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第二部 炎魔の座
第五十話 ライースはグレンの仲間の一人ってことなのか?
しおりを挟むヨナは続けて言う。
「……この者に殺されそうになっていたとはいえ、事前の連絡や承諾なしにお二人を急に呼び出したことについては、お詫びいたします……申し訳ありませんでした……」
「いや、まあ、いきなりでびっくりしたが、仕方ないことだったからな。とにかくヨナを助けられて良かった」
「…………」
分からないことがあるとすれば。
「だが、どうして俺達を呼んだんだ? トリンや仲間の魔物じゃなくて」
フリートはまあ、いまの状態では難しいとしても。
「…………」
言うことを憚るような一瞬の間があってから。
「……この者の実力はとても強く、トリンや魔物達では太刀打ち出来ずに返り討ちに遭うかもしれないと、そう判断したためです……」
「…………」
ライースは水魔司宰であり、瞬身斬を使え、シキガミという魔法具まで持っていた。また魔力も相当強く、途中までは魔力をまとった状態だけで戦っていたくらいだった。
実力的には、最初に会ったころのフリートと同格ということになる。確かに、トリンや仲間の魔物達では荷が重いかもしれない。
そこで、エイラがヨナに聞く。
「逃げることは思わなかったんですか? 転移魔法を使って……」
「…………」
今度は一拍の間。
「……この者は、いま何とかしておかなければいけない、そう思いましたので……」
「「…………」」
逃げることよりも、倒すことを優先したということ。ヨナがそう判断したということは……。
「話の流れからして……このライースはグレンの仲間の一人ってことなのか?」
ヨナは肯定した。
「……はい……私がこの者の存在を突き止めて、他の仲間についても探り出そうとしているときに、この者が現れたのです……」
そして殺そうと襲ってきた。
「……どうやら、グレンのほうでもフリート様の勢力が炎魔継承の邪魔になると思っているようです……」
その当のフリートは、いまだに炎魔を継承するつもりなのかどうか、はっきりしていないのにな。
しかし、待てよ……。
「だとすると、トリンやフリートにこのことを伝えておいたほうがいいんじゃないか? ヨナみたいに、一人のところをグレン達に狙われたら……」
エイラが、はっとしたようにヨナを見る。そのヨナも、顔つきは無表情ながらも、かすかに頬に冷や汗を浮かべて、ほのかに焦りのような雰囲気を醸し出していた。
「……そうですね、仰る通りです……急襲されて、その戦いが終わったあとだったので……」
うっかりしていた、ということらしい。
「ヨナでもそういうことあるんだな」
「…………申し訳ありません……」
べつに責めてるつもりはなかったんだが……ヨナにしてみれば、もし自分の伝達が遅れたことで、大変なことになったらという危惧があったのだろう。
ヨナはすぐに通信魔法を使い、空中に二つのウィンドウが浮かび上がる。すぐにその一つにトリンの顔が映し出された。
「あ、ヨナ。どーしたのー? あたしなら最後の魔物を回収し終わったところだよー。いま連絡しようと思ってたんだー」
「……事情はあとで説明します……転移の魔法陣を出しますので、すぐに来てください……」
「うん。わかったー」
ウィンドウの映像の端にヨナの魔法陣が出現して、トリンがそのなかに入る。無事に転移が起動し、トリンの姿が見えなくなってから、ヨナはそのウィンドウを閉じた。もうじきにトリンは来るだろう。
だが、二つ出したうちのもう一つのウィンドウは、いまだに黒いままだった。フリートが瞑想している部屋が暗いからそう見えるとかではなく、奴がヨナの通信に応じていないらしい。
「まさか、もうあの屋敷にグレン達が来た、のか……?」
「…………」
無言。ヨナにも分からないらしい。すでに襲撃されて応じる余裕がないのか、それともただ単にヨナの通信を無視しているだけなのか。
と、そこで部屋のなかに魔法陣が出現し、トリンが姿を見せる。首からストールのようにかけているのは、小型のヘビだった。それが最後の魔物なのだろう。
「あーっ、シャイナとエイラもいるじゃーんっ! 久しぶりーっ」
「今朝別れたばかりだけどな」
「細かいことは気にしなーい。で? なんで呼んだの、ヨナ?」
説明を求めるようにトリンがヨナに向くが、ヨナはいまだ黒いままのウィンドウを見つめて。
「……その前に、フリート様の元へ向かいましょう……万が一の可能性を考慮して……」
「フリート様の?」
「……ええ……」
事情を知らないトリンは不思議そうな顔をする。とりあえずトリンにはもう少し待っていてもらおう。
俺は床に転がるライースに目を向けながら。
「こいつはどうする?」
「…………」
ヨナは少し考える素振りをしてから。
「……連れていきましょう……ここに放置して、救援を呼ばれたら面倒ですので……」
「こういうとき、魔法や魔力を無効化できるものがあれば便利なのにな。これじゃ、わざわざ隠れ家に来た意味もあったかどうか」
「……あいにくと、私達のなかには無効化を使える者が、もういませんので……」
「…………」
もういない、ということは前はいたということ。
……ゾキ。ヨナに粛清され、さらに怪物化したあとにはリダエル達みんなに倒された、覗魔導士。奴は転移魔法が使えなくなる結界を使っていた。もしかしたら、他にもそういう無効化魔法が使えたのだろう。
会話を聞いて、そこでトリンはライースの存在に気付いたようだった。
「…………だれー、こいつー?」
いままでと同じように無邪気な感じで言っているものの、その声にはどこか警戒心を含んだ響きがあった。トリンにしてみれば、拘束されているとはいえ見知らぬ初対面の奴なんだから、仕方ないっちゃ仕方ないだろう。
「……それについても、あとで説明します……」
「……わかったー」
ヨナの言葉にトリンが返事をしたとき。
「……ぐ……」
気絶していたライースが目を覚ました。
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