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第二部 炎魔の座
第三話 理由が分かった気がしたから
しおりを挟む「悪いな、わざわざ乗せてもらって」
「いえ、魔物を討伐してくれるというのなら、これくらいのことは」
幌馬車に揺られながら、御者台にいるおっさんと会話する。この幌馬車とおっさんはキャラバンの仲間とのことで、サンドワームの出現地域に向かおうとしたときに声を掛けてきてくれた人だった。
「正直、助かった。クエストの現地まで歩いて行ったら、ものすごい時間が掛かっただろうからな」
「実はそのサンドワームの報告をしたのは私でして……討伐が終わったら、帰りも送りますよ」
「いや、転移の魔法具を持ってるから、街に帰るのは一瞬なんだ。ありがたいが、気持ちだけ受け取っとくよ」
「そうでしたか」
指にはめているのがその転移の魔法具で、魔導士団団長のウィズから借りているものだ。フリートとの戦いのあとで返そうと思ったのだが、ウィズから、
『返却する必要はない。持っていたほうが何かと便利だろう。こちらとしても、有事の際にすぐに連絡が取れるしな』
と言われて、またエイラからも、
『ウィズさんがそう言ってるんだし、せっかくだから、もらっておこうよ』
と説得されて、いまもまだこの転移の指輪は指にはめられている。
ガタゴトと揺れる幌馬車のなか、いまは荷物はなく、小さな洞窟のように空っぽになっている。おそらく積んでた荷物はすでに下ろして、新しい荷物を用意していたところだったのかもしれない。
「一応、乗せてくれた礼に、駄賃は払うから」
「ははは、ありがとうございます」
幌馬車から見える外の景色はまだ草原が広がっていて、目的の荒野まではまだ少し掛かりそうだった。ときおり野ウサギや野ギツネや顔を覗かせている。
のどかともいえるその景色を見るともなく見ていると、ふとそばにいるエイラが口を開く。
「うーん……」
なんか、いつになく悩みがあるような声音である。
「どうした?」
「うーん、どうやってサンドワームを地上に出そうか考えてて……地面のなかにいたら攻撃できないだろうし」
「おお、真面目なこと考えてやがる。なんか珍しいな。いつもふざけてるくせに」
「…………、あのねえ、さすがにこういうときくらいは真面目になるからね、わたしだって」
呆れ半分、文句半分という感じで言ってくる。
しかし確かに、エイラの言う通り、サンドワームを討伐するには、まず地中にいる奴を地上におびき出す必要があるだろう。どうするか少し考えてから。
「それじゃあこうしよう。俺が地面を揺るがすような魔法を使って、それに怒って俺に食いついてきた奴を仕留める。エイラは後方で補助魔法や回復魔法でサポートしてくれ」
「…………はあ」
なぜかエイラは深いため息をついた。
「あれ? この作戦、ダメだったか?」
「……なんか、シャイナが大怪我ばっかりする理由が分かった気がしたから。なんでそう、自分が危険なことばっかりするかなあ……みんなでパーティー組んでたときは、そんなこと……いや、あるときもあったけどさあ……本当にたまにだったよね?」
「…………、あんときは、サムソンが作戦の立案や指揮を主にしてたからな」
「…………」
サムソンが立てる作戦は基本的に誰かをおとりにしたりすることはなく、出来る限り堅実で確実なものが多かった。だからこそ、様々な危険で獰猛な魔物を討伐するときも、パーティー内での死者はなく、怪我だけで済んでいたところがある。
まあ、いま思い返せば、の話だが。
「それじゃあ、他になにか案はあるか? 俺とエイラで出来るような」
「……思いつかないけどさあ……」
「なら、俺の作戦でいくってことで」
「……はあ……絶対に死なないでよね……さすがのわたしでも、死んじゃったら生き返らせられないんだから」
「分かってるって。心配すんな」
「……なんか、心配だなあ……いや信頼はしてるんだけどさあ……はあ」
もう一度、エイラはため息をつく。
なんつーか、怪我を治すことがヒーラーとしての修行につながるからと、コンビを組んだのに、なんでため息をつくんだ……?
と、そんなことを言ったら、なんとなく怒りそうだったので、言わないことにした。
そしてしばらくの時間が流れて、目的の地域の手前にたどり着く。
「あんがとな、おっさん。この先は危険だから、街に戻っててくれ。あと、ここまでの駄賃だ」
「……お気をつけくださいね」
幌馬車から下りて駄賃を手渡すと、おっさんは心配そうな顔を向けてくる。
それを安心させるためかは分からないが、一緒に幌馬車を下りたエイラが、おっさんに笑いかけながら。
「送っていただいて、ありがとうございます、おじさん。そんなに心配しなくても、わたしとシャイナならちょちょいのちょいで、討伐しちゃいますから。早ければ今日の午後にでも、街にそのニュースが届きますから」
魔物を討伐したことはギルドに報告するが、そのあとで、ギルドから街の各新聞社や掲示板などにその討伐結果が伝えられる。それによって、街の人々は魔物の脅威が去ったことを知ることが出来る。
「……吉報を待っています。ご武運を」
不安を拭いきれないような表情を漂わせつつも、おっさんは幌馬車を運転して街へと戻っていった。
その後ろ姿を見送りつつ。
「……さて、と。そんじゃあ、いっちょミミズ退治でもするか。でっけえけど」
「気をつけてね、シャイナ。二メートル級のサンドワームが地面を掘り進んでいるのなら、この先は陥没する危険も充分あるから」
「ああ。分かってる」
真面目な顔でうなずいて、慎重な足取りで先に進もうとしたとき、大地にかすかな震動が感じられた。
「……どうやら、お出迎えみたいだな」
「……うん……」
エイラともども、臨戦態勢に入る。
その直後、数メートル先の地面から土ぼこりを上げながら、目的のサンドワームが姿を現した。
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