132 / 235
第二部 炎魔の座
第四十四話 俺達は信じたいし、信じられると思ってる
しおりを挟む「ふざけているのか、シャイナ……⁉」
フリートとの協力態勢を築くという話を聞いて、開口一番、サムソンは怒り顔でそう言ってきた。
場所は帝国城内の会議室。話し合いの顔触れはウィズとリダエルと、それとサムソンも。現在は騎士団の名誉顧問だから、一緒に聞いたほうがいいかもしれないとは、リダエルの言。
当初はウィズに頼んで皇帝に直接話をしようと思っていたのだが……。
『陛下は色々と忙しい身だ。いくらこの帝国を救った英雄の頼みでも、簡単に会えるわけではない。大事な話があるというのなら、まずは私が先に聞こう』
とウィズに言われてしまった。まあ要するに、皇帝と謁見して直接話すほどの内容かどうか、先に聞いて判断するということだ。
普通なら門番とか、騎士団や魔導士団の検問係みたいなのが調べるみたいだから、団長二人と名誉顧問が直接聞いてくれるだけでも、かなりありがたいことではある……のだが……。
「ふざけてるわけじゃない。大真面目だ。俺はフリート達とちゃんと話し合えば、互いに理解し合えるし協力し合えると思ってる」
「それがふざけているといっているんだ……っ! 奴は皇帝陛下を殺して、この帝国を転覆しようと企んでいたんだぞ! 協力し合えるはずがない!」
「そんなことはないはずだ。げんに、俺はフリート達にもこのことを話してきたが、奴らは話を聞いてくれた」
「そんなのはただの聞いた振りだろう! 腹のなかでは、再び皇帝陛下を殺すチャンスだとほくそ笑んでいたらどうする⁉」
「フリート達はそんなことはしない、はずだ。少なくとも、俺にはそうは見えなかった」
「それは君の主観に過ぎない! 現実はそんなに甘くない!」
「現実が甘くないことは俺だって充分すぎるくらい分かってるさ。でも、それでも俺はフリート達を信じたいんだ」
「話にならないな!」
興奮をぶつけるように、サムソンがテーブルをバンッ! と手のひらで思いきりたたく。そのあまりの強さに、テーブルに置かれていたペンやメモ帳や卓上カレンダーなどといった小物が少し宙に浮いた。
決めつけて否定するサムソンに、エイラもさすがに我慢できなくなったのか、少し怒った声音で食ってかかった。
「相変わらず頑固の分からず屋! なんでいつもそうやって一人で決めつけるの!」
「エイラには関係ない! 黙っててくれ!」
「関係ないわけないでしょ! わたしだってシャイナと一緒にいて、話を聞いてるフリートやヨナさんやトリンちゃんのことを見て、みんななら大丈夫だって、信じられるって思ったんだから!」
「それだって君の主観だし、奴らが君を信じさせるために演じていただけだとしたらどうする⁉ 革命家のフリートに、ポーカーフェイスのヨナ、他人を糸で操れるトリンだぞ、それくらい朝飯前で出来るだろう!」
「少なくともヨナさんとトリンちゃんはそんなことしないからっ! フリートも、たぶんやらないと思う!」
「それがもう騙されていると言っているんだ!」
「分からず屋!」
「何も分かっていないのは君のほうだ!」
「頑固! 石頭! 一人で勝手に決めつけるバカ男!」
「黙れ! 僕は帝国に住む人達の平和のために言っているんだ!」
「シャイナだってみんなのこと考えて行動してるんだから!」
「それで革命を起こした奴らと協力しようというのがふざけているんだ!」
「ふざけてなんかないんだから!」
「君も話にならないな!」
二人はそうやって大声を浴びせあっている。いまにも取っ組み合いのケンカを始めそうなくらいに。
バチバチと火花を散らすそんな二人を止めようとしたとき、先にリダエルが二人に言った。
「まあまあ二人とも。俺達がケンカしてどうする。こういうときこそ、きちんと冷静に考えて話し合わないとな」
「リダエル団長、しかし……っ」
言おうとするサムソンを制するように。
「まずは頭を冷やすんだ、二人とも。見てみろ、シャイナやウィズはさっきからずっと落ち着いているじゃないか。もちろん、俺もだけどなっ」
ニカッと笑いながら、リダエルが自分を親指で示す。それに対してサムソンは口答えしようとはせず、
「…………っ」
なんか、いまにも斬りかかってきそうな目付きで俺のことをにらんできた。すげえメッチャ怖ええ。
そんな内心を顔に出さないように努力していると、今度はウィズが口を開いて言ってくる。
「かつての敵と協力態勢を築く、か……相変わらず、シャイナは予想外のことを考えるな。突拍子もないともいえるが」
「ほめてるわけ、じゃあねえよな。でも、俺は本気なんだ」
「聞いていれば分かるさ。だが言うは易し、おこなうは難し、だ。サムソンの意見も確かにその通りだろう?」
「…………」
口を閉ざす。
フリート達のことを俺は信じたいと言った、エイラは信じられると言った……だが、それは確かに二人の主観や気持ちに過ぎない。
無論、フリート達のことを疑っているわけじゃあないが……なにも知らない第三者からすれば、奴らはいまだに革命を起こした敵で、容易には信じられない者達だということも、分かっているつもりだ。
今後を思考して、口を開ける。
「否定は……現段階では完全にはできない。だが、俺達は信じたいし、信じられると思ってる」
サムソンがまたなにか言ってこようとするのを、リダエルがちょっと待てというように止める。
「だから、皇帝にもこのことを俺が直接話したいし、できれば、フリートとの会談の場を設けたいとも思ってる。三人にはその協力をしてほしいんだ」
「君はどこまで……っ⁉」
怒鳴り声を上げようとするサムソンに、ウィズがやめろと言わんばかりに手を伸ばして制止する。
そしてこちらを真剣な目で見つめながら。
「…………、フリートと会談するかはともかく、とりあえず、今日の話は陛下へと伝えておく。陛下のお答えに関しては、後日、二人に伝えよう。とりあえず、今日はこれで良しとしてくれ」
「…………、分かった。話を聞いてくれただけでも、ありがとな」
「なに、礼には及ばん」
今日はこれで引き上げよう。皇帝に話を伝えてくれるだけでも、上々だ。
0
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる