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第二部 炎魔の座

第十一話 『熱愛発覚! 帝国を守った英雄の素顔とは⁉』

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 二日後の昼間。街の公園、そのベンチにて。
 子供達の遊ぶ声やペットの犬と散歩している人々を尻目に、新聞紙を読んでいた。目的の記事はすでに見つけていて、新聞紙を持つ手がプルプルと震えている。
 その見出しはこうだった。


『熱愛発覚! 帝国を守った英雄の素顔とは⁉』


 間違いなくジーナが書いた記事だ。


「どうしてだよっ⁉ ボドゲのインタビュー記事じゃなかったのかよっ⁉」


 思わず叫び、手に力が入って新聞紙を縦にビリイッ! っと裂いてしまう。のどかな公園に響いた声に、周囲にいた人達がびっくりした顔を向けてきていた。


「わあっ⁉ びっくりしたっ⁉ いきなりどうしたのシャイナ?」


 掛けられた声に、そちらを向く。買い物の紙袋を両手で持つエイラがいた。その隣にはディアも。


「エイラ。それにディアも」
「ディアさんとはさっき会ったの。ギルドの外回りの途中で、ちょうど休憩しようとしてたみたいだったから、一緒にどう? って」


 ディアが軽く頭を下げてあいさつしてくる。


「こんにちは、です、シャイナ」


 その視線が破れた新聞紙に止まり。


「どうしたんですか? 新聞紙なんか破いて。なにか驚くようなことでも書かれてました?」
「…………」
「シャイナ?」


 どう答えるべきか難しい顔をしていると、代わりにエイラがディアに言った。


「そういえばね、ディアさん、わたし達この前、記者のジーナさんって人からインタビューされたんだよ」
「ええっ、そうなんですか……⁉」
「きっとシャイナはその記事を見つけたんじゃないかな。そうでしょ、シャイナ? ね、どんなことが書かれてたの?」


 ……こいつ、分かってて言ってんのか?
 ディアも興味津々といった顔を向けてきて。


「わあ、すごいじゃないですかっ。見せてくださいよっ」
「あ、いや、べつにわざわざ見せるもんでもないから……」
「えーっ、そんなこと言わずに」


 慌てて新聞紙を背中の後ろに隠そうとすると、ディアが覗き込もうとしてくる。
 それでもなおその視線を防ごうとしたとき、いつの間にかベンチの後ろに回り込んでいたエイラが、破かれた新聞紙を取り上げてしまう。


「ほらっ、隠してないでみんなで読もうよ」
「あっ、ちょっ、待てエイラ、ディア……!」


 新聞紙の破れた部分を合わせて、エイラとディアが新聞紙に視線を落とす。急いで止めようとするも、ときすでに遅し。ディアがびっくりした声を出した。


「ええっ⁉ 熱愛っ⁉ シャイナがっ⁉」
「……むふふ……」


 反面、エイラは口元が緩んでいた。笑みを隠そうとしているらしいが、完全には隠せていないで漏れている。
 記事の内容に気が取られているようで、ディアはそれに気付いていない。依然、驚きの顔と声で記事を読み進めていく。


「『先の戦争において帝国を魔の手から守った英雄のシャイナには、愛すべき伴侶が存在していた。それはヒーラーであり、二人旅のパートナーでもあるエイラという絶世の美人であり……』、えっ……⁉」


 ディアはさらに驚いた顔をエイラに向ける。エイラはというと、むふふ顔をディアに返していた。


「むふふ」
「…………っ⁉」
「いやー、ついにバレちゃったねー、わたし達が愛し合ってることー」
「…………っ⁉」


 ディアがこちらに顔を向けてきた。その表情は驚愕だけではなく困惑も入り交じっていて。


「どういうことですかシャイナっ⁉ まさか二人は本当に……っ⁉」
「ま、待てっ! 話を聞いてくれっ! これは誤解だっ! エイラとジーナが勝手に盛り上がってこんなことに……っ!」


 エイラが口を挟んでくる。


「んもー、シャイナったらぁー、この期におよんで恥ずかしがらなくていいのにぃー」
「シャイナっ⁉」
「エイラ! いいからおまえは黙ってろ!」


 それから、当のインタビューのときのことをディアに説明し、なんとか誤解を解こうとする。ディアはいまだに頭が半ば混乱しているのか半信半疑なのか、困惑した表情は残っていたが、それでも話を聞いて、なんとか納得してくれたようだった。


「…………なるほど……そういうことがあったんですか……」
「……ああ。まったく、エイラとジーナには困ったもんだ」
「…………」


 なぜかジト目で見てくる。やはりまだ疑っているのかもしれない。
 と、そこでエイラが言ってくる。


「それでそれで? 記事の続きはなんて書いてあるの?」


 こっちはこっちでニヤケ顔が収まっていない。ディアのびっくりした様子が相当面白かったのだろう。こいつ、ひとをおちょくって楽しむ一面があるらしいな。
 新聞紙に目を落とし、内容をざっくりと読み上げていく。熱愛部分については読みたくなかったので、無視した。


「『また英雄のシャイナに関して、彼の知り合いにインタビューして、その素顔を浮き彫りにしていった。以下はそのインタビュー内容である』」


 他にもインタビューしていたのか。しかし知り合い? 誰だ?


「『帝国騎士団名誉顧問のSさん(仮名):あいつは確かに強いが、性格的には独断専行する自分勝手な奴だ。何か問題があると、周りには相談せずに勝手に暴れて、周りにその尻拭いをさせるんだからな。もしシャイナに会うんなら、こう言っといてくれ。僕は必ず君よりも強くなって、君に勝ってみせる、と』。サムソン⁉ あいつもインタビュー受けてたのか⁉」


 続いて二人目。ベンチの右隣に座るエイラが読み上げる。


「『帝国騎士団団員のEさん(仮名):シャイナは一見すると真面目そうに見えて、その実、大の女たらしだからねえー。あたしが把握してるだけでも、もう数え切れないくらいの女の子が犠牲になってるよー。あなたも気を付けないと、ぱくりって食べられちゃうかも。あはは、まあ気を付けてねえー』」
「まさかエマか⁉ あのやろうっ!」


 人々に誤解を招くようなことを言うんじゃねえ!
 そして三人目。今度は左隣のディアが。


「『街の孤児院に勤めている魔法剣士のLさん(仮名):う、うむ、シャイナはいいやつだぞ、孤児院の子供達にも好かれているし、わたしも以前魔物に襲われそうになったところを助けてもらったしな。え? いや、もっとリラックスしてくださいと言われても、なにぶんこのようなインタビューを受けるのは初めてのことで……あ、こらおまえ達っ、いまはお客さんがいるからあっちに行ってなさいっ。……すまない、子供達に夕飯を作らなければいけないから、インタビューはここまででよろしいか?』」
「……ルナだな……」


 なんか迷惑を掛けたみたいで申し訳なくなる。
 そのようにして、一通り記事を読んだとき、転移魔法具でもある指輪に通信が入った。


『シャイナ。こちらはウィズだ。話があるんだが、いま時間はあるか?』


 帝国魔導士団団長のウィズ。まさかウィズも記事を読んだんじゃないだろうな。
 とてつもない嫌な予感がした。



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