょう……なにか、取り返しのつかないような嫌な予感がしますので……」
「でも、ヨナさん……」
エイラがなにか言おうとするのを制するように、ヨナが俺に目を向けてくる。
「……最終的な判断はシャイナさまに任せます……サラというあの者がシャイナさまに直接連絡してきたということは、彼女が最も来てほしいのがシャイナさまということになるでしょうから……」
それは、そうかもしれない。
ヨナの言葉にエイラとトリンも顔を向けてくる。どうするのか? そう問いたげに。
「…………」
迷っている時間はない。
「……サラにはウソを言っている感じはなかった。おそらく、本当に三人以上だとなにかヤバいことになるんだろう」
具体的にそれがなにかは分からないが。
「だから、フリートのところに向かうのは二人だけだ。問題は、それを誰にするか、だが……」
人員の選定。三人がそれぞれ互いの顔に視線を巡らせていく。ヨナが口を開いた。
「……シャイナさまは確定として……二人目は……」
「はいはーいっ! あたしが行くーっ!」
トリンが勢いよく手を上げる。口調から、フリートのことを心配しているというよりも、自分が戦いたいからという理由のほうが強そうだ。それはつまり、フリートが殺されるわけがないと信じているからでもあるだろう。
杖を胸の前でギュッと握りしめながら、エイラも身を乗り出すように言ってくる。
「わ、わたしも……っ! シャイナと、あとフリートが大怪我をしていたら治せるし、補助魔法でサポートもできるし……っ!」
最後に残ったヨナはというと。
「…………」
無言、無表情でただ見つめてくるだけだった。自分がなにを言おうと、最終的に決定するのは俺だから……そう考えているのだろう。
縛魔導士のトリン。
ヒーラーのエイラ。
そして影魔導士のヨナ。
それぞれに独自の個性があり、実力も高い。だが……誰を参戦させるかによって、今後の展開になにかしらの影響は出てくるだろう。それが良いものか悪いものかは分からないが……。
「…………」
三人が見つめてくる。いったい誰にするのか? そう急かしているように。実際に、時間もない。
一度目をつむり……そして開けて、ヨナを見た。
「ヨナ、頼む」
「…………、……承知しました……」
出した答えに。
「えーっ⁉ ヨナーっ⁉ なんであたしじゃないのーっ⁉」
トリンが文句の声を上げて、エイラもまた、
「…………っ……⁉」
杖を握りしめたままショックを受けているようだった。
トリンがなおも言ってくる。
「なんでよーっ⁉ 理由はーっ⁉」
「…………、」
言葉を言おうとしたとき、それを制するようにヨナが口を開いた。トリンにだけではなく、エイラも諭すように。
「……シャイナさまを困らせないでください……」
「でもーっ!」
声を上げるトリンからこちらに視線を移して、ヨナが言う。
「……行きましょう、シャイナさま……」
「……ああ」
足元に転移の魔法陣を展開しながら、ヨナは残される二人へと。
「……ライースの見張りをお願いします……もし聞き出せるのであれば、フリート様と交戦している者の情報も知りたいところですが……ライースは強者なので、あまり無茶はしないようにしてください……」
もしライースが拘束を破ってしまうことがあれば、トリンとエイラだけでは再び拘束するのは難しいかもしれない。だから、情報を聞き出すために無理に起こすよりは、気絶させたままにしておいたほうが良い可能性もあるが……。
正直、これに関しては結果論になりそうというか、たられば、な感じになるだろう。
不満げなトリンと、ショックを押し隠そうとしながらも不安そうなエイラ……その二人を残して、視界は黒い影に包まれていった。
そして魔界の迷いの森という場所にたどり着く。数日前に師匠と再会した森と雰囲気が似ていて、しかしあの森よりは不気味さがいっそう増している場所だった。
魔界特有の空の暗さに加えて、背の高い木々のせいで夜のように暗くなっている。瘴気が表層よりも濃いのか、息苦しさや身体の怠さはさっきよりも強くなっていた。地面もぬかるんでいる感じがあり、足にまとわりついてきそうな錯覚もある。
「……ここは魔界の中層にあたる場所です……瘴気の影響が強くなっていますが、しばし耐えてください……」
「……ああ……それより、フリートの居場所は分かるか? 魔力を探知して」
ヨナは周囲に首を巡らせながら。
「……見つけました……向かいましょう……ついてきてください……」
魔力をまとい、高速度でその方向へと駆け出していく。
急いで魔力をまとってそのあとを追いながら。
「転移魔法では向かえないのか?」
「……ここにはあまり来たことがないので……」
転移のための座標が分からないということらしい。
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