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第二部 炎魔の座
第十八話 それじゃあね、二人とも
しおりを挟む一夜明け、森で採れたというキノコ類や食べられる野草、イノシシなどの野生動物の肉などを調理した朝食を三人で食べる。
「肉もうまいけど山菜もうまいねえ。ところで森で採れたやつも山菜っていうのかな?」
「知らん」
会話を聞いてエイラが「あはは」と笑う。
食後のデザートには森の木の実や果物を食べた。
「まさか野生のリンゴが実ってる森だったなんてねえ。ところで食後のデザートっていうけど、まだ食ってるよね?」
「だから知らねえって」
さっきから細かいことを言ってくるな。
エイラがまた「あはは」と笑った。
そうした朝食を終えて、街に戻る準備も済ませて、午前十時ごろ、小屋の入口にて。
「そんじゃあ、俺達は街に戻る。火柱の原因の報告をしないといけないからな。師匠はしばらくはこの森にいるのか?」
「まあね、そのつもりだよ。転移の魔法具を持ってんなら、この小屋を転移先のリストに追加しておくといいよ」
「そうだな」
エイラとともに転移の指輪を起動し、空中に表示されたリスト一覧にこの小屋の位置を追加する。
師匠は続けて。
「それって通信魔法具も兼ねてるんだろ。ついでだから、通信魔力も交換しとこうか」
「それもそうだな」
「おまえは光の攻撃魔法ばっかりで、通信魔法は使えないからねえ。いやあ、便利な世の中になったもんだ」
師匠の元を離れたばかりのころは、こんな通信魔法具なんて持ってなかったからな。
師匠が自分の通信魔法のメッセージウィンドウを展開し、それぞれの通信魔力を登録する。これでいつでも連絡を取り合えるようになった……が。
「あ、一応言っとくけど、通信を入れられてもわたしはほぼほぼ無視するからね」
「……登録する意味ねえだろ、それ」
「おまえがわたしに連絡するときなんて、たいていメチャクチャ大変なときくらいだろ? めんどいことはなるべくしたくないんだよ」
「……否定できねえ……」
ただおしゃべりをしたいからという理由で通信をするつもりもないしな。
「でも、ま、通信自体は聞いてるからさ。わたし自身が出張ることはほとんどないけど、アドバイスくらいはするよ。はるか彼方からの先達としてね」
「そりゃどうも」
師匠がエイラに顔を向ける。
「それじゃあエイラ、シャイナのこと、よろしくね。こいつ、誰かが止めないとどこまでも突っ走っちまうから」
「はい。それはもう、充分に、身にしみて分かってます」
激しく同意するというように、エイラが大きくうなずく。
二人にはそういう人間として見られているらしい。……なんか、ちょっとショックなような、複雑な気分だ……。そこまでの無茶はしてないつもりなんだけどなあ……。
「そうだ、シャイナ、お別れのチューでもしようか?」
「やめろ、ロリババアのキスとか気持ち悪すぎる」
エイラも「……っ⁉」ってびっくりしてる。っていうかひいてるんじゃねえか、これ?
「まったく、照れ屋だねえ。がきのときは毎日のようにしてただろうに」
「おい! 平気でウソついてんじゃねえよ! そんなことなかっただろうが!」
「そうだっけ?」
「とぼけてんじゃねえ!」
エイラが口を大きく開けてびっくりしていた。というか、顔がなんか大変なことになっていた。擬音をつけるなら、ほわっ⁉ だろうか?
師匠はまったく気にしていないように。
「それじゃあね、二人とも。暇なときはいつでも遊びに来なよ。また楽しいおしゃべりでもしよう。あ、シャイナの場合はその前に一回バトってからね」
「なんで俺だけ⁉」
「あはは。じゃあね」
「……はあ……」
この師匠はほんとにバトることしか頭にないのか? 小さなため息をつきつつ、転移の指輪に魔力を込める。
全身が淡い光の泡に包まれ、視界のなかの、笑顔で手を振ってくる師匠の姿が徐々に薄れていく。
次の瞬間、視界の先に広がっていたのは、見慣れた帝都とでかい城の門だった。
「そんじゃ、ウィズのとこまで行くか」
「……うん……」
……なんかぎこちない、さっきの影響がまだ残っているらしい。
約十分後。
昨日話し合った会議室にて、ウィズに一連の報告を済ませると、彼女は。
「……なるほど、そういうことだったのか」
「ああ。まったく、はた迷惑な師匠で困る」
「…………」
ウィズは少し考える素振りをして。
「……時間魔法とは違う、時の力、か……」
「ああ。詳しいことは俺にも教えてくれないけどな。ただ師匠がメチャクチャ強いことは確かだ。それもとてつもなく」
「…………一度、会ってみたいものだな……」
どうやら興味を持ったらしい。が、釘を刺しておく。
「言っとくけど、師匠を魔導士団や騎士団に誘うつもりなら、やめといたほうがいいぞ。師匠はそういうのに一切興味がないから」
「…………」
「むしろ、しつこく勧誘したら、魔導士団や騎士団そのものを潰しかねないしな。師匠ならそれくらいのことは簡単にするし」
「……やれやれ……本当に規格外な人物らしいな。……だが、だからこそシャイナも規格外になったのかもしれんが……」
「……なんかその言い方だと、俺が常識外れの人間みたいだな……」
「悪い意味で言ったわけじゃないさ。むしろ良い意味で、だ」
「…………」
本当か?
ウィズは話題を転じるように。
「とにかく、調査と報告、感謝する。依頼報酬は口座に振り込んでおく。明日、確認しておいてくれ」
「ああ、分かった」
「また何かあったら依頼するかもしれない。そのときはまた、よろしく頼む」
「こちらこそ。それじゃあな」
「うむ」
ウィズと別れて、転移の魔法具で元の街へと戻っていく。さて、これからどうするか。
「昼までまだ時間があるな。どうする?」
「そういえば、ジーナさんに頼んでいた件、どうなったんだろ? あれから何日か経ってるし、なにか分かったことあるかも」
「んじゃ、ジーナのとこに行ってみるか」
「うん」
エイラの返答は普通に戻っていた。ようやくさっきのショックから立ち直ったらしい。よかったよかった。
…………あ。
「どうしたのシャイナ? 口を開けて」
「……あ、いや、そういえば、ジーナの連絡先を聞いてなかったな、と。フリーの記者だって言ってたから、どこかの新聞社に勤めてるわけじゃないだろうし」
「そういえば、そうだね。うーん……」
エイラは小さなあごに人差し指の先を当てながら、少し考える素振りをすると。
「とりあえず、この前の新聞を発行した新聞社に行って、聞いてみようよ。もしかしたら、なにか教えてくれるかも」
「そうするか」
他に方法も思いつかないし。
ということで、その新聞社に向かうことにした。
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