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第二部 炎魔の座
第二十二話 見つけたよっ! 赤い鳥の魔物っ!
しおりを挟むバーの入口前の通りにて。ブーモとの話に一区切りがつき、その別れ際でのこと。
「二人は今夜は宿屋に泊まるのか? なんなら俺の屋敷に来な……いや、やっぱりやめとくか」
「なんだよ、宿代が浮くかと思ったのに。誰か、他に来客でもあんのか?」
「いや、そういうことじゃなくてな。熱愛中の二人の邪魔しちゃ悪いな、と」
「それは違えって! あれは記者が勝手に書いたやつで!」
「はっはっはっ、分かった分かった」
冗談だと思っているのか、ブーモは笑っている。他の奴に対してもそうだが、この話題を出される度に否定しなくちゃいけないのは、正直かなり面倒くさいし疲れる。
ほんと、ジーナのやつ、厄介なことをしてくれたもんだ。
ブーモは続けて。
「まあそれはともかく、赤い鳥の魔物の件、うまくいくといいな。おまえの言ってることは理想論だとは思うけど、うまくいけば、本当にこの国のためになるだろうし」
「……ああ……なんとかやってみるさ。こっちこそ、いろいろと聞けたこともあるし」
「英雄さまのお役に立てたんなら、そりゃ良かった」
赤い鳥の魔物について新しく分かったこと……その赤い鳥は魔物や動物を狩るときには、鋭いくちばしや足の鉤爪を使って捕食するらしい。
また明確な体色を持つ魔物は、その色に該当する魔法や特技を使う場合があるが……赤い鳥は炎熱系の魔法や特技を使ってはいないらしい。
まあ、炎魔法はいまは使えないので当たり前だが、特技も使わないとなると、本当にただ単に体色が赤いだけなのかもしれないな。
「赤い鳥には明日行くんだろ? 頑張れよ」
「おう。おまえもな。あとクラインさんとステラさんに会ったら、よろしく言っといてくれ」
「…………、ステラさんにも言っていいのかねえ……」
ぼそり、と、ブーモはつぶやいた。
「え?」
「……いや……国を救った英雄さまにも、鈍いところはあるんだな、と」
「はあ?」
「分かってねえならいいよ。とにかく、頑張れよ。それじゃあな」
そう言うと、ブーモは手をひらひらと振りながら、背を向けて街灯の灯る通りを去っていった。
「……俺ってそんなに鈍いか?」
隣に立つエイラに聞いてみるが、彼女はジト目で見返してきて。
「……はあ……」
なんか溜め息をついてきた。なんでだよ。
そして翌日。朝食を食べたあと、街の馬車組合に向かって、一頭の馬を借り受ける。
その際に馬車組合のおっさんが。
「馬だけでいいんで? 良かったら目的地まで運びますよ」
そう言ってきたが、いや、と首を横に振る。
「シーゲイザーっていう、赤い鳥の魔物がいる岩山地帯に行くんだ。他にも魔物がいるみたいだし、一応、万が一のことを考えてな」
「……へい、そういうことなら」
おっさんは素直に納得する。そのおっさんに馬のレンタル料を払って、エイラとともに馬に乗ると、目的の岩山地帯へと出発した。
「ぐへへ、シャイナの身体に密着密着ぅー、ぐへへへへ」
「おい、気持ち悪いこと言うな。あと変な笑い方をやめろ」
馬の手綱を握って走らせていると、エイラがそんなふうな変態発言をかましてくる。
やはり馬は二頭借りて、こいつとは別々に乗るべきだったか? もしくは荷台がついた馬車にして、エイラを荷台に突っ込んでおくとか。
「うへへ、シャイナぁー、背中に柔らかいものが当たってる感触があるでしょぉー、実は当ててるんだよぉー、うへへへへへ」
「悪い。おまえの杖を背中にしょってるから、なんのことだか全然分からん。なにか当ててんのか?」
「がっでむっ! どーりでなんか固いわけだっ!」
馬を借りるときに、荷運び用の道具も借りて、それを使って杖をしょっていた。
しかし後ろのエイラは。
「はっ⁉ 固い棒を柔らかいもので包み込む⁉ これはこれでありかもっ⁉」
「バカなこと言ってねえで、しっかりつかまってろよ。昼くらいまでには着きたいから、飛ばすぜ」
「……はぁーい」
エイラは素直に返事をする。……かと思えば。
「ふひひ、シャイナのお腹と胸板を触り放題ぃー、ふひひひひ」
「おいやめろ普通に気持ち悪い!」
やっぱりこいつはたたき下ろすか?
そんなこんなで、エイラのセクハラに耐えることしばらく。ようやく目的の岩山地帯にたどり着く。馬のスピードを落としながら。
「赤い鳥は岩山の上で海のほうを見ているらしいからな。注意してそいつを探すぞ」
「うん」
今度はちゃんと素直に返事をして、エイラは頭上の岩山に目を向ける。さすがに目的のものが近いから、ふざけたりはしないようだ。
視界の一方には青々とした海が広がっていて、吹いてくる風によって、独特の磯の香りが鼻腔をくすぐっていく。昼メシの前だからか、なんだか魚介類を食べたくなってくる。
おっと、いまはメシのことよりも、赤い鳥を探さねえとな。
と、そんなことを思っていると、エイラが声を上げた。人差し指で向こうの岩山を指差している。
「見つけたよっ! 赤い鳥の魔物っ!」
話に聞いた通りだった。その赤い鳥は岩山の上で、ただじっと海のほうを見つめ続けていた。
まるで、なにかを見張っているかのように。あるいは、なにかが来るのを待ち続けているかのように。
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