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第二部 炎魔の座

第四十七話 光の剣よ、空駆ける刃となりて我が敵を討て

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「ほらほら、さっきまでの威勢はどうした!」


 槍での連撃を浴びせてきながら男が言う。それらの攻撃は一撃一撃に強力な魔力が上乗せされていて、もし食らえば先ほどのように肉を抉り、骨を砕いていくだろう。


「ぐ……っ……⁉」


 槍使いとしての男の実力は間違いなく強く、これらの連撃をなんとか避けていくだけでも精一杯だった。槍が届く範囲の、中距離戦闘においては、どうしても分が悪い状況だった。


「くそ……っ!」
「はっはー、逃がすかよ!」


 だからと、なんとか距離を取ろうとするのだが、少しでも離れようとした瞬間に、奴はその距離をまた詰めてきて槍の雨を浴びせてくる。こちらが魔法使いということを理解して、魔法を使うだけの時間と距離を稼がれないようにしているんだ。


「……サポートいたします……」
「わたしも! スピードアップ!」


 全身が軽くなる感覚。また男の周囲に影が生じ、その身体をボックス状の影が閉じ込めていく。
 これは、以前ルナに使ったのと同じタイプの魔法か?


「……いまのうちです……あの者には数秒ももたないでしょう……」


 相性の問題があったとはいえ、俺が突破するのにかなり苦労したこの影の牢屋を、こいつはすぐに破壊するっていうのか……⁉
 だが……。


「サンキュー、二人とも!」


 地面を蹴って、一メートルほど影のボックスから距離を取る。右腕の傷はまだ回復途中だが……。


「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。光の剣よ、空駆ける刃となりて我が敵を討て。『ライトブレード』!』」


 左手をかざし、その手のひらに魔法陣を展開して、一振りの光の刃を影のボックスへと撃ち出した。猛スピードで飛んでいく光刃が奴のいる影を撃ち抜こうとしたとき、その影全体にビシビシと亀裂が走っていって、直後、粉々に破壊されていく。


「だから、俺には効かねえって……うおっ⁉」


 影を破壊することに集中して、外の様子を把握できていなかったのだろう。男は迫りくるライトブレードに驚愕しつつも。


「こなくそっ!」


 槍の柄の部分で受け止めると、両腕に力を込めて、光刃を空高くへと弾き飛ばした。影が破壊されてから、光刃が奴に届くまで一秒もないはずだったが……奴の反応速度は凄まじいらしい。


「ふう、危ねえ危ねえ。やっぱ三対一は分が悪りいなあ」
「……よく言うぜ……」


 右腕がまだ治っていないし、魔力を込める時間も短かったが、それでもいまの一撃には相当な威力があったはずだ。それを瞬間的に反応して、弾き飛ばすとは……。
 それに奴が全身からみなぎらせている魔力の質と量は……まさか……。


「まさか、おまえは魔族か?」
「おっと、バレたか。その通り。そういうおまえは人間だよな」
「…………」
「はっはー、情報は明かさない派か? どんな情報が負けにつながるか分からねえもんなあ」


 奴は槍を武器にし、瞬身斬を使え、そして魔族である……しかし魔力による戦闘はしているものの魔法はいまだに使ってこず、さらには名前すら名乗っていない。
 奴自身、警戒して、感づかれたこと以外はなるべく漏らさないようにしているらしい。
 だが……いままでのことから推測できることもある。瞬身斬を使えるということは、サムソンのように他の剣技も同様に使えるかもしれないということ……それこそ炎魔法以外の、水、土、風の三種の元素魔法を。


「そんじゃ続きと行こうぜ!」


 再度、奴が槍を構えながら迫ってくる。その奴との間に、ヨナの影魔法が展開されようとするが……。


「おっと、お二人さんの相手はこいつらだぜ!」


 奴はポケットからなにかを取り出すと、それをヨナとエイラのほうへと投げ飛ばした。
 魔法具か……⁉
 それは人の形を模したような二枚の紙切れで、二人の一メートルほど手前の空中で淡い光を放つと、それぞれが武術家……拳闘士のような姿へと変化した。


「……これは、まさか、シキガミですか……っ」


 顔つきはいつもとあまり変化がないように見えるが、いつになく、ヨナの声音に驚きの響きがこもっている。なぜこの男がこれを持っているのか……そういう疑問が込もった声だ。
 そして、ヨナが言った、シキガミという言葉。
 ……シキガミ……? 確か、ずっと前、師匠が言っていたことがあるような……?


「任せたぜ、おまえら。俺とこの魔法使いとの戦いを邪魔しねえようにしてくれ。なんならそっちを片付けてくれてりゃ、あとが楽になる」


 男への返事の代わりに、二体の拳闘士がヨナとエイラに向かっていく。あの紙切れ型の魔法具に戦うための魔力が込められていたのだろう、二体の拳闘士は槍使いほどではないものの、その身に魔力をまとっていた。
 とはいえ、ヨナとエイラが魔法具に負けるとは思えない。槍使い自身、これはあくまで戦力の分散や、サポートができないようにするために使ったのだろう。
 ……俺との戦いを邪魔させないようにするために……。
 高速で距離を詰めてきた奴が、再び連撃を浴びせながら言ってくる。


「あのかわいこちゃんが最強には見えねえからな。ヨナが言ってた最高の助っ人があっちで、最強はおまえなんだろ」


 自分で言うのは、なんかあれだが。


「…………、だったら、どうする」
「おまえを倒すだけだな。強え奴とは戦いてえし、勝って倒したいんでね」


 ……どうも、こいつも一応、武術家のはしくれらしい。
 そのとき、右腕の怪我の治療が、完了した。



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