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第二部 炎魔の座

第二十四話 ダメだ! 距離が遠い! 間に合わな……っ!

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「これは……いったいなにが……⁉」


 街の通りには人々が逃げ惑い、あるいは身体から血を流して倒れ、あるいは悲鳴を上げている。つい数時間前には予想もできなかった光景が、そこには広がっていた。
 その原因はすぐに分かった。船乗りのような格好をした数十人の男達が、手に手に武器を持って、街を襲っていたのだ。


「あいつらが……⁉」


 彼らの服はいずれも薄汚く、ずっと髪やヒゲを切っていないのか、伸びっぱなしになっている。肌も垢だらけで、日焼けしているのか、浅黒い。
 そいつらは街の建物や人々を襲い、金品を奪いながら、口々に。


「ひゃっはー!」


 だの。


「奪え奪えー! ひゃはははは!」


 だの言っている。
 街に配属されている官憲達が奴らに対抗しているが、相手の数のほうが多く、一人また一人と血を流して崩れていっている。
 そして奴らの一人が、街の入口にいる俺達に気付いた。


「おい! あいつらも襲え! 男は殺せ!」
「ひゃっはー!」


 血に濡れたサーベルを振りかざしながら、数人が迫ってくる。どうやら、こいつらは海賊の類いで、貿易で賑わっているこの街を襲撃してきたらしい。


「シャイナ! 来るよ!」
「分かってる! さっさと返り討ちにして、街の人達も助けるぞ!」
「うん!」


 市街戦であるため、規模の大きな魔法を使うと、街の人達まで巻き添えにしかねない。だから足元と両腕に光の魔法陣を展開し、両足と両腕に淡い光をまとわせて……。


「おとなしく寝てやがれ!」


 ひゃっはー! などと奇声を発しながら襲いかかってくる奴らを、猛スピードで瞬時に距離を詰めて、次々と固い地面に沈めていく。


「なんだこいつ!」
「クソが! こうなったら全員でかかれ!」


 倒れる仲間達を見て、周りにいた連中が目の色を変えた。本気で殺るために、近くにいた奴らがまとめて襲いかかってくる。


「一気にくるなら、こっちとしても好都合だ!」


 サーベルや長剣など、奴らは手に鋭利な武器こそ持っているが、魔法は使ってきていない。一人一人の実力もたいして強くないため、文字通り、瞬く間に奴らを全員気絶させていく。


「やった!」


 喜ぶ声を出すエイラへと、声をかける。


「エイラ! エイラは怪我をした人達の治療と、安全な場所への避難誘導を頼む! 俺は他の場所で暴れてる奴らを倒して、怪我した人達をここに運んでくる!」
「分かった!」


 言われた通りのことをエイラがし始めて、俺もまた猛スピードで街のなかを駆け巡っていく。
 他の場所では、街にいた他の冒険者達も応戦していて、そいつらを手助けする形で海賊どもを蹴散らしていった。そして冒険者達にもエイラと同じような指示を出して、街の人達の救助を進めていく。
 そうやって街中の海賊の掃討と人々の救助をしていたとき、離れたところから聞いたことのある声が聞こえてきた。


「おい、大丈夫か、ぼうず⁉ いま治療できる奴のとこまで運んでやるからな!」


 ブーモだった。奴はレンガでできた建物のそばに倒れている男の子の身体を起こして、背中におぶろうとしているところだった。


「ブーモ!」
「シャイナか⁉ エイラさんはどこだ⁉ この子が大怪我をしているんだ!」


 子供の身体からは大量の血が出ていて、おぶっているブーモの背中や足元を赤く染めていた。


「エイラは街の入口だ! ここからだと遠い! その子は俺が運んで……」


 言いながら、子供を受け取ろうとブーモへと向かおうとしたとき、身体の芯から揺さぶるような轟音が響き渡り、ブーモ達のいる建物の上部が崩れ落ちてきた。


「「なっ⁉」」


 いまの音の正体を考えている余裕などはない。すぐさまブーモ達を助けようと、淡い光をまとった足で地面を蹴って駆け出すが……。
 ダメだ! 距離が遠い! 間に合わな……っ!
 手を伸ばすが届かない。その目の前で、ブーモと子供の姿は、落下してきた瓦礫に飲み込まれていった。


「…………っ⁉」


 そんな……ウソだろ……⁉
 目の前で起きた光景を信じられず、夢だと思いたい気持ちをあざ笑うように、巨大な瓦礫の下からは真っ赤な血溜まりが広がっていく。じわじわと……服に付いた染みが広がって、にじんでいくように……。
 だが、まだ間に合うかもしれない、とにかく瓦礫をどかさねえと!
 瓦礫をどかすために持ち上げようとしたとき、視界の端からなにか小さい物体が高速で突っ込んでくる。側頭部を狙ってくるそれを、とっさに頭をずらして避けたとき、通りの向こうからヒューッと感心したような口笛が聞こえてきた。


「マジかよ! 凄えな! 弾丸を避けられるなんて本当に人間かよ!」


 弾丸だと。
 そちらに目を向けると、薄汚れた服に、つばの広い特徴的な帽子、そして右目に傷跡のある男がいた。格好からして、街を襲撃した海賊どものボスといったところか。
 その手に持っているのは……。


「ククク、でもまあ、魔法で身体強化してんのなら、避けられても仕方ねえか」


 その手に持つ武器をこれ見よがしに掲げて。


「ククク、この国の人間なら初めて見るか? 拳銃っていうんだぜえ。剣や槍と違って離れていても攻撃できるし、一発当てれば致命傷になるし、剣術や槍術も必要ない優れものなんだぜえ」


 先端の筒になっている部分を、べろりと汚い舌でなめながら、海賊のボスが気色悪く笑みながら言う。
 ……くそっ……早くブーモ達を助けねえといけねえのに……っ……。



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