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第二部 炎魔の座

第四話 タンマタンマタンマぁーっ!

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 サンドワーム。
 意味は砂ミミズ。その名前の通り、身体はミミズのように長く、しかしミミズよりもはるかに巨大な体躯を持つ。
 幸いというべきか、いま目にしているサンドワームは二メートル級であり、でかいことはでかいが、身長が二メートルの人間を相手にしていると思えば、そこまで脅威とは言えな……。


「ん……?」


 あれ? なんか、変じゃね?


「どうしたの、シャイナ? あのサンドワームはまだ遠くにいるけど、せっかく姿を見せてくれたんだから、いまのうちに攻撃したほうがいいんじゃ……」
「いや、それはそうなんだが……あいつ、ここから見て二メートルくらいあるよな?」
「なに言ってんの? ディアさんは二メートル級だって言ってたし、そんなの当たり前……」
「いやだから、ここから奴まで何メートルも離れてんのに、だぞ?」
「…………、あ……」


 エイラも気付いたらしい。
 そう、元々の大きさが二メートル級なら、数メートル離れた場所からはもっと小さく、それこそ数センチとか十数センチとかそれくらいの大きさに見えるはずで。
 なのに、距離が離れているのに二メートル級に見えるのなら……。
 たらり。冷や汗が一筋流れる。エイラと顔を見合わせると、彼女も不安の色を浮かべていて……。
 地面に衝撃音と震動が走る。地中からツクシのように身体を天に伸ばしていた奴が、地面に身体を落とした音と揺れだった。
 そしてまさにミミズのように、砂色の身体を器用に動かして、猛スピードで向かってくる。皮膚表面に硬い外骨格のようなものはなく、砂のようにザラザラとした質感が見て取れた。
 またおそらく頭部と思われる先端部分は、まさにミミズのように丸まった形状をしていて、目や耳や鼻などといった感覚器官は見当たらない。
 あれでどうやって周囲の様子を察知して、移動したり出来るんだ?
 などという疑問は、思い浮かんだそばから霧散していった。ドドドドッ! と地響きを鳴らしながら迫ってきた奴は、さっき気付いた違和感の正体を証明するように、まさしく二メートル級などとは到底言えないくらいに、はるかに巨大だったからだ。


「冗談だろ……っ⁉」
「シャイナ⁉ 早く逃げないと……っ!」
「そんな時間はねえっ!」


 十メートル? 二十メートル? 三十メートル?
 あまりにもでかすぎて、目測ではちゃんとは分からない。とにかくデカイ。一般的に言われている、魔物のサンドワームよりもはるかに。


「どういうことだよ⁉ デカすぎんだろ⁉」
「もしかして、フリートが連れてきた魔界の魔物だから⁉ この短期間で急成長したとか⁉」
「とにかく! 逃げる時間がねえなら、いま仕留めるしかねえ!」


 迫りくる巨大サンドワームに両手をかざし、その手のひらの先から光の魔法陣を展開する。奴はもう目の前まで来ており、呪文を詠唱している余裕もなかった。


「『ライトニングブラスト』!」


 魔法陣から眩い閃光のエネルギー波が放たれて、サンドワームの巨体を飲み込んでいく。周囲の全てが光の闇に包まれ、視界が完全に白一色に満たされる。
 サンドワームが身体に衝突した痛みや衝撃はない。閃光のせいではっきりとは分からないが、どうやら少なくとも奴の突進を止めることは出来たようだ。
 徐々に白い闇が晴れていき、視界の端に腕で目元を覆っているエイラの姿が映り込む。それとともに、目の前に身動き一つしない巨大な砂色のサンドワームも見えてくる。


「うう……た、倒したの? シャイナ?」


 いまだに眩しさが残っているように、目元の腕を少し下ろしながらエイラが聞いてきた。


「分からねえ……が、動かなくなったことは確かだ」


 光のエネルギー波が直撃したからだろう、砂色の身体だったサンドワームの表面は黒く変色していて、辺りにはわずかに肉が焼けたような匂いも漂っている。
 下級の魔物や耐久力の低い魔物なら、いまの一撃で跡形もなく消滅しているだろう。図体がデカイせいというのもあるだろうが、身体がそのまま残っているあたり、やはり魔界の魔物なだけあるということか。


「……いまの一撃で倒したんなら、いいんだがな……」


 黒焦げになったサンドワームはいまだに微動だにせず、はたから見ると死んでいるように見える。とはいえ、フリートが連れてきた魔界産の魔物だ。念には念を入れておいたほうがいいかもしれない。


「エイラ。視界が潰されないように気を付けてくれ」
「う、うん……」


 サンドワームに右手をかざしながら言うと、エイラは自分の目の近くにもう一度手を持っていく。
 さっきは呪文を詠唱している余裕はなかったが、今度は威力を上げてトドメを刺すためにも。


「『我が名はシャイナ。光魔を導く者なり。大地に横たわる魔界の異形を討ち滅ぼせ……』」


 そして威力を上昇させたライトニングブラストを放とうとしたとき、不意にサンドワームの身体が持ち上がり、頭部らしき先端部分がまるで花のようにガパリと開いた。
 そこに広がっていたのは、花などとは似ても似つかないグロテスクな光景だった。剣の刃のような、ノコギリの刃のような、硬いものでも難なく潰せる臼のような、そんな様々な形状の歯、歯、歯。
 飲み込まれたが最後、あらゆるものを跡形もなくズタズタにしてしまう凶悪な口が、深淵のように開かれていた。
 ……食われてたまるかよ!


「『……『ライトニングブラス……』』」


 今度こそ奴を仕留めるための魔法を放とうとしたとき。


「タンマタンマタンマぁーっ! ストぉーップ! シャイナぁーっ!」


 上空から聞き覚えのある声と、見覚えのある虹色の髪の少女が降ってきた。
 フリートの仲間であり、幹部の一人、縛魔導士のトリンだった。



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