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第二部 炎魔の座

第四十四話 俺達は信じたいし、信じられると思ってる

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「ふざけているのか、シャイナ……⁉」


 フリートとの協力態勢を築くという話を聞いて、開口一番、サムソンは怒り顔でそう言ってきた。
 場所は帝国城内の会議室。話し合いの顔触れはウィズとリダエルと、それとサムソンも。現在は騎士団の名誉顧問だから、一緒に聞いたほうがいいかもしれないとは、リダエルの言。
 当初はウィズに頼んで皇帝に直接話をしようと思っていたのだが……。


『陛下は色々と忙しい身だ。いくらこの帝国を救った英雄の頼みでも、簡単に会えるわけではない。大事な話があるというのなら、まずは私が先に聞こう』


 とウィズに言われてしまった。まあ要するに、皇帝と謁見して直接話すほどの内容かどうか、先に聞いて判断するということだ。
 普通なら門番とか、騎士団や魔導士団の検問係みたいなのが調べるみたいだから、団長二人と名誉顧問が直接聞いてくれるだけでも、かなりありがたいことではある……のだが……。


「ふざけてるわけじゃない。大真面目だ。俺はフリート達とちゃんと話し合えば、互いに理解し合えるし協力し合えると思ってる」
「それがふざけているといっているんだ……っ! 奴は皇帝陛下を殺して、この帝国を転覆しようと企んでいたんだぞ! 協力し合えるはずがない!」
「そんなことはないはずだ。げんに、俺はフリート達にもこのことを話してきたが、奴らは話を聞いてくれた」
「そんなのはただの聞いた振りだろう! 腹のなかでは、再び皇帝陛下を殺すチャンスだとほくそ笑んでいたらどうする⁉」
「フリート達はそんなことはしない、はずだ。少なくとも、俺にはそうは見えなかった」
「それは君の主観に過ぎない! 現実はそんなに甘くない!」
「現実が甘くないことは俺だって充分すぎるくらい分かってるさ。でも、それでも俺はフリート達を信じたいんだ」
「話にならないな!」


 興奮をぶつけるように、サムソンがテーブルをバンッ! と手のひらで思いきりたたく。そのあまりの強さに、テーブルに置かれていたペンやメモ帳や卓上カレンダーなどといった小物が少し宙に浮いた。
 決めつけて否定するサムソンに、エイラもさすがに我慢できなくなったのか、少し怒った声音で食ってかかった。


「相変わらず頑固の分からず屋! なんでいつもそうやって一人で決めつけるの!」
「エイラには関係ない! 黙っててくれ!」
「関係ないわけないでしょ! わたしだってシャイナと一緒にいて、話を聞いてるフリートやヨナさんやトリンちゃんのことを見て、みんななら大丈夫だって、信じられるって思ったんだから!」
「それだって君の主観だし、奴らが君を信じさせるために演じていただけだとしたらどうする⁉ 革命家のフリートに、ポーカーフェイスのヨナ、他人を糸で操れるトリンだぞ、それくらい朝飯前で出来るだろう!」
「少なくともヨナさんとトリンちゃんはそんなことしないからっ! フリートも、たぶんやらないと思う!」
「それがもう騙されていると言っているんだ!」
「分からず屋!」
「何も分かっていないのは君のほうだ!」
「頑固! 石頭! 一人で勝手に決めつけるバカ男!」
「黙れ! 僕は帝国に住む人達の平和のために言っているんだ!」
「シャイナだってみんなのこと考えて行動してるんだから!」
「それで革命を起こした奴らと協力しようというのがふざけているんだ!」
「ふざけてなんかないんだから!」
「君も話にならないな!」


 二人はそうやって大声を浴びせあっている。いまにも取っ組み合いのケンカを始めそうなくらいに。
 バチバチと火花を散らすそんな二人を止めようとしたとき、先にリダエルが二人に言った。


「まあまあ二人とも。俺達がケンカしてどうする。こういうときこそ、きちんと冷静に考えて話し合わないとな」
「リダエル団長、しかし……っ」


 言おうとするサムソンを制するように。


「まずは頭を冷やすんだ、二人とも。見てみろ、シャイナやウィズはさっきからずっと落ち着いているじゃないか。もちろん、俺もだけどなっ」


 ニカッと笑いながら、リダエルが自分を親指で示す。それに対してサムソンは口答えしようとはせず、


「…………っ」


 なんか、いまにも斬りかかってきそうな目付きで俺のことをにらんできた。すげえメッチャ怖ええ。
 そんな内心を顔に出さないように努力していると、今度はウィズが口を開いて言ってくる。


「かつての敵と協力態勢を築く、か……相変わらず、シャイナは予想外のことを考えるな。突拍子もないともいえるが」
「ほめてるわけ、じゃあねえよな。でも、俺は本気なんだ」
「聞いていれば分かるさ。だが言うは易し、おこなうは難し、だ。サムソンの意見も確かにその通りだろう?」
「…………」


 口を閉ざす。
 フリート達のことを俺は信じたいと言った、エイラは信じられると言った……だが、それは確かに二人の主観や気持ちに過ぎない。
 無論、フリート達のことを疑っているわけじゃあないが……なにも知らない第三者からすれば、奴らはいまだに革命を起こした敵で、容易には信じられない者達だということも、分かっているつもりだ。
 今後を思考して、口を開ける。


「否定は……現段階では完全にはできない。だが、俺達は信じたいし、信じられると思ってる」


 サムソンがまたなにか言ってこようとするのを、リダエルがちょっと待てというように止める。


「だから、皇帝にもこのことを俺が直接話したいし、できれば、フリートとの会談の場を設けたいとも思ってる。三人にはその協力をしてほしいんだ」
「君はどこまで……っ⁉」


 怒鳴り声を上げようとするサムソンに、ウィズがやめろと言わんばかりに手を伸ばして制止する。
 そしてこちらを真剣な目で見つめながら。


「…………、フリートと会談するかはともかく、とりあえず、今日の話は陛下へと伝えておく。陛下のお答えに関しては、後日、二人に伝えよう。とりあえず、今日はこれで良しとしてくれ」
「…………、分かった。話を聞いてくれただけでも、ありがとな」
「なに、礼には及ばん」


 今日はこれで引き上げよう。皇帝に話を伝えてくれるだけでも、上々だ。



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