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第二部 炎魔の座

第二十七話 ……お久しぶりですね……こんなところでまたお会いするとは……

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「ハッハッー! 俺の勝ちだ! そのまま血の噴水を上げて死ねや!」


 勝利を確信した奴の声が響き渡る。
 ……カウント、ゼロ。
 これで奴が持つ拳銃の弾倉に残弾はなくなった。新たに弾丸を装填するには、多少の時間が掛かる。
 勝負を決めるなら、いまが絶好のチャンスだ。
 ……ライトテリトリー。
 奴が闇魔法で強化した弾丸で狙った心臓部には、小さな板状にしたライトテリトリーを服の裏側に展開して、弾丸を防いでいた。奴の闇魔法がもっと熟練されたものであれば貫通されたかもしれなかったが、なんとか助かったぜ。
 そして不敵に少し笑む。すぐさま右手で心臓部にある弾丸をつかむと、視界の先、建物の頂上部で天を仰ぐように両手を上げて勝利を叫んでいる奴へと、その弾丸を投げ飛ばした。
 光の魔力によって身体は強化されており、それはまた投擲スピードにも反映されている。投げ飛ばした弾丸は、奴が拳銃から撃ったとき以上のスピードで、それこそ音速に近いような速さで拳銃を持つ奴の手に命中した。


「グワ……ッ⁉」


 奴の手から血が噴き出し、持っていた拳銃を取り落とす。それは建物の縁に一回当たって金属的な音を立てると、そのまま地面へと落下していく。


「イッテーェェェッ! な、何だいまのは⁉」


 血が流れ出る手を押さえながら奴が叫ぶ。と同時に。


「……グロウアロー……」


 俺は光の矢を作って、それを手につかんだまま、奴がいる建物の頂上部へと射出した。光の矢は猛スピードで身体を上空まで連れていき……頃合いを見計らって、つかんでいた手を放す。


「な……ッ⁉ テメエ! 生きて……ッ⁉」


 防御や回避、反撃などの行動をさせる時間を与えるつもりはない。目を開いて驚きの声を上げる奴の頭へと、怪我していないほうの足を大きく振り上げて、落下の速度を上乗せしたかかと落としを食らわせた。


「グブ……ッ……⁉」


 奴がうめき声を漏らすなか、建物の縁の上に着地する。相変わらず片目の視界は塞がったままだし、片足も血が流れているが、なんとかバランスを保つことに成功した……と思っていたら。
 今度は奴のほうがバランスを崩して落下しそうになっていた。


「おっと、落ちそうになってんじゃねえよ……って、気絶してんのか」


 どうやらさっきのかかと落としで気を失ったらしい。とにかく奴が落ちないように、首根っこをつかんで引きとどめる。


「ここで落ちて死んだら、俺のせいになっちまうからな……悪人にこんなこと言うのも、あれなんだが……」


 我ながら難儀な性分だと思う。こいつは悪い奴だからと、見捨てることができれば、どれだけ楽になるだろうかと思うときも、あるにはある。
 まあ、それはともかく、奴の身体を落ちないようにしたとき。


「ぐ、こいつ、結構重えな、もっとやせろよ……って、やべ……っ」


 いまは片目が見えず、片足も怪我をしている状態だ。なおかつここは足場の悪い建物の頂上部の縁であり、自分一人がバランスを保って立っているだけでも一苦労なのに、それを二人分。
 注意はしていたのだが、バランスを崩してしまった。


「おおお……っ⁉」


 ボス海賊ともども、再び地面へと落下していく。半ば仕方のないことだったといえるかもしれないが……ミスっちまった。
 とにかく、こいつも含めて、なんとか助からねえと……!


「ライトテリトリー!」


 自分達の身体を取り囲む、でかい立方体の光の結界を展開する。小さな板のときでさえ、闇魔法で強化された弾丸を防いだんだ。地上からは十メートル前後、あるいはそれ以上かもしれないが、それくらいの高さからの落下の衝撃くらい、簡単に防げるはず……。
 ……たぶん……おそらく……きっと……。


「うおおお……っ⁉」


 レンガを敷き詰めて舗装した固い地面が迫ってくる。大丈夫だよな……⁉ ちゃんと衝撃を防いでくれるよな……⁉ 信じてるぜ光の結界……⁉
 ほんとに大丈夫だよな⁉


「おおおお……っ⁉」


 いまにもライトテリトリーの一端が地面にぶつかろうとした、そのとき。


「……シャドーテリトリー……」


 聞いたことのある、ややダウナー気味の声。それとともに地面に平たく伸びた影の結界が展開されて、まるで巨大なクッションのように、落下の衝撃を和らげていく。
 ……これは……この影の魔法は……⁉
 なんとか無事に地面につき、光の結界と影の結界が消えていく。とはいえ、衝撃を完全にゼロにしたわけではなく……。


「いてて……」


 頭に軽く手を当てながら上体を起こす。ボス海賊も依然気絶したまま地面に転がっているが、落下による目立った外傷は見受けられなかった。
 と、そうしていると声を掛けられる。


「……お久しぶりですね……こんなところでまたお会いするとは……」


 顔を上げて、声の主を見やる。
 きらめくような長い銀髪と銀色の瞳、身にまとうの闇を彷彿とさせるような漆黒のローブ。感情の起伏に乏しい無表情ながらも、端正な顔立ちをしたその女は……。


「……ヨナ……」


 フリートやトリンの仲間であり、影魔導士でもある、ヨナだった。



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