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第二部 炎魔の座
第五十一話 絶対に三人以上では向かわないように
しおりを挟む部屋の明かりが眩しいのか、それとも気絶という名の眠りから覚めてショボショボしているのか、ライースははじめは目を細めていた。その視界のなかに四人の姿が映り込んだのだろう、それらが何者か認識するわずかな間があってから、奴がカッと目を見開く。
「おめえらっ⁉ ここは……っ⁉」
「起きやがったか」
このタイミングで起きるのかよ。フリートの安否を確かめに行くってのに。
奴は自身が拘束されていることに気が付くと。
「クソッ! 捕まっちまったのかっ!」
なんとかして拘束から逃れようとジタバタとする奴を視界に入れつつ、ヨナに言う。
「ヨナ、もう少しだけこいつを気絶させられないか? フリートのところに行くのに、うるさくされたら面倒だからな。詳しい話を聞き出すのは、フリートと合流してからってことで」
「……了解しました……」
ヨナが無感情の目を向けてくるのを見てとって、奴は慌てたように。
「ちょっと待……!」
最後まで言い終わらないうちに、ライースを拘束している影の内側がうねるように動き、鈍い衝撃音。直後、
「グ……ッ⁉」
奴がグルンと目を回して、再び床へと頭を落とした。
「結構慣れてるんだな」
「……人体のことは知っていますので……」
回復魔法を扱う関係上、人体、のみならず生き物の身体の構造はちゃんと理解しておく必要があるのだろう。もしヨナが非情になることがあったら、相手を生かさず殺さず、意識を保ったまま痛みと苦しみを与え続けることも可能かもしれない。
……やれやれ……いまは味方で良かった……。
「わーっ、らくがっき、らくがっきーっ」
テーブルに置いていたペンでトリンがライースの額に牛肉という落書きをしているなか、ヨナが言う。
「……それでは、フリート様の元に向かいましょう……」
「ああ、頼む」
ライースも含めて全員の身体を影が包み込んでいく。数秒後。目の前には昨日フリートが瞑想していた部屋のドアがあった。屋敷のなか自体は今朝と特に変わりはなく、いたって平穏そのものだった。
早速その部屋のドアをノックしながら。
「おい、フリート、いるのか? 俺だ、シャイナだ!」
声を掛けるが、返答はない。フリートのことだから、返答がないからといって不在とは限らない。瞑想の邪魔をされたから無視しているという可能性も普通にある。
ヨナに振り返る。言いたいことを察したヨナが、すぐさま返事をした。
「……いま、この部屋、および屋敷内の魔力を探ってみました…………フリート様は、どうやら、この屋敷のなかにはいらっしゃらないようです……」
「いない……⁉」
思わず声が大きくなる。エイラもまた驚きの顔をしている。いまこのなかで深刻な雰囲気を発していないのはトリンだけだった。
いつものような口調で、なんでもないことのようにトリンが言う。
「外に出てるんじゃない? ときどき外に出て、近場の魔物と戦って、いまの自分の力を試しているときあるし。それか、フリート様が従えてる魔物達のところに行って、組み手してるとか」
あいつ、そんなこともしてたのか。
そんな感想はともかく、ヨナのほうを見る。彼女は考える素振りを見せながら。
「……ありえます……とりあえず、先に私達の魔物がいるところに向かってみましょう……」
足元に再び転移の魔法陣が浮かび上がる。またも伸びてきた影が視界を覆おうとしたとき、不意にそばの空中に一つのウィンドウが出現した。
通信魔法のウィンドウだ。画面に映し出されたのは、昨夜洞穴の入口付近で出会った、ダークエルフのサラだった。
サラが言う。緊張感を伴った声音で。
『魔界にある迷いの森で、フリートが交戦しています。善戦していますが、このままでは殺されるでしょう』
「サラ⁉ いつの間に通信魔法の連絡先を……⁉ それにフリートが殺されるって……⁉」
いったい誰と戦ってるんだ⁉ まさか、そいつもグレンの仲間なのか⁉
聞きたいことは山ほどあったが、それを口にする前に、サラは一方的に。
『向かうのであれば、二人だけにしてください。絶対に三人以上では向かわないように』
「二人だけ……⁉ いったいどういうことだ⁉」
『三人以上で向かった場合、フリートを含めて、必ずあなた達の誰かに『不幸』がもたらされることになります。私から言えるのは以上です』
プツッ。それだけ言うと、通信魔法は途切れた。急いで再通信を試みるが、つながらない。
ヨナへと言う。
「ヨナ! 迷いの森ってのはどこにあるんだ⁉」
「……ここから離れた場所です……すぐに向かうには転移魔法を使うしかないでしょう……」
「ならすぐに転移してく……」
そこで言葉にかぶせるように、エイラが言ってくる。
「待って、シャイナ! いまのサラさん? が言ったことが本当か分からないのに……っ。もしかしたらなにかの罠かも……っ」
二人だけで来るように指示したことも含めて、のこのこ向かっていったら複数人から総攻撃されるかもと危惧しているらしい。その心配は確かにある……。
だが……。
「それでも向かうしかない! 万が一、本当だった場合、フリートを殺させるわけにはいかねえ!」
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