【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)

文字の大きさ
上 下
117 / 235
第二部 炎魔の座

第二十九話 なんでか分からねえが、気持ちがざわつくんだ

しおりを挟む
 
「ガハハハハッ!」


 ボス海賊の笑いが周囲に響き渡る。そうしているうちにも、街の建物は次々と砲撃されていっていた。


「くそっ! とにかくあの大砲をなんとかしねえと!」


 港にある海賊船に手をかざす。光魔法で攻撃しようとするが、そのときヨナが言ってきた。


「……やめたほうがよろしいかと……ここから港までは距離があります。建物の陰に隠れて見えない海賊船もあるでしょう。それらをあなたの光魔法で攻撃しようとすれば、街にも被害が出るかと……」
「……く……っ……⁉」


 確かにその通りかもしれない。あれらの海賊船を一掃しようとすれば、街もまたその余波を受けるだろう。
 だからといって、一隻一隻片付けていったり、港まで行ってから攻撃していたのでは、その間に街が砲撃されてしまう。
 いずれにしても、街には甚大な被害がもたらされてしまうだろう。


「だったらどうすりゃ……⁉」


 とにかくなにか打つ手を考えねえと……策を講じるために頭をフル回転させようとしたとき、ヨナはふと顔を空に向けた。本当になにげない自然な動作で、まるでいままで忘れていたことを思い出すように。


「……心配する必要はありません……私がここに来た目的は、はぐれてしまった魔物を回収するため……そして、いま来たようです……」
「え……あ……!」


 その言葉で思い出す。そうだった、ヨナも、また俺も、いまこのパラニアの街にいるのは偶然ではなく、ある目的のための必然だった。
 ヨナが見上げたように、空を見上げる。街からの煙が立ち上る空、その向こうにある太陽を覆うように、一つの巨大な影が翼を広げて飛行していく。
 地面にもその黒い影が落ち、一時的に視界が暗くなる。空を飛ぶ影は猛スピードで港まで向かっていき、そこにある海賊船の一隻へと、まるで弾丸のように急速落下していった。
 衝撃音が鳴り渡る。大砲が撃たれた音ではない。あの巨大な赤い鳥が海賊船を破壊した音だ。


「……やっぱりあいつはおまえらの仲間だったのか……」
「……ええ……そうおっしゃるということは、あなたがこの街にいる理由も、あの魔物だったということですね……」


 つぶやき声に、ヨナもまた返してくる。彼女の推測は半分当たっているが……いまはそれについて話している余裕はなさそうだ。


「とにかく、あの赤い鳥の援護に向かわねえと……!」
「……その必要も、おそらくはないかと……」


 急いで港に向かおうとしたとき、赤い鳥が再び空中へと舞い上がる。いまだ残っている船上の海賊達が抵抗しているのか、拳銃の発砲音が聞こえてくる。だが赤い鳥はそれらには構わずに空中で翼を大きく広げると、大量の赤い羽根を他の海賊船へと降り注がせた。
 それはさながら赤い弾丸の雨であり、港に残っていた海賊船が見る見るうちに赤色に染まっていく。


「……あの魔物の羽根はとても強靭で、一枚一枚がナイフくらいの威力を誇ります……その雨を受ければ、周りの海賊船などひとたまりもないでしょう……」


 淡々とした口調でヨナは説明する。そんな彼女にちらりと目を向けつつ。


「……海賊達も死ぬ、ってことだよな……」
「……あなたらしい言葉ですね……」


 彼女の口元がかすかに笑んだように見えたのは……おそらく気のせいや見間違いだったのだろう。


「……あの魔物にそのような容赦はありません……そもそも、この街を襲った者達の心配をする必要もないでしょう……」


 そしてヨナは付け足すように。


「……なにかを襲うのならば、返り討ちに遭う覚悟を持つべきです……よくいうでしょう、殺せる者は殺される覚悟のある者だけ、だと……」
「…………」


 ……なんとなくだが、師匠みたいなことを言う奴だな……。
 ヨナは感情を見せない瞳を向けてきながら。


「……それとも、あの海賊達を助けるために、私やあの魔物と戦いますか? ……私は別に構いませんが……まあ、フリート様に勝ったあなたに勝てるかは別として……」
「…………」


 そんな彼女に一度目を向けたあと、港の海賊船を見やりながら。


「……俺の師匠が言っていたことがある……悪人が死にそうになっていたとしても、助ける必要はない。そいつがそうなるのは自業自得だし、そいつを助けることで将来的にもっとたくさんの被害が出る可能性のほうが高いから……って」
「…………」
「正直なところ、俺もそう思った。頭ではそう思ったし、理屈も分かってるし、悪人に襲われた奴らのことを考えれば助ける必要も義務も義理も、微塵も存在しないことは理解している……」


 そのはずなのに。


「……だが……なんでか分からねえが、気持ちがざわつくんだ。なにか大事なものをなくしたときのような、どこかも分からない場所に落っことしちまったときのような、そんな気持ちになるんだ……」


 ヨナのほうをもう一度ちらりと見る。


「もちろん、これは俺だけの問題だ。だから、おまえらに強制するつもりはないし、こんなことで戦うつもりもない。こいつらは海賊で、この街を襲った悪人なんだから、助ける必要なんてないんだからな。街の人達を助けるほうを優先しねえと」
「…………」


 港のほうに目を戻す。赤い鳥はいまだに海賊船を攻撃していて、何隻も並んでいたそれらは次々と破壊されて沈没していっていた。
 その様子を、ただただ黙って見続ける。さっき口にしたばかりの、心がざわつくのを感じながら。それでも仕方のないことだと、割り切って。
 そのとき、不意にヨナがつぶやくように言った。


「……あなたとあなたの師匠の話を聞いていると、昔の知り合いのことを思い出すようです……彼らもまた、同じようなことを言っていました……」
「え……?」


 ヨナに顔を向ける。彼女は港を見据えたまま。


「……特に、あなたは彼に似ている……どことなく……」
「……彼……?」


 いったい誰のことだ?
 しかしヨナはそれについては触れずに。


「……ただ、あなたの師匠は、もしかしたら私の昔の知り合い、その人かもしれませんが……」


 そう言うと、自身の足元に影の魔法陣を展開すると、その身を影に包ませて消えていった。


「ヨナ……?」


 どこに消えたのかと、思わず辺りを見回す。すると、港の上空にいた赤い鳥が攻撃をやめて、その代わりとして、港にある海賊船を巨大な黒い影が包み込んでいった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...